第六十八話「再び対峙」
周囲も騒動に気付いてざわついてる。
「お、おい、一組の北原さんじゃん」
「何かあったのかな? あの二人……」
涼しい顔してやがる。
ここで引いたら悩んで出したアイデアも、父さん母さんも頑張ったこれまでの苦労が水の泡だ。
「よくもうちのメニューを真似してくれたな」
ますます目を細めた。
「は? なんのことかしら?」
「これだよ、これ」
菅野から借りているスマホの画面を見せつける。
さきほどの氷倉ホテルのサイト。
「どうみたってうちのメニューじゃないか」
山菜うどんを指し示す。ぱくりだろ、と。
「人聞きの悪いことは言わないでもらいたいわね」
「いくらなんでも可笑しいだろ。悩みに悩んで生み出した新メニューなんだ」
「そうまでおっしゃるなら証拠をお見せなさい。きっとあるのでしょうね、確かなものが」
「う……」
意外に冷静な切り返し。勢いで突っ込みすぎた。
「あら、無いのかしら? まったく教養もない田舎の雌猿はしょうがないわねえ」
「ぐぐ……そんなのあるわけないだろう」
だいたい田舎娘はどっちだ。東京のお嬢様ぶりやがって。
「そっちはアイスクリームでもうどんに入れてろ」
「なあに? 文句があるんだったら、ここで決着つける?」
「望むところだーー」
ひゅううーという冷たい風が教室内を駆け抜ける。
「この間のようには、いかんよ? もう次は卑怯で下品な雌猿に負けるなんてありえんしねえ」
氷清なまりが出てるぞ、凍子。
「その下品な雌猿に無様な不覚をとったのはどこの誰でしょうかねえ」
「何を……」「なんだと……」
火花を散れば散るほど、冷え込んでいく空間ーー。
ストーブがあっても全然暖まらない。
「お、おい、なんか教室が急に寒くなってきてないか?」
「やだ、誰か窓開けてない?」
皆身を屈めて辺りを伺う。教室内がみるみる気温が低下する。
二年二組の教室にいる生徒みなガタガタ震え出す。
一触即発。冷たい戦争。
そんな時に教室の戸ががらっと開く。
そしてつかつかとやってくる。
「こら、やめろって二人とも」
一人の男子の声が二人の散らす火花を鎮める。
「智則っ」
「智則さんーー」
風邪はすっかり全快しているようだ。
「新しいうどんメニューが評判なんだってな……」
智則も新メニューを知っていたみたいだ。なら話は早い。
「そうなんだ、智則、うちに食べにこない?」
「智則さん、わたしのところへ心を込めたうどんをーー」
智則を味方に……。
「二人とも落ち着けっての!」
「おいてっ」
「いたっ」
二人とも頭にチョップとゲンコツをそれぞれ喰らった。
「さあ、帰った帰った。雪耶ちゃんも帰るぞ」
智則に腕をひっぱられ、引き離された。
放課後。憤懣やるかたない。
雪ん娘だけど、沸騰中。
「ずるいよ、ぱくった上に値段にものをいわせてうちをつぶしにかかってきてるんだから」
帰り際に収まらない怒りをぶつける。珍しくうちがとばしたヒットだっただけに、悔しさは倍では済まない。
「わかるよ、雪耶ちゃん。向こうも、一言ぐらい言ってくれれば良かったのにね」
夏美ちゃんも頷いて同意してくれている。とりあえずこっちの味方のようだ。
「でも、悪いけどなんかちょっと安心した……。なかなか本音を見せる時がなかったから、雪耶ちゃんの普通に笑ったり怒ったりする素の部分が見られて……」
「え?」
そんなふうに見えてたのか……ずっと気を使って取り繕ってきたからなあ。少しずつ普通の自分をみせても大丈夫なラインがでてきたからなあ。
「そ、そうかな?」
「それに、雪哉とそっくり。お店のことになると熱くなるのって。大事なお店なんだなあって」
「それはそうだけど」
雪哉とそっくりか……。まあ当人なんだけど。
「頑張ってね、雪耶ちゃん。何もできないかもしれないけど……」
村長の娘だからなあ。その力にすがって何かをしてもらおうとは思わない。結構デリケートな部分だしね。




