第七十四話「雪耶の秘策」
「こうして喧嘩したって何もいいことは無いよ。上手にやっていこうじゃん」
「はあ? 何言ってるの? ひょっとして怖じ気づいたのかい?」
氷見子はボクの態度に呆れている。だが、とりあえず戦闘ポーズはやめて腕を下ろした。
「あ、そうだ、今日はこれを持ってきてるんだ。一緒にどうかと思ってね」
横にぶら下げてきているコンビニの袋を見せつける。
作戦開始。
袋の中身の一つをおもむろに取り出した。
「うん? なあに? それ……」
取り出したのは、夏の人気アイテム。ボクもお気に入りの赤と緑のスイカアイスだ。
爽やかな色合いは、離れたところから見ても美味しそうである。
他にも沢山、これでもかと入れられている。
いずれも青いソーダ味やイチゴ味は色とりどりの魅力的な色彩ーー。ただし着色料不使用。
「うわあ……何それ、綺麗……」
早速目を輝かせる。
「ほら、ここに麓のお菓子があるよ。このアイスキャンデー、甘くて美味しいんだよ」
「キャンデー? 飴のこと?」
「そうそう」
まだまだ疑いの視線を向けてきて警戒しつつも、興味と甘いものの誘惑には勝てない。
「あれ? 欲しいの?」
物欲しそうにしていることにはっと気づいたのか、慌てて腕組みして、ぷいっと横を向く。
「ふ、ふん、そんなもの……別に」
「ふーん」
でもちらちらこっちを見ているよ。わかりやすくていい。
痩せ我慢してる。
では、攻撃第二弾。
「じゃあ、先にいただいちゃうよ」
一つを開封した。
ゴリゴリ君パイン味。期間限定、沖縄パイン味。
「おいしー、このパイン味……香りも抜群、うわ、果肉もちゃんと入ってて、南国の味が漂ってくる。青い海と白い雲と照りつける太陽が……」
おうおう、みてるみてる。
「こんなに美味しいのに……食べないのはもったいないなあ。お、こっちのシークアーサー味なんかもっと最高だろうな」
もう我慢するのをやめてしまったかのように、こっちをじっとみつめて指くわえている。
「いらないってんなら、ここで全部食べちゃおう」
「あ、あ……」
もう氷見子はこっちの手のひらで転がしている。
「それとも、食べる?」
一本取り出して差し出した。
氷見子がうんうんと頷いた。
よし落ちた。
こっちおいで、と手招きすると素直にやってきた。
やっぱり雪ん娘はすれてない。
「好きなのとっていいよ」
袋の中をごそごそして一本を取り出した。
「本当? ありがとう」
袋開けるのに苦労していたので手伝ってあげた。
「おいっしー! 何これ? 甘酸っぱくておいしい」
早速南国の味を楽しんでいただいた。
「宮崎の完熟マンゴーを使ってるから、そりゃ美味しいさ」
「うん、うん」
「青い空と海、それに砂浜に照りつける太陽を感じるでしょう」
「よくわからないけど、美味しいっ」
作った人も雪ん娘を喜ばせてるとは思わないだろう。
買収完了。
「バニラ味にチョコ味、ほらポタージュ味も……」
さらにおいうちをかける。
「もっと食べたいなら、いっぱいあるよ?」
袋をどさっと放り出す。
「うわ、もう幸せだなあ」
「遠慮せずに、もっともっと食べていいよ」
ゴリゴリ君、スーパーカップ、雪観大福どれも好評だった。
うんうん。
上手くいった。
これも母さんのおかげである。
来る前に母さんに相談した。氷見子をどう攻めたらいいか。
そして考えた。




