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「リン、ここに、居たのか。」
母は私を宿し、身売り先から逃げ、国の外れの教会を頼った。そしてここで私は生まれ、母は死んだ。だから今の話は全部成長してから聞いた話だ。
そして私の目は皇太子(今ではもう王様だが)の子であることをはっきりと示す赤色をしている……のだが、普段は茶色だ。赤い目をしてたら王族の血を引くとバレてしまう。そんなの面倒だし、特になんの意味もなさないだろう。そんな私の気持ちを汲むように、私は目の色を変えられた。きっと王族特有の力なのだろう。
「どうせなら紫がよかったな……」
母の目は綺麗な紫色だったと聞いている。そんな母の目と同じ色だったら……母との繋がりを感じられたのかもしれない。今の私には、母との繋がりを感じるものは何も無い。
「リン……おい、リンフェニ!!聞いているのか!!」
「え……あれ、アル?」
「また何か考え事でもしてたのか?」
「ええ……ごめんなさい。気づかなくて。」
「全く……リンは集中すると周りの声が本当に聞こえなくなるからな。不安になる。」
アルは心配症だな……あ、彼___アルシュア・ニーゲリムはこの地を治めるニーゲリム家の次期当主だ。とは言え、幼い頃からここの領主である父親に連れられて来ていた彼は、教会で暮らす子供たちからも慕われ、私にとっても身近に感じる存在。同い年なこともあり、今では唯一無二の人になった。あ、もちろん友達としてね。
そう言えば、自己紹介してなかったっけ?まあ、何となく分かっていることもあるだろうけど。私はリンフェニ。あ、もちろんただの街娘だった母の子なんだからアルのような立派な名前はない。今年で16歳で……今でも生まれた教会でお世話になっている。そして何よりも私は、
「私なんて生まれてこない方がよかったな、って。」
「またそういう事を言う……」
「だって、そうだもの。」
私は、私自身が大嫌いだ。母の命を削るほどの価値があるとも思えないし、アルのようにしなくてはならないこともない。ただ生きているだけ。そんな私をどうして好きになれるだろうか。
「俺は、リンが居てくれてよかったって思ってる。リンが居なかったら寂しいよ。」
「そうやってアルは……いい加減私から離れる努力をしなさいよ。領主様だって困っているのよ?貴方が私のことばっかで、お見合いをちゃんとしてくれないって。」
「それは……」
「貴方はいつかここの領主になるのよ?きちんとした伴侶を迎えて、この土地の人々を幸せにしなきゃいけないの。」
「うん……分かってるよ。」
彼に次期領主としての自覚は確かにある。でも、それよりも私への比重が高くなってしまっている。そして……それを嬉しく感じてしまっている私もいる。彼とは確かに友達だ。でも……私は彼にそれ以上の感情を抱いている。
「まあ、絶対に言えないけどね。」
「何が?」
「何でもない。」
平民(いや、それ以下かも)の私と、次期領主のアルでは身分の差がありすぎる。この想いは抑えなくてはならない。
あ、母との共通点あった。身分違いの人を好きになってしまうのは血筋なのかもしれない。