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第六十九話「再び遭遇」

 帰宅したら、早速パソコンを立ち上げる。

(あちらの情勢に探りを入れてみるか……)


「これか」

 

 検索したらすぐに発見できた。

 氷倉ホテルトップページに、シェフのおすすめ、新メニュー登場なんてタイトルが新着情報コーナーに記事としてあげられている。

 明らかにうちをパクってるじゃないか。

 しかし、このサイトを見ると改めて見ると凄い。

 動画やツチッタ、ファイスブックでも宣伝している。

 下手したら、今日みたいに雪乃亭うちが真似したなんて思う人もいるかもしれない。

 だが……うちの店のホームページが子供騙しに見える。というかあれから更新サボってるし。


「負けないぞ……」


 こうなったらあっちよりも良いものを出してこっちの方が上だという評価を得よう。氷倉ホテルに負けてたまるか。というか、これまでずっと負けっぱなしだったのを久々の勝負にもちこんだのだ。

 ともかく兵站を充実させないと。


「父さん、何か買ってくるものある? 買い物いってくるよ」

「おう、お願いするよ」


 いつもの買い出しを引き受けて、地元にある「山道の駅」に様子を見に行くことにした。

 ここはお土産に山菜を買う観光客に混じって地元の飲食店関係の人も仕入れにくる。


「えーっと」


 陳列されている山菜類の値札を見てびっくり。心なしか高い。中には倍の値段のものもある。

(値段が高騰している!?)


「た、高っ」


 時々食材の買い出しに行く父さんにくっついて来たことがあった。

 この辺のお店の人は大抵顔見知りである。


「おや、みかけない子だね、買い物かい?」


 年配のお店のいじさんに声をかけられる。

 ああ、まだボクは新顔だった。


「その子、北原さんとこの姪っ子だよ」


 別の業者の人の言葉に怪訝な顔つきが柔らぐ。


「おう、北原さんとこの子かい」


 父さんは元来、よそものではあるが地元にとけ込んでいるし、地元に溶け込む努力をしている。 

 お酒とギャンブルだけはもうちょっと控えてくれれば……。 


「ところで、どうしたんですか? これ。先週よりも値上がりしてるような……」


 そして値段を指摘する。まさかぼってるわけではないと思うけど。


「氷倉ホテルがいい値段で買っていくから値段が高騰気味なんだよ」

「他に仕入れる人のために、これでも結構頑張ってるんだ」


 たとえ百円でも、結構痛い。


「まずい……。この原価だと値段であっちに負ける……」


 流石に赤字覚悟の営業はできない。

 結局手が出せずにそのまま帰宅。

 こうなったら……あれしかない。


「おかえり、雪耶」


 店番していた母さんが、ボクをお出迎え。


「母さん、山の食べ物の取り方、教えてよ」

「え? いいけど……でもどうしたの?」


 ボクが自ら取りに行くしか……。





 ということで、日曜日。冬山の山菜狩りとなった。

 冬山で山菜狩りなんて無謀……と思われるかもしれないが、そこは違う。氷清連山特有の冬のものがとれるのだ。


「やった、こんなところに茸が……」

 

 散策開始。

 雪の下に埋もれていて春を越すという氷清茸と氷清草の芽。

 結構な珍味として高い値段が付けられる。

 炒めて食べるのもよし、煮て食べるのも良し。

 味つけはお好みで。

 袋の中に放り込む。


「よし、次行くか」


 母さんから聞いた採取法の秘伝だ。

 といっても大したものではない。

 木の根本。岩影。

 雪が薄くなっているようなところで見つかる。

 わからなければ、こうしろと教えられた。

 静かに目を閉じて耳を澄ます。

 そして雪の下の気配が聞こえてくる……らしい。

 まあよくわからないし聞こえないけど、慣れてくると楽しい。


「ここかな?」


 なんとなくありそうな感じがある場所を探すと見つかるのだ。

 コツ掴めてきたぞ。

 だいたいありそうな場所が。

 山の斜面の間もくまなく探す。


「あれ……」


 誰かに取られている形跡がある。

 あきらめて別の場所に移る。

 ここも取られてる……。

 くそ、ライバルがいるぞ。

 ここもあそこも、ごっそりやられている。

 どんどん奥深い場所へ入り込んでいった。

 負けてたまるか。

 ようやくみつけた切り立った岩と岩の間。

 おっ雪の合間に草の芽が……。 

 取ろうと身を屈めた刹那、脳天に響くぐらいの衝撃が尻から頭にずしん、と響いた。


「うぷっ!?」


 バランスを崩してすってんころりん、勢いよく顔から雪に突っ込んだ。


「あたしの縄張りに何をしてるのさ」


 ケツを蹴とばされたと気付いたのは、こちらを嘲笑うような笑い声が聞こえた。


「あはははは、ここはあたし、氷見子の遊び場だよ。勝手なことはさせないんだから」


 雪と静寂が支配する谷間に笑い声が響いた。

 着物姿のボクよりもずっと幼い少女が立っていた。

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