第九十三話「買い物あれこれ2」
「おはよう新川さん、今日は何かいいの入ってるかい?」
父さんと一緒に入った村で一番大きい青果卸店の氷清青果店。
仕入れ業者あるいは直接買いに来た客で店内は早くも賑わっている。
父さんは、入店して早速店長の新川さんに声をかける。
「おう、修一さん。今日は氷清大根と蕪が入ってるよ……見てみるかい?」
長年の付き合いで、勧めてくれるのはいつもいいものばかり。
「お、どれどれ」
所狭しと並べられた青果を覗き込む。
目利きはとりあえずまだまだ父さんまかせだ。
「新しくきた姪っ子さんって君かい?」
新川店長にもボクのことは伝わっているようだ。一応雪哉とは、従妹ってことになってる設定わすれちゃいけない。
もう何度もきているお店だが、雪耶としては初訪問である。
うっかり父さん母さんとは呼ばないようにしている。
「あ、はい雪耶です。よろしくお願いします!」
ここでも、ペコリ挨拶する。第一印象が大事。
お店の人は愛想と元気があったほうが喜ばれる。
「はは、元気があっていいね。でも随分薄着だけど大丈夫かい? まるで雪ん子みたいだね」
「ぜんぜん大丈夫ですよ」
今、上着はトレーナーを一枚着ているだけだ。これでも結構ボクにとっては厚着なんだけど。最近ますます暑さに弱くなってきている。
「雪哉君は元気にしてるかい?」
「はい、絶好調……みたいですよ」
「残念だねえ遠くへいっちゃって。受験だって? 北原さんとこは、意外に教育熱心なんだねえ」
いろんな意味で雪哉は遠くへ行ってしまいました。
それでも皆ボクのことを忘れないでいてくれている。うう……。
「帰ってきたらうちにも顔出すように言っておいてよ。頑張っているのよく見てたから、こっそり応援してたんだけどな」
「はい、伝えておきますよ」
知らない本音を聞けて感涙。
ボクが買い物に行くと、よく値引きしてくれたっけ。
「いやー、でも流石従妹だ。彼とよく似ているね。同じように色白で小柄だったから、遠目では本人かと思うけど」
雪哉って前から女子っぽいところがあったのか。初めて聞く自分の印象だ。
「そ、そうですか? 本人が聞くとショックだと思いますよ」
前から色白でやせ型だったのはそうだけど、一応男子として頑張ってやってたんだけどな。
まあ、それはそれとして。
「お手伝いお疲れさま。ああ、これ持っていきな」
ちょっと値引きしてくれた。おまけで果物まで貰った。
「ありがとうございます!」
本当に喜びの笑顔で新川店長に返した。
「はは。良かったな。雪耶」
そしてその次の買い出しは中島商店さん。いつも乾物中心に仕入れるお店だ。
「いやー北原さんとこの子、可愛い子だなあ。将来、絶対美人になるよ」
「あ、ありがとうございます」
店のもう六十は過ぎているおばさんからお世辞もいっぱい貰う。同じ年の旦那さん、体の調子が悪くて最近は店に出ていないというので、実質取り仕切っているのは、この方だ。
「雪耶ちゃん、うちの息子の嫁にきてくんないかなあ?」
足がカックンきた。
「お袋、やめろって」
後ろで棚の整理をしていた息子さん、恥ずかしそうに、暴走気味の母を止めようとする。
「おめーも、もうすぐ三十三だろがぁ。昔なら、もう子供の二人や三人いてもおかしくない年だ。早く見つけねえと、この店どうすんだ」
早く孫の顔をみせろ、と。
「んなもん、なるようにしかならんって」
親子のちょっとした諍いを目の当たりにする。
(……苦笑い)
「年が離れ過ぎだって。ああ雪耶ちゃん、気にしないで。片っ端から声かけてるだけだからさ、まったく困ったもんだ」
「頑張ってくださいね」
中島商店の貴重な跡継ぎ、あとはお嫁さんだけ。
嫁不足。若い人はみんな進学や就職で都会に出て行ってしまう。
特に若い女の子はそんな傾向とのこと。
これでもスキー場やリゾート地などの観光資源を持っている氷清村はましなほうだと以前社会科の授業で学んだよ。




