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第七十三話「再戦」

 翌週は、とにかく忍耐の日々である。

 負けたのだからしょうがない。

 学校はもちろん普通に行った。


「あれ? 北原さん、その顔、どうしたの?」


(やっぱりみつかったか)

 小さい顔のすり傷は数日残った。

 手で隠してはいたが、隠しきれるものじゃなかった。


「あ? これ? 学校に来るときにころんじゃったんだ……」

「ええ、大丈夫?」

「もちろん」


 空元気を見せる。

 藤崎さんたちにも心配された。このところ実家のことで走り回っていたみたいだからーー。

 そっちは少し休んだ方がいいんじゃない? とも言われた。


 休み時間に凍子と学校の廊下ですれ違っても、相手にすることは避けた。

(げ、きやがった)


 ピカピカパリパリのセーラー服で前からやってくる。お供の女子を何人か引き連れて。こそこそ逃げるのもしたくない。


「あら、その酷いお顔、どうされたのですか?」


 目をそらして通り過ぎようとしたが、すれ違いざまに、わざわざ向こうから声をかけてきた。

 そして長い黒髪がふわっとかきあげた。

 優雅にほほほ、と口に手をあてて、お上品に笑う仕草をする山娘。

 昨日やられたところが、まだ打ち身で痛んでいる。


「ふん……」


 言い返しても、むなしいだけだ。

 そのまま通り過ぎた。

 やっぱり氷見子あいつと繋がってたか。


 そもそも発端となったうどん戦争はというと、こちらは状況がもっと悪化。

 ホテルのサイトはパワーアップしていた。

 大人気御礼、特設ページもできていた。

 反対に、うちは材料が不足して満足な量を提供できていない。

 お客も向こうに流れている有様だ。


「頑張ってね、雪耶ちゃん。あたしに何かできることはある?」


 店にぜんざいを食べにきた夏美ちゃんと智則二人からも励まされた。

 いつもの席に座った夏美ちゃんは、お餅に下鼓みしながら心配してくれている。


「ありがとう」


 夏美ちゃんの励ましが今は心強い。


「相手は氷倉ホテルだからな……」


 あとは智則も一緒に心配してくれる。


「大丈夫、なんとか考えてるから」


 胸を叩いて見せた。まあ、まだ空元気であることは自分でもわかっている。








 ということで、翌週休日にまた雪山へ。

 先週ボクがボコられた同じ場所にやってきた。

 谷間にある小さな雪原の岩の上。ほどなくあの白い着物姿の少女が出現した。


「来たな」


 この寒い中でよくあんな薄着だな。白い腕や太腿も丸出しで。

 まあ、ボクもだいたい同じだけど。


「あんたこそまた来たのね、この辺りはあたしの縄張りだって何度言えば……」


 そういいつつ氷見子もまた来ることを予測していたのだろう。驚く様子もなく待ちかまえていた。

 前回の圧倒的勝利に、得意満面だ。

 一度あのおさげを揺らした後に手を横にかざす。

 ひゅうう、と早くもつむじ風が氷見子の後ろに巻き起こる。


「ふん」


 もちろん、あれを食らったらひとたまりもない。

 流石に一週間でちょっと修行をしたら、すさまじいパワーアップなんて少年マンガのような展開は無い。

 ガチンコでやったら負けは必至だ。こんどこそ再起不能に叩きのめされる。

 それが向こうはわかっているから余裕の表情だ。


「さあ早くきなって。どうしたの?」


 調子に乗ってびしっとファイティングポーズまで決めてるよ。


 もちろん、煽りには乗らない。

 そして立ててきた作戦を実行に移す。


「待てって。今日はそのためにきたんじゃない」


 手を出して制止のポーズ。


「ふん、今更何を言っても……」

「一時休戦といこうじゃないか」

「は? 何言ってるの」


 雪の上にどっかり腰を下ろして胡坐をかく。

 こちらは戦いではなく、無抵抗のサインを出す。


「とりあえず……お互い争うのはやめないか?」

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