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賢者の胆石  作者: 佐藤謙羊
第2章
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39 昇進試験12

 通称『食堂塔』といわれる『水の塔』。

 そこは最上階がまるごと、生徒会長であるショウ専用の食事スペースとなっており、その下が側近の者たちの階となっている。


 さらにその下を生徒会役員が利用しているのだが、それぞれ専用の個室となっており、外から見ても誰が利用しているのかわかるほどの、独特な外観をしていた。

 この学園では生徒会役員ともなると、飯を食うのにも専用スペースが与えられ、しかも改築も自由らしい。


 マスゴミーが示したのは、その一角。

 赤い薔薇が咲き乱れる、可憐なる窓。


 その中にはセントバーナードが2匹、顔を出していた。


 いや、よく見たら1匹だけホンモノで、もう1匹は人間だった。

 名前のとおり、セントバーナードにそっくりのようだ。



『ねっ、バーナード君!? キミにとっては、レッド・ジャイアントの肩の角を剥ぐことくらい、簡単ですカァーーーッ!? 簡単ですよねぇーーーっ!?』



 マスゴミーの無茶ぶりに対し……。

 ソイツは謁見場の壁一面に大写しになりながら、こう言ってのけたんだ。



『フム……! (はく)がもし、アヤツの肩を狙ったならば……! 腰がクイックイッと入ったワンツーパンチだけで、両の角を昇天させていたであろう……! なぁ、アヴァランチェ……!?』



 なんだか耳に絡みつくような、ねっとりした声。

 隣にいた犬は『アヴァランチェ』というらしく、「ワンッ!」と鳴き返していた。



『ならばなぜ狙わなかったのかというと、拳闘犬けんとうけんとは紳士のスポーツであり、拳と犬を通じた、新しい愛のカタチ……! 相手のZスポット……! すなわち弱点を狙うのではなく、敢えて剛直なところに触れ合ってこそ、ともに高まっていける……! (はく)に言わせれば、Zスポットを攻撃して悦に入っている、あの無宿生(ノーラン)は何もかもが卑小、短小、矮小……! フゥム、まさに独りよがり……!』



 そしてチラリとカメラ目線になると、



『しかし、あのリコリヌとかいう仔犬(パピィ)は……! フゥム、なかなか見所がある……! 宝石のようなつぶらな瞳に、全身を包む、シルクのような毛……! そのドレスの奥に隠された、豊満かつ引き締まった肉体……! 飼い主(マスター)に従順なところも……! フゥム、また、いいっ……!』



 言葉以上に絡みついてくるような視線を向けられ、鳥肌が立ってしまった。

 変なのに見初められてしまったリコリヌはというと、暴れるレッド・ジャイアントの肩でバランスを取るのに夢中で、気付いていない。


 天地の塔の地下で、拳闘犬(けんとうけん)部のヤツらを指導したとき……。

 部長ともいずれ、やりあう日が来るんだろうな、なんて思いはしていたが……。


 まさかこんな嫌すぎる形で、お目にかかるとはな……!


