第八十八話「凍子とふたたび」
とりあえず授業は次の2時間目までだけど、持ちそうにない。
残念ながら保健委員も欠席。
夏美ちゃんを保健室に送り届けることにした。
「失礼しまーす。すいません」
ノックして引き戸を開ける。
幸いにも養護の林先生がいた。
「2年1組葉月さん、体調が悪いそうなんでみてもらってもいいですか」
「あら、また?」
短めの髪で、学校の先生らしく厚化粧はしていないが、目立たない程度にしていて、パリットした白衣がいつもまぶしい。
二十後半の絶賛恋人募集中という、そんな女子情報はそれはともかく。
「あ、ありがとう」
夏美ちゃんは肩を貸して歩いているうちにも、ますますガタガタ震えてきた。
顔色も悪い。
流石にボクもおかしいと感じる。
嫌な予感だ。
よぎったのは凍子の奴。
あいつがまた何かやらかしやがったのか。
山菜うどんの一件以来おとなしくしていると思ったが……。
そうすると学校が危ない。
ベッドに寝かせた夏美ちゃんを養護の林先生に預けた。
夏美ちゃんの家族に迎えに来てもらう、とのこと。
他にも2、3人がベッドや椅子で休んでいる生徒がちらほら。いずれもうちのクラスメイトばかり。
「変よねえ。二年1組だけ、お休みと早退する子が増えてるのよ」
養護の先生が首を傾げていた。
「あれ。うちのクラスだけですか?」
「ええ。あなたは確か……」
「北原です」
「ああ、あの男子の北原君の……。彼元気?」
「え、ええ。まあ」
ここでも突っ込まれる。
ここは任せてもう帰って良いということで教室に帰される。
そして教室へ戻ると学級閉鎖となったうちのクラスは残り半分以下。さらにその半分も見るからに辛そうだ。
(隣の2組はどうなんだ)
ふと疑問が湧いた。
うちがここまで酷いのなら……と思ってこっそり覗く。
あれ……。
普段通りでにぎやかだ。
取り巻きの生徒もいつもどおり。
「1組が学級閉鎖だって」
「いいなあ、俺も帰ってゲームやりたいぜ」
2組からは他愛ない雑談が聞こえてくる。そして肝心の凍子はいない……。
「北原さん」
教室に戻ろうとしたら、その本人の声がいきなり背中からボクを突き刺した。
この氷のように透き通るような声。忘れない。
「なんだよ凍子、こんな時に……」
あの長い黒髪をかきあげて、目を細めてこっちをみている。
こちらを射すきつい目がますますきつい。
「わかっているの?」
「何が?」
だがボクも負けず視線を返す。
「そちらの教室で起こっていること……」
「わかってるさ。何か知らないけど大変なことに……」
「いいえ、わかってない」
「え?」
「あなたがそちらの教室の異変の原因だってこと」
他の誰かだったらここまでムキにならなかったかもしれないけど、言われたのが凍子だから咄嗟に叫んでしまった。
「な、何を根拠にっ」




