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第九十八話「神隠し?」

 それから、店にはお客さんがどどっとやってきて、またてんてこ舞いになったので、三人のことを考える余裕もなかった。

 すっかり暗くなってきた。

 ようやくお客さんが去って一段落した。


「ふう、今日は、そこそこだったかな……」


 そろそろラストオーダーの時間。

 暗くなってきた外を見ると昼間はそれほどでもなかった雪がまた強くなってきた。

 入り口に掲げている営業中の札をさげに、ドアを開けて外に出ようとした。

 すると、ちょうどよくドアが開いた。鈴もカラン、カランカランと鳴る。

 外の寒気がびゅうっと入り込んでくる。雪と風が勢いで入り込んでくる。そして人影が現れる。


「あ、雪耶ちゃん、まだ大丈夫?」


 店に入ってきたのは、夏美ちゃんだった。


「もちろんだよ入って入って」


 いつも羽織っている紺色のコートは白くおおわれてしまっている。

 パンパン手で入り口で雪を払う。

 マフラーも帽子も雪まみれだ。


「いやー、もう凄い雪だったよ。風もあったし」


 いつの間にか外は大雪になっていたようだ。

 そういえば暗くなってきた窓の外を改めて眺めると、春が近づいて雪が解け始めた……と思ったのに、季節外れの雪になっていた。

 話を聞くと、女子テニス部の部活帰りだったが急に雪に振られたとか。

 本当はボクも部活練習に行かなきゃいけないんだけど、そこは家の手伝いということで免じてもらっている。

 

「なんだか、このまま春が来ないでずっと冬が続きそうに思えちゃったよ」


 夏美ちゃんはそうぼやきつつ、暖かい店内の空気に一息をついていた。


「まさか、いくらなんでも」


 そんなことで、熱いぜんざいの注文を貰った。

 待っている間に、夏美ちゃんはテーブル席に座りながら、ふと尋ねてきた。


「雪耶ちゃん、スノーガールズって知ってる?」


 また聞き覚えのある言葉が出てきた。


「確かアイドルグループ3人組だよね?」

「そうそう。よく知ってるね。あ、そういえばこの間、藤崎さんと話してたよね。実はうちの街に来てるんだって。でも……」

「どうかしたの?」


 なんだ、夏美ちゃんもアイドルに興味があるのか、と思ったらどうも違っていた。


「ほら、さっきこんなの貰ったんだよ」


 コートのポケットから一枚の紙を取り出した。

 白い名刺だ。


「スノーガールズプロジェクト:プロデューサー 島村隆一」

 

 ふむ……。

 一応あの子たちにもこういう肩書きの人がついているんだな。


「このプロデューサーって人が、三人を必死に探してたんだ。部活から帰ってたらあたしたちにもこの人が声かけてきて」


 立派なスーツを着た人だったらしい。

 行方不明の三人とはもちろんスノーガールズの三人だ。麻衣さん、みなさん、むつみさん。

 母さんと顔を見合わせる。


「仕事の休憩中に、目を離した隙に消えてしまったんだって。いくら探してもどこにもいないんだって」


 最初はどうせ近くにいるだろうと、たかをくくっていたが、見つからない。


「まさか……その辺に……いないのかな? 足湯とか、おみやげ通りとか」


 無料で入れる足湯。それに名前のとおり、おみやげ屋さんが並んでいる通称おみやげ通り。


「もちろん探してたよ」


 しかし見つからない。

 まるで神隠しにあったように忽然といなくなってしまった、と。騒ぎになっているらしい


「ひょっとして……遭難? 町の中で?」

「……町の中で番組の取材して姿を消しちゃったって」


 例のお煎餅屋さんのお店の収録をしていたんだとか。ようやく終わって次の仕事に移ろうと準備をしていた。


「撮影の合間に突然いなくなって、影も形もないんだ」

  

 それでスタッフで探し回ったが手がかりがない。

 すぐに見つかると思ったのだが。

 ただ、足跡があった。三人ともう一人誰かの足跡が、町の外へ向かって歩いていた。だが、雪でき消されて行方はすっかりわからなくなっていた。


「そんな不思議なことが……」


 町中にいたのに、忽然と姿を消してしまう。

 何か胸騒ぎがする。

 これと同じ話を、前に聞いたような……。


 少し前に出会った、町外れのロッジに住むおばあちゃんのお話を思い出した。

 村人たちが子どもが雪ん娘に連れて行かれると恐れていた。

 近づいてはいけない。

 雪ん娘と仲良くでもなろうものなら、家に閉じこめて外に出られないようにする。

 もう村の人々も忘れている因習だ。


「母さん、今日は人を襲う日じゃ無いよね、大丈夫だと思うけど……」


 小声で夏美ちゃんに聞かれないように母さんにささやく。


「いいえ。でも、今日は、修練の日ね」

「何、それ」

「雪ん娘が修行に励む日なの」

「へえ……」


 雪ん娘、修行……さぼりがち。

 ボクも一応雪ん娘だけどねえ。


「でもボクはやってないけれど……」

「雪耶は特別だからね、母さんが一応面倒みてるから……本当はいろんなことをしないといけないんだけど……」


 あはは。

 そこはあんまり突っ込まない方がいいような気がしてきた。

 ともかく、あの三人の行方が俄に不安になってきた。

 再び夏美ちゃんとの会話に戻る。


「ちょっと心配だからそこら辺の山の中を見てこようか?」

「雪耶ちゃん!?」


 あっさりボクがいうので、夏美ちゃんにかえって驚かれた。


「だ、大丈夫、なの? 雪耶ちゃん、まだこの街にきてそんなに時間経ってないでしょ?」

「ねえ、いいでしょ?」


 振り返った。

 反対されるかと思ったが、母さんは止めなかった。

 しっかり後ろから肩を抱いてこういった。


「そうねえ……今の雪耶なら大丈夫かな」


 夏美ちゃんは唖然としていたままだった。


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