 いずれにせよ、あの歪んだ犬好き野郎の相手はあとだ。

 なぜならレッド・ジャイアントの足元で戦っていた仲間たちが、ついに足の爪を剥がし飛ばしたからだ。


 レッド・ジャイアントは俺とリコリヌだけをずっと狙っていたから、ひたすら一方的に攻撃できていたらしい。

 それでも、たった4人での活き剥ぎ達成というのはかなりの偉業だ。


 観客席の注目が、「おおっ!?」とシトロンベルたちに集まる。

 俺とリコリヌは、いまだ駄々っ子モードのレッド・ジャイアントの肩から飛び降り、仲間たちの所に向かった。


 みんな無我夢中で連携攻撃を繰り返していたせいか、汗びっしょりだ。

 リーダーのお嬢様は、俺たちを見るなり真っ先に心配してくれた。



「あっ! セージちゃん、リコリヌちゃん! 大丈夫!? 怪我とかしてない!?」



「こっちはピンピンしてるよ。それよりも、やったなシトロンベル。これで2箇所剥ぎ取り達成だ」



「えっ、2箇所……?」



 俺は遠くに転がっている、肩の角を指さした。

 すると、仲間たちは今になってようやく、



「えっ……!? えええええええーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!?!?」



 あしながおじさんからの贈り物に気付いたような悲鳴をあげていた。



「あれって、肩の角じゃない!? いったいどうやって剥ぎ取ったの、セージちゃん!?」



 しかしそれを説明しているヒマはない。



「それについては後だ。この超デカブツがそろそろ立ち直るだろうから、俺はそろそろ行くぞ」



「ええっ!? 行くって、どこにっ!?」



「決まってるだろ。残りの部位を剥ぎ取るんだよ」



「えええええっ!? 2箇所剥ぎ取れたんだから、もう試験は達成だよ!? あとは、このまま時間まで逃げ回れば……!」



「どうせ攻撃から逃げるんだったら、戦ったって同じようなモンだろ。お前らは、安全な場所に……」



 するとシトロンベルは唇を噛み、一瞬だけ迷うような仕草をしたあと、



「だ……だったらわたしもやるっ! 残った左足を攻撃するっ! だっ……だって、セージちゃん、言い出したら聞かないんだもの! だったらわたしもやりたい! っていうか、これはわたしの試験なんだから、わたしがやらなきゃ!」



 可憐ながらも力強い瞳を向けられ、俺はなんだか嬉しくなった。

 しかし喜んでいる場合じゃない、俺は力強く頷き返す。



 ……ごほぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーーーーーっ!!



 不意に、噴火前の火山のような、空を震わせるほどの不吉な轟音が降り注いだ。

 見上げると、レッド・ジャイアントがショックが天に向かって怒りの雄叫びをあげていた。


 さぁて、いいかげん子守りのほうに戻らないと、そろそろヤバそうだな……!



「よし、それじゃあシトロンベル、左足のほうを頼む。しかし気をつけろよ、左足は右足より難しいはずだからな」



「えっ、どうして……?」



「ヤツは左利きだからだよっ! ゴーッ、リコリヌっ!!」



 俺はバイクでアクセルをふかしすぎたみたいに、上半身をのけぞらせながら急発進。

 ふたたび火山を吹き上げる、フェーンな風となった。


 ……ちなみにではあるが、なぜ俺がレッド・ジャイアントが左利きだとわかったかというと……。


 ヤツの攻撃である、足の踏みつけ、そして手の爪による魔法が、どちらも左側が最初だったからだ。

 咄嗟に攻撃をした場合、だいたい利き側が動くもんだよな。


 シトロンベルに最初に右足を狙うよう指示したものも、そのためだ。

 利き足じゃないほうが反応も鈍く、攻撃が来たとしてもよけやすい。


 初めて戦う敵に対して、免疫を作るにはちょうどいいと思ったんだ。


 そして俺が左肩の角を狙ったのも、同様の理由からだ。


 肩の角に近づこうとすると、強烈な叩きつけ攻撃がくる。

 その攻撃速度ももちろん、利き手のほうがずっと速い。


 しかし左肩に止まっている蚊を叩き潰すとした場合、どちらの手で叩くだろうか。


 そう、右手……!

 左肩は左手では叩けないから、利き手じゃない右手を使うしかないんだ……!


 いくらフェイントをかけたところで、レッド・ジャイアントが超反応を見せた場合、タッチの差で叩き潰される可能性がある。

 だから俺は少しでも攻撃速度が遅くなるよう、右手を使わせるべく、左肩を狙ったんだ……!

このお話は毎週金曜日は更新お休みなのですが、今回は私事により更新いたしました。

かわりに明日がお休みとなりますので、ご了承ください。


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