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第七十一話「翻弄されてる!?」

「こら、この山菜泥棒!」

「人聞き悪いね。ここらあたりのものはみんなあたしのだよ」


 もちろん追いかけた。

 必死で雪ん娘氷見子を追いかけた。


「あはは、怖い顔」

「逃がさないぞ!」


 だが想像以上に素早い。

 追いかけても、追いかけても遠く離れていく。


「はぁはぁ……」


 見失った……。

 追いかけていたのに、姿はどこにも見えなくなってしまった。

 こうなると流石に見つけることは無理だ。

 息を整えているうちに、かっとなって血が上った頭が冷やされる。


「あれ? ここは……」


 いつの間にか大きな岩の上にいた。

 雪が積もらず岩肌が剥き出しになっている。

 他から丸見えの場所にいることに気づいた。

 まさか、ここに連れてこられたのか――。

 そう思ったら、あの憎たらしい声が轟いた。


「こないだのようにはいかんからね」


 慌てて振り返る。

 いなくなったと思ったら、氷見子はすぐ背後にいた。

 いつの間に?

 同時に焦った。

 ここは隠れるような場所がない。奇襲戦法は使えない。

 しまった。逆におびき寄せられた――!?

 と思った途端に、ふいに風がぶわっと巻き起こる。

 最初はほんの小さなつむじ風だったが、徐々にひょおおおと不気味な音をたてて大きくなっていく。


「さあ、この間、あたしの髪引っ張ってくれたお返し、たっぷりしてあげるから」


 何をする気か、次に出てくる手がわからず、混乱するこちらに対して、相手は自信に満ちた顔。


「くふふ、さあ、行くよ」


 もう向こうは勝ちを確信している。


「く……」


 何かしてくる。なんとかしないと。

 だが、何をしてくるのかわからなくて対処のしようがない。

 こういう時は。


 にげ……


 そう思った次の瞬間につむじ風がぶわっと氷見子の体を包み込んだ。


「な、なんだ?」


 そしてふわっと舞い上がった。

 吹雪の竜巻に身体を乗せて。


 それは身体がまるで羽で舞い上がるかのように――。

 浮き上がった。


「な。あんなことが……!?」


 あたかも翼をもって飛ぶように――。


 ばかみたいに呆然と見上げているボク。

 氷見子のにやっと笑った顔が目に飛び込んできて、その次にはもう白い煙をあげて吹き飛んでいた。






 ボコボコにされて帰ってきました。

 多くは語るまい。


「いてて……ちくしょう……あんなくそガキにやられるなんて……」


 手も足もでなかった。風と吹雪を自在に操る雪ん娘氷見子の前に、一方的だった。

 文字通り命からがら。

 やられたふりしてたことろを隙をついて逃げ出すという情けない逃げ方もしました。

 山で育った雪ん娘は違う。

 前回の奇襲攻撃が成功したので、甘くみてたのもある。

 むしろ、前の一件で警戒されて、相手の油断を誘うこともできないし、

 目くらましも使えない場所で、ガチンコになった。結果は必然だった。

 雪原に大の字にひっくり返ったボクの耳にあいつの、氷見子の笑い声が耳に残る。


「あははは、出直してこい――」


 今のボクの雪ん娘としての力は、まったくのお子様レベルにもなっていないようだ。

 手ぶらで我が家、雪乃亭へ帰還。


「ただいまー」


 しょんぼりした顔で店のドアを開けた。

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