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現場へ行くと、そこはまだアルの家の人達がいっぱいいて、とてもじゃないけど調べられるわけがなかった。仕方ないや。今は諦めて、他のところを見に行こう。


「リン!!」

「えっ……あ、アル!?なんで……」

「心外だな。これでもリンの考えていることはそれなりに分かっているつもりなんだけど。」


逃げ出しても、ここに来ることはバレてたってことか。アルから完全に逃げるのは難しいって覚えとかなきゃ。


「リン、どうして窓から飛び降りたりするんだよ。どう考えても危ないだろ。」

「だって、思ったより地面に近かったから大丈夫かなって。」

「そういう問題じゃない。ほんと……リンは心配させる天才だな。」

「えっと……褒めてる?」

「褒めてない。」


ですよねー。さっきからアルの顔めっちゃ怖いもん。とてもじゃないけど、褒めてるようには見えなかったし。


「ほんとに……リンが大人しくしてるなんて考えてた俺が馬鹿だった。リンが言われたからって大人しくしてるような人間じゃないって分かってたのに。」

「さっきからちょっとずつ酷くない?」

「事実だろ。」

「うぅぅ……」


まあ、失礼しちゃうわ。大人しくなったら、もしもの時に動けないかもしれないじゃん。自分の命は自分で守る、これも王族の掟?みたいで、私の血が強く訴えてくる。いやそんなこと起きない方がいいんだけどね。


「でもちょうどよかった。アルが居れば心強いかも。」

「うん?」

「ねえ、森の中入ろうと思うんだけど、アルも一緒に来てくれる?」

「え……」


私の提案が突然すぎたのだろう。アルの目がまん丸になり、次に発する言葉を考えている。そんな答えにくい質問したかな?はいかいいえで答えられるよね?


「アルー?どうなの?来てくれるの?来てくれないの?」

「この森が危険だって、リンもよく知ってるだろ?」

「ええ、嫌という程知ってるわ。それも身をもって。」


あの時のことは忘れもしない。


「なら……」

「でもね、この森に呼ばれている気がするの。」


森の植物の声を聞く力なんて、さすがに王族の血でもない。でも、分かるの。森に何か、明らかにされるのを待っている何かがあるはず。


「お願い、アル。」

「リン……俺は、リンが何でそこまで真剣にこの事件と向き合っているのかは分からない。いくらリンのことを分かっているつもりでもだ。だから、その理由だけは教えてくれないか?それさえ教えてくれれば、俺はリンの力になる。もしもの時でも、俺がリンの盾になる。」

「それは言えない。」

「どうして。」

「アルには……背負わせる訳にはいかないの。いつか必ず伝えなきゃいけないって分かってる。でも……今はまだ秘密にさせて。私の我儘でしかないけど、譲れないの。」

「どうしても?」

「どうしても。」

「もし、それで俺がリンとは協力出来ないって言っても?」

「うん。」


アルの顔が段々と険しくなっていく。きっと理解出来ないんだろうな、私がここまで意地を張ることが。まあ、断られたらその時はその時だよね。その時は自分で何とかしよう。


「……はぁ。全く……リンには適わないよ。」

「え?」

「分かった。俺も行く。」

「いいの……?」

「理由を教えてくれないのはやっぱりちょっと納得がいかないけど、だからってリンを危険な目に遭わせていい訳はないしね。護衛ぐらいさせてもらわないと。」


さっきまでの険しい顔が嘘みたいに優しくなる。その顔からは微笑みすら感じることができる。ああ、この顔好きだな。顔だけじゃない、声も、仕草も、言葉も全部好き。

だから言えないの。まだ嫌われたくないから。離れたくないから。笑いかけて欲しいから。


「リン?」

「早く行かないと。日が暮れる前に戻ってこないと危ないし。」

「そうだな。」









森へ入り、足を進めると、もうそこにはどこまでも続いている道が1本あるだけ。左右は木が生い茂り、遠くに何があるかなんて全く分からない。迷子になることはないけど、村からどれぐらい離れてしまったかは分からなくなる。だから森は危険だ。危険を危険だと感じさせないんだからよくない。


