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「2人で森に入るなんて、何を考えているんだ!!」
翌日、事件解決の手がかりを見つけた私たちは褒められてもいいはずなのに、なぜか怒られていた。
ちなみに、怒っているのはアルのお父さん。そう、ニーゲリムの領主様である。
「……も、森に何か手がかりがありそうだなと思いまして。」
「だからと言って……アルシュア、お前だって知っているだろう?森に入ったら何が起こるか。」
「それは……でも、今回は起きませんでしたし。」
「もしもの事があってみろ。次期領主であるお前がいなくなったらニーゲリムはどうなるんだ?」
「それは……その時は、ハルディナが婿養子をとればいいんじゃないですか?」
「ニーゲリムのこともよく知らない者に任せられる訳がないだろ。」
「でも、今から勉強させたら父上の後を継ぐ頃には十分間に合うのでは?」
「ほう、お前は7歳の妹に将来をさっさと決めさせて、自分自身は自由気ままに居ようとしているのか?」
「違います!!というか、もしもの時の話じゃないですよね?今回は何も無いんだからもしもの話なんて今しなくていいじゃないですか。」
「お前には自覚が足りないんだ。いい加減自分の立場と向き合え。」
「俺はちゃんと自覚してます!!次期領主として俺がやれる事をしようとしてるんです。」
「それが森に入って身を危うくすることなのか?」
「危うくなんてしていません。」
ねえ、私の存在忘れてない?てか、話題変わってない?これ……私が止めなきゃ終わんないんじゃない?
「あの、ちょっといいですか。」
「リンどうした?」
「リンフェニ、何か話か?」
「父上、リンが用事があるのは俺です。話に入ってこないで下さい。」
「いや、リンフェニが用事があるのは私だ。」
「それは父上の勝手な考えですよね。」
「だからと言って、お前にとも言ってないだろ。」
そうだった。私が口を挟むと、どっちに話しかけたかでまた揉め始めるんだった。いつものことだけど面倒くさいな。
「どちらにもです。まず、私も怒られてたはずですよね?なのにほとんどアルと領主様が言い合ってるだけじゃないですか。私まだ必要ですか?」
「いや、決してリンのこと忘れてた訳じゃ……」
「それよりリンフェニ。私のことを『領主様』なんて呼ばないでくれ。昔はおじ様と呼んでくれてたじゃないか。」
「私を忘れてたことは何にも文句は言いません。それでりょ……おじ様。」
「何だ?言ってみろ。」
「今回、アルのことを森に連れていったのは私です。だからアルを危険に晒したのも私です。だから怒るならアルじゃなくて私にしてください。」
「……」
「よし、今回は俺の勝ちだな。」
いや、アルは何に勝ったの?何にも勝ってないでしょ。それよりアルにも言わなきゃ。
「それにねアル、今回はアルが止めてくれたのに私が無理やり連れてくような感じだったでしょ?だから私も反省したの。」
「り、リン?」
あ、これアルは何か察しちゃってるな。だからと言ってここで言うのを辞めるつもりはないけど。
「アル、安心して。これからは私1人で調べるから。大事な次期領主様を危険に晒す訳にはいかないわ。」
「……」
「アルシュア、勝ったんじゃなかったのか?」
勝ったとかほんとに何言ってるか分かんないけど、どうでもいいや。とりあえずは2人の言い合いも終わったみたいだし。喧嘩両成敗?ってやつ。
「……リン、だから俺がお前を、」
「アルは守られるべきよ。騎士じゃなくて領主になるんでしょ?なら、危険な行動はできる限り避けた方がいいと思う。」
「でも、」
「それに、あんまり一緒に居ちゃいけないし。」
「は?」
「アルだって知ってるでしょ?私がここに出入りすることをあんまりよく思ってない人がいっぱい居るって。」
平民が領主の家に頻繁に出入りするなんてあまり許されたことじゃない。だから、ニーゲリム領に住んでいる準貴族たちは私のことをかなり嫌悪してる。
最初は冷たい視線とかあからさまな言葉とかに傷ついていたけど、もう慣れたから今ではなんとも思わなくなってきた。でも、このままでは良くないって分かってる。
「……」
「その通りだと思うし、そうじゃないといけないと思う。」
「リンフェニが我が家に出入りすることは私が許している。だから他の者たちがなんと言っても、リンフェニはそれに従う必要はないのだよ。」
「はい、おじ様の心遣いには感謝しております。しかし、彼らが言っていることも正しいです。」
「リンフェニ……」
「と言うことで、今日は失礼します。」
「ちょっ、リン!!待って!!」
ごめんね、アルが止めてくれてももう決めたの。だってこれで、
「ようやく、調べられる。」
アルという枷が無くなった今、もうおじ様やニーゲリム家に関わる人から止められることはないだろう。それにアルは家に閉じ込められることになりそうだし。そうなったら私1人で全部やらないと。