第九十七話「お誘い……でも断る」
「でも本当、寒かったよ。さっきなんか、スキー場で、この格好で滑ったんだよ」
体験レポートと称してスキー滑りしたらしい。
「それは大変でしたね」
スキーウェアも着ずに。それはボクもやりたくない。
「ほんと、ここはくそ寒いところだからね」
「ほら……言い過ぎだって……むつみ」
スノーガールズではなく、毒舌ガールズになってきた。
でもあの格好、確かに普通は寒いよね。
白い着物ってのも結構きついだろう。下にももひき履いたり懐炉を忍ばせたりして誤魔化してるとか。
でもあのゲリラライブ中は我慢してたのか。偉い。
ふと客席に置いているテレビを三人が見つめていた。
もりあがっていた三人、一瞬静まりかえる。
昼時にやっている情報バラエティー番組が流れている。
昨日の東京で季節はずれの大雪が降ったとかの大騒動。
電車が一時間遅れたとか、けが人が何人出たとか、そんなニュースがもう三十分もやっている。
流れてくるナレーションは若い女性の声だ。
スタジオに切り替わって関西お笑い芸人のボケとつっこみ。
どっと笑い声が起こる。
「由奈……あの子……下積み時代、よく一緒だったんだ」
ポツリ。
へえ……YUNAってテロップがでてる。
「ひょっとしたら今もスノーガールズにいたかもね」
なるほど、脱退の一人にはそんな真相が……。
「まあ、最初はうちらと一緒に愚痴ってたけどね」
「出世、したよねえ」
自分たちもいつかああなりたい。
嫉妬なのか、本当に祝福しているのか、わからなかった。
「さて、そろそろ行こうか」
「休憩時間終わりにしないと……いつまでもここにいたいけど」
そろそろ戻る時間だから、と三人は立ち上がる。
「このあとはどこに行くんですか?」
一応念のために、撮影を聞いておく。うちには、ひょっとして来ないよね。
「増野屋さんってところだよ。ゆきっちは知ってるの?」
「ああ、はい。あのお煎餅屋さんのとこですか」
納得した。
おじいさん一人で、おみやげ用の手作りせんべいを作っているお店だ。
そこへ取材レポートするらしい。
(結構きちんと調べてるんだな)
適当に選んでるのではなく、チョイスは的確だ。
増野屋は、先代から百年年の歴史を持つお店だから、年季が違う。まだまだ十五年。うどんだけでは、まだパンチ力不足。
雪乃亭、全国デビューの道は遠い。
「あ、そうそう。お会計ですか? あちらへお願いします」
お客さんの話を適度に切り上げるのもテクニックだ。
生々しいものをいっぱい見せていただいたし。
話を切り上げて、レジへ案内する。
「どうもありがとうございました」
レジ担当の母さんが丁寧にご挨拶だ。
伝票を受け取ってエプロン姿で、器用にレジうちをする。
真冬なのに短パンとノースリーブという攻めている格好だ。
肩のヒラヒラが眩しい。
「ゆっきーのお母さん、綺麗だねえ」
「本当……年、いくつなの? わたしたちとあんまり変わらないように見えるけど……」
実はボクもよく知らないです。ひょっとして百歳を越えているんじゃないかと思うこともあるんだけど。
「え。えーっと……」
麻衣さんが窘めてくれた。
「ほら、年齢聞かないの。失礼でしょう。あたしも興味あるけどね」
どっと三人が笑う。
はは、誤魔化して笑う。
「あ、あたしがまとめて払っておくよ。これでお願いしまーす」
グループリーダー役の麻衣さんが、一枚のカードを取り出す。
「これで、お願いします」
母さんへとぽんと渡される。
「これ……ですか?」
カードを受け取ってまじまじ見つめ、首を傾げる母さん。
「あ、すいません。うち、クレジットカードは取り扱ってないんです」
慌ててボクが割って入る。
そうか、それならば、と麻衣さんが今度はスマホを取り出す。
「すいません、スマホの会計もできません」
最近よく聞くQRコードがどうとかいうやつは、もちろん未導入です。
「えー、ゆっきーのお店、遅れてるよ」
むつみさんの突っ込み。
ようやく財布から現金を取り出した。千円札を受け取ってレジスターからおつりのお金を出す。
うーん、そっちの方もうちはまだまだか。
最近海外の人も増えてるけどね。
「じゃあねー美味しかったよ」
「ゆっきー、新メンバー、待ってるからね」
「あ、無理しなくていいから……」
三人は店を去っていった。
「あれは……何? 雪耶」
「あ、あれはね……母さん」
ボクだって別に詳しいわけではないけれど、一から教えないと。