「で、森で何をするつもりなんだ?」

「霊玉探し。」

「霊玉って、え?」

「今回の事件には、術者が関わっている。あの狼は、術者に操られて子供を襲った……多分。」


いや、確実なんだけどさ、流石に怪しいでしょ。何でそんなこと私に分かるのかって。


「リンの言う通りなら、まずいな……」

「え?」

「うちの領には今術者は居ないはずだ。うちの術者なら風邪を拗らせて王都で治療してるはず。最も、うちの術者がこんな事件起こすようなヤツだとは思ってないけど。」

「じゃあ……」

「面倒だな、うちの領だけの問題にはしておけないぞ。他の領の協力を求めなきゃいけない。」

「でも、それだと、」

「他の領に借りを作ってしまうことになるな。うちはただでさえ他の領よりも力が無いから……あーもう、ほんと面倒な事になった。」


ニーゲリムはこの国の辺境の地である。1番王都から遠く、今の国王が来たのも戴冠式の後に国の全領主を訪ねて回ったあの時しかない。母がここの教会を頼ったのも、王様の目が届かないところに私を置いておきたかったからだという。

そんなニーゲリムはこれと言った特産品や資源がある訳でもない。だから力が無いのも仕方なく、また当然にも思えてしまう。


「ニーゲリムはいい所よ。私は好き。」

「そりゃ、いい場所だろ。力が無いだけで。」

「言っちゃうのね、いい所って。」

「当たり前だろ?もうずっと争いごとなんて起こってないし、領民はみないい人ばかりだ。この国の中では1番の自信がある。」

「そうね、私もそう思う。」


私がもし王様だったら、ニーゲリムをもっと重宝するのに。この土地の人達はみんな頼りに出来る。王様もいらっしゃれば、きっと分かるはずなのに。


「これ以上力が無くなったらどうすればいいんだよ……」

「まあ、まだ私がそうかなって思っただけだし、他の領の術者がやったと決まったわけじゃない。それをこれから確かめるんだから。」

「……そうだな。そうでないことを祈るが……」


でも、私が視たものに間違いがあるはずもなく。彼の願いとは裏腹に、その数分後、私たちは霊玉を見つけてしまったのである。

霊玉___それは術者が動物を操る際に、その動物が反抗しないよう、その意志を特殊な玉石に閉じ込めたものだ。意志を閉じ込められた動物は自らの思いとは異なる行動を起こしてしまうため、動物の権利の侵害だ!!と、最近では問題視されている。


「アル、大丈夫?」

「大丈夫じゃない……早く父上に報告しないとな……」

「アル……私が霊玉がどうこう言わなきゃよかったのにね……」


いくら事実を知りたいからって、領同士の争いになったりしたらそれはそれで問題だ。


「それは違う。リンが言ってくれたおかげで真相に少し近づいた。そっちの方が大事だよ。それに、領を越えた話になるなら、その責任は俺たちニーゲリム家にある。」

「アル……」

「だから、領がどうこうってのはリンは気にする必要はない。」

「でも、」

「たまには俺にもカッコつけさせてくれよ。」

「アルは……十分かっこいいと思うけど……」

「えっ。」


え、私なんて言った?え、え、嘘でしょ?雰囲気に流された。


「リン、その、」

「かっこいいに決まってるわ。いつも領民を想って行動してるんだもの。」

「あ……あー、そういうね。うん。そうだよね。いや、自分で言うのはおかしいか。」


たまに私の事優先しようとする時があるけどね。でもそれ以外の時は本当にお人好しって言うかなんて言うか……誰にでも優しい。困ってる人がいたら迷わず手を差し伸べる。そんな優しいアルだから、恋に落ちた。


「そ、そう言えば、森に呼ばれてるって言ってたよな?」

「いや、そんな気がするってだけだから。何が呼んでるか全然……」

「……森の王だったりな。」

「……それは無いよ。アルだって知ってるでしょ?私がこの森で何をしでかしたか。」

「そう、だな。」


これ以上の収穫は見込めそうに無いので、その日は大人しく夕飯前に帰った。

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