第七十五話「雪ん娘の泣き所」
もちろん来る前に母さんに相談した。圧倒的な力の差のある氷見子の攻略法だ。
「雪ん娘の弱点?」
「う、うん、どこがあるかな?」
少し腕を組んで考え込んでいた。
「熱いお湯に弱いとか」
「それはボクも同じだよ」
以前よりもすっかりお風呂が駄目になった。
だんだん体質が雪ん娘よりになってきているらしく、父さん曰くほとんど水風呂。
この間もお風呂に入った時、父さんがざぶっと入った後に悲鳴をあげてでてきてた。
「ああ、山の温泉……母さんと一緒に」
「別のやつでお願い」
ボクは大丈夫でかつ、山の雪ん娘が駄目な奴をお願いする。
母さんが再び腕を組んで考える。
「そうねえ……弱点かどうかはわからないけど、修行中の身だから、多少雪女の力をつけていても、精神の鍛錬はまだまだだったわね」
「というと……?」
「雪ちゃんは、里で育ったからわからないかもしれないけど、雪ん娘から見れば里の人の方がむしろ脅威なの」
「誘惑につられたり乗せられたり……なんて」
むしろ雪ん娘の方は人間に騙されることを心配しなければいけないらしい。人間のことをあまり知らないから悪い人間にひっかかるとも限らない。
それが心配されるほど、純粋な部分がある。
なるほど。立場が変わればそうなるのか。雪女側からみれば人間は得体のしれない存在。
雪女伝説だって、人間に振り回されるお話かもしれない。
って、何雪ん娘視点で考えてるんだ。
ボクはこれでも人間だから。
「まあ、母さんは出会ったのが修ちゃんだったからね」
「はいはい」
仲むつまじいことはボクもよく知ってます。
「具体的なのってないかな? これをされると弱いって」
即答だった。
「それなら、やっぱり食べ物ね。母さんなんか、しょっちゅう村まで降りてきて、いろんなもの貰ったりしてたから、よく怒られたのよ」
よく村の子に混じって遊んで、もらう飴やお餅が好きだったとか。お返しに雪山に連れて行ったり。
どこかでそんな話を聞いたことがある。そうだ村外れのあのおばあちゃんがそんなことを言ってたような……。
「最近は美味しいものが昔よりももっといっぱいでてきているみたいね」
そういえば、凍子もアイスが好きだって言ってたし、最近の母さんは。
雪ん娘普通の子と好みは同じというか。
「それに、施し受けたら返すのが掟よ」
お返しに山のとっておきの場所に連れて行ってあげたとか。
ますますそれは良い情報だ。
「あ、でも……。男を襲うってやつは違うの?」
あいつら、あの大学生を襲ってたし。
「んー、それはまた別の話ね。力を得るのと、食べ物は……」
ちょっと目を逸らしていた。
あんまり母さんもそこには触れられたくなさそう。ちょっと言葉を濁している感じがある。雪女の影の部分なのだろうか。
「まあ修行したら山からもらう精気で食べなくてもいいようになれるけど……」
まじかっ。まあそれは、今はいい。
ということで、誘惑に負けた氷見子はもうボクの支配下なのだ。
「山菜の場所を教えてくれないかな?」
そしてさりげなく本題へ。
「……あ」
手にしているアイスとボクを交互に見比べた。
ようやく乗せられていることに気づいたようだ。




