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第九十四話「スノーガールズ登場」


 閑話休題それはさておき

 久々に商店の人たちと再会できて、満足満足。

 父さんがまだ用事があるというので、商談の場から、一端離れてぶらぶらする。


 うん?

 何かドンドンと音響が遠くから音が聞こえる。

 駅前のロータリーからだ。


 氷清スキー場駅。第三セクター氷清高原鉄道の終着駅で、ボクたちの街の唯一かつ最寄り駅だ。

 スキー場がすぐ目の前が売り文句だ。実際はバスで十五分ほどだけどね。

 路線バスだけでなく、送り迎えの車やタクシーもある。

 う、氷倉ホテルの専用バスまであるぞ。豪華なリムジンバスでお出迎え。次々に乗り込んでゆく。


 一応、電車も三十分に一本は来るし、冬のシーズン時には臨時便や特急もやってくる。

 ちょうど今も発車時間が近いのか帰る観光客、到着した人たちで混雑している。

 以前は木造の素朴な駅舎だったが、建て替えられて、コンクリートとガラス張りの立派な近代的な駅舎になっている。


 その駅前で何かやっている。

 どんどんというベースの低いリズムと何やら歌声が聞こえる。

 もっと近づくと、少女たちがマイクを持って踊っている。

 新曲ライブと銘うってロータリーで歌っているのだ。


「新曲、発表!」 


 という看板とのぼり旗が置かれていた。

 スノーガールズ SNOW GIRLS

 氷清の雪ん子 そして五角形の雪の結晶が描かれている。


 三人の女子が、白い和服調の衣装を着て踊っている。

(そうか、この子たちが昨日言っていたアイドルグループだ)

 駅前のいろんなところで、活動していると言っていたけど。

 帯がきつそう。

 そのうえ着物寒そう。

 急拵えのステージで一生懸命歌ってる。

 正確に言うと、おっかけらしきファンが二十人ぐらい必死に声援を送っている。

 学生っぽい青年や、ちょっと年輩の人たち。

 さ、素通りしよう。

 前を通り過ぎようとすると、始まった。


「みなさん、こんにちは!」

「わたしたち、スノーガールズ、今日はゲリラライブでここ氷清スキー場駅前に降臨しました」


 ファンの一生懸命の拍手と、やはりボクと同じように偶然足を止めた街の人たち。

 誰もいないとまではいかないけれども、少な目の観衆に手を振って笑顔で挨拶している。

 なんだろう、このテンションは……。


「今日ここに来てくれた人たちへのプレゼントです」

「わたしたちの新曲をどこよりも先駆けて歌いまーす!」


 やば。目があった。

 ちらっとこっちを見た。慌てて視線を逸らす。


 こっち見ている。

 またちらっと。気のせいじゃない。

 こっちに送ってくる目の気迫。

 あなたも、聞いてくれるよね? と聞こえてくる。

 笑顔の中からみえる必死な気迫が――。


「是非、最後まで聞いてってください」


 そしてスピーカーから音楽が流れ始める。

 歌い始めた。


「おお、意外」


 曲、悪くない。

 といってもこういうのに疎いボクだからかもしれない。

 洗練された都会の人たちにとっては、興味をひくものではないらしい。スキーから帰りの駅へ向かう人や到着したばかりで、ホテルに向かう人々。

 人通りがないわけではないが、ほとんど、とおり過ぎていく。


 そして、スタッフらしき人が一生懸命チラシを配っている。

 一枚受け取った。

 音楽CD、1000円、写真集800円。ライブDVD3000円。

 隅っこにQRコードでチャンネル登録よろしく。

 確かに高そうな撮影動画部隊がいる。

 一応やることはやっているんだな……。


 別の小さな子連れ親子がとおり過ぎる。


「雪ん娘アイドル スノーガールズだって」

「へえーあなた、知ってる?」

「知らないなあ」


 そのまま立ち去っていった。


 帰宅してきた男子高校生もそそくさと通り過ぎて行く。


 うう、なんか抜けられない雰囲気になってきた。

 だんだん場が閉鎖的な雰囲気になってきた。

 おっかけファンの合いの手も――。

 妙な結束力、連帯感の中に組み込まれてしまって――。

(こ、これがアイドルか……)

 はまればはまるんだろうことはなんとなくわかった。

 歌い終わった。


「みなさん、いかがでしたか?」


 小さく拍手した。

 ファンの男の人たちが、ひゅー、と声援を送る。


「喜んでもらって、本当に良かったです」


 まあ、曲は良かったよ。


「新曲は来週から発売なので、是非聞いて見てください」

 

 もちろん反応は最前列のおっかけグループ数名だった。

 この後、写真撮影タイム、曲を買った人は握手できるんだって。

 やや短めの列ができて、にこやかに握手。


 さて、そろそろ退散。


「おー、どうした、雪耶」


 そして、ようやくボクの父さん登場。


「あ、父さん、買い物終わったの?」


 父さんが段ボールを抱えている。買い出しのものは一通り終わったようだ。


「ああ、何やってるんだ? 雪耶」


 改めて説明する。

 父親と聞いて、さらに畏まる。


「ほう、アイドルグループか……」


 父さんが興味津々。

 あれで結構アイドル好きだったりします。

 なんとか45の総選挙とか見てたっけ。

 目を光らせているからCDを、何枚も買って投票するなどといったことは許さなかったけど。


「ありがとうございましたっ」


 いちいちファンに握手している。プレゼントの花を受け取っている。


「熱心にみてるようだが、雪耶、ひょっとして興味あるのか?」

「まさか……」

「だろうなあ」

 

「まあ、雪耶は……」


 頭をぽんぽんやられる。


「歌下手だし、ダンスなんて学校の成績も悪いし、結構恥ずかしがり屋だしな」

「と、父さん」


 まあ無理なのはそうだけどさ。カラオケで三十五点だしね。学校の成績の方がいいくらいだ。

 ただそういわれるとむっとくるよ。


「みなさーん、今日は楽しい時間をありがとう」

「また会おうね」

「新曲、よろしくね」


 三人揃って、最後の挨拶。まばらな空間に熱心にいちいちリアクションを返すファンの皆様。

 この独特な空気……。やっぱりまだまだボクには遠い世界だ。


アイドル描写は、あんまり酷いという部分は受け付けます。

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[良い点] ここまで読了 まじ面白い
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