第八十一話「しばし雪解け」
その日の夕方には、夏美ちゃんと智則も約束通りやってきた。
そして二人とも、山菜うどんを注文する。
「念願のうどん、凄く楽しみ」
夏美ちゃんからは、凄くうきうきが伝わってくる。
両親共に今日は出張で遅くなるから、食べるんだって。
「俺も、邪魔しちゃ悪いかと思ってさ」
智則も今日は雪乃亭で食べると了解を貰ってるらしい。
「遠慮しなくて良かったのに」
待っている間も、会話は途切れない。
「うちのパパに話したら、氷清きのこうどん、うちの村の売りにしようってB級グルメに立ち上げようって、凄く息巻いてたよぉ」
「へえ……それは嬉しいな」
うちの店が村の役に立ったのなら、何よりである。
「あ、もちろん発祥は雪耶ちゃんのとこの「雪乃亭」ってしておくからって」
そして十分後。
「わあ、美味しそう」
運ばれてきた土鍋の蓋を開けると歓声があがる。
湯気の間から姿を見せる色とりどりの山菜。
「美味しそうだな。凄いな、雪耶ちゃん」
二人とも、箸をとって美味しそうに食べてくれた。
改めて美味しい、と。
美麗字句を貰わなくても、表情から喜んでもらえてるのがわかる。
そしてふと箸を止めた。
「それから……あのね……」
「ん? 何?」
「凍子ちゃんが、ごめんなさいって言ってたよ」
素直に直接いってくれればいいのに。
まあいいか。その気持ちがあれば。
凍子に謝ることができる人間、いや雪ん娘であることがわかれば十分。
この先油断する気はないけれど。いつ智則に手を出すかわからないしな。
それより夏美ちゃんの凍子の呼び方がちゃん付けになっているのが……。
知らない間にネットワーク広げてたのかな?
「ま、別にいいよ」
サインペンを手に取った。
とりあえずおしながきに、「元祖」の文字を書き加えるか。
この二文字は、うちだけが名乗っていい文字ということに、村の偉い人たちとかの話し合いの結果そうなったらしい。
このたった二文字が、今回いろいろ奮闘した成果。
まあ良しとしよう。
それから後でホームページの更新にも手をつけないと。
そして、その喜びの翌日。
ボクの姿は氷清岳の奥深くにあったのである。
わずかばかりの樹氷が生えていて、後はひたすら雪、雪、雪。
部の朝練が無いと思ったら、今度は母さんからの雪ん娘修行。
でもボヤキは言うまい。
修行を適当にやってて、氷見子にボコボコにやられたのが、堪えた。
いざという時に、あれは駄目だ。
店の方は上手く解決したけれど……。
っとボクなりに反省したのである。
「だめよ、コントロールがなってない」
母さんの厳しい外来語混じりの注意が飛ぶ。
直々の修行指南である。
「ほら、もっと集中して。降り積もる雪と自分を一つにして、思い浮かべるのよ」
よくわからないけれど、とにかくやってみた。
「こ、こうかな?」
何度も何度も繰り返しているうちに、降っている雪と何か波長があうような瞬間があった。
「あっ、これだ」
「そうよ。その感覚、忘れないで」
小さく空気が回り始め、徐々に吹き上がってゆく。さらにどんどん強まっていく。
リキみ過ぎず、かといって抜きすぎないように、流れに身をまかせるようにーー。
ついに大きなつむじ風となった。
「その調子よ。一度感じが掴めたら、あとは楽になっていくから」
修行には厳しい母さんがようやく褒めてくれた。
でも雪ん娘として力をつけるには、地道に修行するしかないという。
レベルを簡単にあげる方法は無し。
「はあー、疲れた」
ようやく貰った休憩時間に、雪原の上に腰を下ろした。
ボコボコにやられた苦い経験を経てボクも考え直した。
修行を以前よりは真面目に取り組むようになりました。
雪ん娘修行はまだ途上だ。




