第八十九話「まさかの協力関係」
「そっちじゃないのか」
だが凍子は気にした様子もない。
「北原さん。あなた、きちんと修行をやってるの? 力をきちんと操作できていないようね」
「い、言われたとおりにやってるよ」
息を整えて、イメージする。
感じろ。山からくる力を。
そんな母さんからの、わかったようなわからないような言葉が反芻される。
「いいえ、やっていない」
ゆっくり首を振った。
「あなたから流れ出てる……。だらしなくだらだらとよだれの様に……」
つかつか近寄ってきて、さらにぐいっと右腕を掴んだ。
「おいっなんだよ」
「きなさい」
腕を捕まれ、そのまま引っ張られる。
誰もいない階段裏に……。
このシチュエーション、多い。
「なんなんだ」
今日は凍子の勢いに何故か負けてしまった。
起きている異変に焦っているのもあるかもしれない。
それに今の凍子からは、邪悪な感じはしない。
そして改めて向き合う。
「いい? わたしたちは山から冬を司る存在として力を授かることができるのよ」
「き、聞いたことがあるよ」
そういえば、母さんがそんなことを言っていたような気がする。
「その力を調節することで様々な力を発揮できるの」
つむじ風を吹かせたり、氷の弾幕を放ったり。
「わずかな流れを上手く体に蓄えることで、冬が終わって夏が来ても、わたしたちは存在を維持することもできるのよ」
そこまでは母さんからは聞いてませんでした。
「でもあなたは、今、その力をそのまま垂れ流ししてしまっている。そのせいで周りに影響を与えているの。人間がそのまま晒されたら、ひとたまりもない……」
山から送られる冬の力をそのまま経由して教室に放っている。
雪ん娘が来ると雪が降るという伝説をふっと思い出した。
本当にボクが原因なのか。
「じゃ、じゃあ、どうすりゃいいんだよっ」
「あなたが修行して、それを調節する術を身につけるしかないわ。まずは早急に山から受ける力を感じとることが必要ね。でないと話が始まらない」
「じゃあ、それなら母さんにお願いするよ……」
「雪乃さん? あなたのお母様ではかえって力が強いから、あなたが自分の力を感じるには不向きなの」
ボクの小さな流れは母さんの大きな流れに飲み込まれてしまう……という。
「じゃあどうすればいい?」
「わたしが……その役割に適している」
目をそらす凍子。
目を丸くするボク。
「わたしと力を共鳴させて呼び起こす……。まだ雪女に変わる前のわたしたち同士で……」
というと……。
「わたしがあなたの手助けします」
「凍子!?」
信じられない。そんな言葉が凍子の口から出てくるなんて。
まさか、こいつ改心したのか。いやいやそんなたまじゃ……。
「か、勘違いしないで」
むこうもはっと気がついたのか、即座にきっぱり言われる。
「あなたがやらかすと、わたしにも影響が出るからです」
「許しを得て、山を降りて人里に住まわせてもらっているのに」
そしてゆっくり視線を逸らした。
少し恥ずかしそうと言うか照れくさいそぶりで腕を組む。
「それにこの間の借り……まだ返していませんでしたからね」
「この間のこと?」
一瞬考えたがすぐに思い当たった。
山菜うどんの件、まだ引きずってたのか。




