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第七十八話「反転攻勢に向けて」

 外は雪がしんしん降り続いている。

 店のドアがからんからんと音を立てて開いた。

 ひょっこり中の様子を伺うように、入ってきた中学生の少女。

 そしてボクを見つけて手を振った。


「雪耶ちゃん!」


 今日も夏美ちゃんが店にやってきた。

 入ってくると肩に積もった雪を振り払う。


「あ、夏美ちゃん、いらっしゃい」


 店の一番奥の落ち着ける席に案内する。

 そして暖かいお茶でもてなす。湯飲みをとん、と置く。


「あ、ありがとう。助かるなあ」


 夏美ちゃんがお礼を言ってくれる。まあうちの店のお茶はぬるいぬるいとよく言われるけど。ボクには熱いお茶。


「ここのとこ、雪乃亭、混んでたから来られなかったから久しぶりだね」

「そういえば、そうだったね」


 ヒット作の誕生は喜ばしいけど、会えないのは残念なような。

 今日はたまたまお客が途切れて一息ついていたところだった。


「前の方がじっくり落ち着いてお話できたけど、そういうわけにもいかないよねえ」


 あはは、とお互いに笑う。

 今日は智則は塾で不在。だから二人だけの会話になる。

 これも女子トーク、なのだろうか。


「あ、ぜんざいでいい?」

「うん、そうだね」

「はーい、じゃあぜんざい一つね」


 すぐに注文を調理場にいる父さんに通す。

 夏美ちゃんは待っている間、しきりに山菜うどんを気にしていた。


「今度はこの山菜うどんにしようかな。まだ食べてなかったし」

「うちの特製だからおいしいよ。もうすぐ味噌味も用意しているからご賞味よろしく」


 えっへんと腰に手を当てる。在庫はこないだの散策のおかげでいっぱいある。

 氷見子の奴がその後どうなったかはわからないけれど。

 まあ大好物のアイスを山ほどあげたから、いいよね。ボクは何も悪くない、はずだ。

 そして文字通り山ほどある山菜のおかげでさらなる新メニューも開発。


「楽しみだなあ。負けないでね」


 氷倉ホテルとの事情を知っている夏美ちゃんの励ましがありがたい。

 

「もちろんだよ」


 値段も向こうと張り合える額でなんとかやっている。

 実のところ、これでも苦しくて意外に儲かってないのが実状である。

 だから……もしこっちを潰すので、これ以上の値下げをされたら、値段では、赤字。終わりでもあった。


「本当、頑張るところ、雪哉とそっくりだね。家のことに必死なのもそうだし、上手くいくと喜ぶところも……」

「そ、そうかなあ」


 父さんも料理は、一応店をやってるから、それなりの腕前だ。

 今は下ごしらえに勤しんでいる。

 鍋でじっくり煮えているのは、うどんの出汁。

 いい匂いが鼻をつく。

 氷清きのこをだしに使っているから、これは豪華だ。

 うまみがたっぷりでる。 

 文句無しのうちの自信作だ。

 その匂いにつられてお客さんが、やってくる。

 ドアの鈴がカランカランと鳴った。


「ま、やれることをやればいいさ」


 夏美ちゃんとの会話を打ち切り、入ってきた新しいお客さんに声をかける。反対側の席へ案内する。


「いらっしゃいませ、どうぞこちらへ」

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