サ○▲☆クロース
くれぐれも真剣に読まないように。
「なんで……。 俺様がこんな目に……」
目深に被った頭巾から突き破った禍々しい双角。
赤と白を基調としたふわふわの生地の背中部分からはまるで不似合いな漆黒の翼が際立つ。
普段であればピンと聳え立ち、威厳を醸し出す三角形の尻尾はだらしなく垂れ下がっていたのであった。
「くっそ……っ!!」
やってられるかとばかりに帽子を脱ぎ、おもむろに地面に叩きつけたかったのだが ── 引っ掛かってしまい、寧ろみっともない姿を曝してしまう。
「まぁまぁ。 足掻いてもしゃあないですやん? 次、行きまひょか」
休憩時間なのだろうか。
片手にした煙草の灰をポンポンと備え付けの灰皿に溢すトナカイ。
二足歩行であったのが中々に堂にいっていた。
「ですわな、サタンはん。 早う子供達にプレゼント配らなあきまへんで」
番のトナカイがせっつく。
雪車を引く立場であり、あくまでも部下である赤い鼻のトナカイ達。
無駄に筋骨粒々であったのが気になるところだが。
「わぁ~ったよ。 やりゃあ良いんでしょ、やりゃあ……」
まさかの魔界の支配者転生。
大魔王・サタンが夢と希望を全世界に配るハメになるとは ── ……。
*:.。..。.:* サタン☆クロース *:.。. .。.:*
「はぁ……、で? 次の子羊は?」
「あの建物の666号室でさぁ」
「なにその素敵な響き……」
よもや、ここにきて自分にご褒美が得られるなどとは思っていなかった。
たったみっつの数字が並んだだけでこうも幸せにうちひしがれてしまうとは。
だが、もうひとりのマッチョマン ── もとい、トナカイBの発言により現実を突きつけられる。
それは見たままに。
「高層ビルですわなぁ。 しかも、超セキュリティシステム完備の」
煙草の籾殻を丁寧に潰しながら、もう片方の手にしていた缶ビールを煽るトナカイB。
渋いサングラスを取り外した眼光は鋭かったものの、最早ただの酔っぱらいにしか見えなかった。
そもそも今時、煙突のついた家など見掛けられないし有り得ない。
しかも、大都会のど真ん中であったのが更にサタン☆クロースをドン底に叩き落としていたのであった。
「……ええっとぉ……これ無理ぽ」
彼は何も見なかったことにしようとする。
魔界では、ことつぶさに聞き耳をたてては相手が「もう勘弁してちょ!!」というまで嫌がらせをし尽くしていた大魔王を以てして。
実際、これほどまでに転生を悔やむことはなかった。
寧ろ恨むしかない。
だが相手がいない。
神が相手だというのなら、今すぐにでもタイマンだ。
しかし、現実からは逃れられることはできなかったのである。
「やりゃあ良いんでしょ!」
殺ると表現しないだけマシだ。
雪車の上にどっしりと乗っかっている純白の袋を思いきり担ぐ。
と同時に重力には逆らえない。
「むぐぐぐぐぐ……っ!?」
「ほら、頑張りなっせ!」
「ふぁいと! ふぁいと!」
その重量、単位にして㌧に至る。
全世界の子供達に配る為のプレゼント総重量は想いに比例していた。
つまり、重い。
「どっせい。 ぬおりゃあああああ!!」
「「 いよっ、大統領♪ 」」
拍手喝采。
トナカイ達の蹄がカチカチと鳴り響く。
さて、そうくればさっさとカタをつけたいところだ。
「ふぅっ、ふぅっ、ふぅっ、ふぅっ……。 イックぜぇぇぇ!!」
気合いは空振り、立ち上がりざまにサタン☆クロースは夢と希望が詰まった袋に埋もれてしまったのであった。
辺りは深紅に染まり、ただ凄惨且つ無惨な光景だけが映し出されている。
「サタンはん……もう、ワンチャン行きまひょか?」
それはたとえ異世界に、現実に転生したとはいえ不死能力を持つ彼には酷な一言であったといえよう。
「…………」
死んだふりをしている本人でさえ、まだ続くであろうコント紛いなネタには付き合いきれないほどで、思わずため息をついてしまうのであった。
「ねぇ、お母さん。 サタン☆クロースってホントにいるの?」
「さぁ? どうかしら……」
我が子を寝かしつけようとして物語の扉を開いたは良かったが、興味津々の態度には困ったものだった。
枕元には穴の空いた靴下が一足飾られている。
「さぁ、早く寝なさい……」
窓の外で凍りつくような寒さに必死の形相で堪える父親。
ホワイトクリスマスならぬ、ブラッククリスマスといっても過言ではなかった ── 。
最後までお読みくださり、まことにありがとうございます。
出演。
サタン☆苦労す。
トナカイA。
トナカイB。
とある母親。
子供。
少しでも寒さが和らいでくれれば幸いです。
笑いは人生の調味料。