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第六十六話「小さなヒット」

 そして数日後。


「すいませーん、氷清山菜うどんお願いしまーす」


 お客さんからの注文が絶えない。


「母さん! 凄いよ」


 目論見は見事に的中した。

 入り口のドアに写真付きのメニューを店の前に掲示した。

 壁にも、窓にも「新メニュー登場、氷清山菜うどん」と表示する。

 さらに栄養満点でしかもヘルシー、とキャッチコピーを表示した。 

 そしてそれにつられてやってきたお客さんが次々に来店、そして注文する。

 ボク、そして母さん考案の新メニューは大ヒットだった。

 元々うどんはメニューにあるし、応用は簡単だった。

 具体的なレシピなどの開発は父さんが担当。

 氷清村で取れた珍しい山菜で作った山菜うどんだ。

 メニューが平凡という弱点を解消した上に、目を引く効果もあった。


「あれ、ください」

「じゃあ、私も、その山菜うどんにします」


 壁の写真付きのメニューを見て、それにつられてゆく。


「はい、お二つですね」


 注文は殺到。

 中には、まだ宣伝なども特にしてもいないのに、評判を聞いてやってきた人たちもいた。


「あのーー、氷清山菜うどんやってる雪乃亭ってここでいいんですよね?」

「あ、はい、そうです」


 お客さんがどんどんくる。

 ドアがひっきりなしに開けられる。

 だが問題もすぐに発生した。


「追加で四人前お願いしまーす、あ、いらっしゃいませ、こちらへどうぞ」

 

 地元特産の山菜をふんだんに使ったことをアピール。

 手間がかかる上に、あまりに注文が集中しすぎて、追っ付かない。

 当然クレームになる。


「ちょっと、まだ来ないの?」


 呼び止められたのは家族五人のお客さんだ。

 お腹が減ったという小学生か幼稚園ぐらいの男の子が、むずがっている。


「す、すいません、今確認してきます」


 お腹がすいているお客さんはイライラするものなのだ。それをなだめるのは容易ではない。

 早く届けたいのはやまやまなんだけど。


「申し訳ありません、ただいまお作りしてまして……」

「もう三十分も待ってるよ」


 時計を見ながら、父親らしき人が不満をこぼす。


「しょうがないなあ……」

「お父さん、この子に文句言ってもしょうがないでしょ。それに手作りなんでしょ? 時間がかかるのよね」


 赤ちゃんを抱っこしているお母さんが、不満の矛を収めてくれた。


「本当に申し訳ありません……」


 このクレームを受けてから、せめて接客時に注意することはした。

 新しくやってきたお客さんに、応対するときに一言。


「氷清うどんは、お時間いただきますが、大丈夫でしょうか?」


 念のために、尋ねることにした。

 それだけでクレームは減る。


 だが根本的な解決には至らない。

 そして、スマッシュヒット商品の誕生が、問題を浮き彫りにしてしまう。

 店のキャパが小さすぎるのだ。調理場も小さいし、客席も足らない。

 満席を見てがっかりして帰って行くお客さんも出た。取りこぼしている。

 営業終了後の夜。 

 ボクと父さん母さんでテーブルを囲む。


「ねえ、父さん、せめて調理スペースだけでも、改修できないの?」


 もっと、こう動きやすく、収納もゆったりとできて、作業効率があがるようにならないか。

 時々業務用キッチンメーカーの営業の人が回ってきて置いていくパンフレットを眺める。

 今はもっとコンパクトでスマートで性能のよいものがでているようだ。

「あ、この食器洗い機、いいなあ」

 かなりの作業の軽減に繋がりそう。そしてちらっと父さんにおねだりの視線を送る。

「雪耶、お前、工事にどれだけかかるかわかるか?」

「うう……」

 確かに資料に書かれている参考の見積もり例でも目が飛び出る額だ。

 そこからさらに改装費なんて、とても確保できない。

 ちょっと水回りをいじっるだけでもウン十万円だ。


「あー、もう。うちは駄目店が約束されてる」


 機会損失とかいうんだっけか。そんな難しい言葉を使わなくても、せっかく人気メニューができたというのに、ものすごく損をしていることがわかる。

 パンフレットを放り出し、今度はパソコンを立ち上げて画面を眺める。


「お!」


 雪乃亭の食べナビの評価が上がっていた。

 感想のページを開くと、絶賛のコメントも見つかった。


「山菜うどん、美味しかっただって」

 

 思わず顔が綻ぶ。

 星も五つ入っている。

 こういうのが唯一、心の癒しになる。


「ウェイトレスさんが綺麗」


 星4つ。

 こういうのはいいから。

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