第六十二話「放課後の戦い ⑤」
「うぐぐ……」
智則はまだ悶えている。相当にあの冷気は強力だったみたい。
「何やってるんだよっ大丈夫!? 智則」
呆然としている凍子を押しのけて、智則の身体を擦ってやる。
「ううっ大丈夫だよ、雪耶ちゃん。ちょっとガンガンきたけど……」
二人の間に割って入った。よし、引き離したぞ。
「あなた、はかりましたわね、わたしに嘘を教えて……。最初からそのつもりだったんでしょう」
こっちに責任を押し付けようとしている。まさかあんな馬鹿をやるとは思わなかった。
「常識で考えろよ、ものには加減があるだろうに」
ポンと手を打って煽ってやった。
「あ、山奥育ちだから常識はないか」
お嬢さまは煽りに弱い。
「よ、よくもいいましたわね」
凍子の身体から冷気が吹き出す。
ボクも負けじと雪ん娘モードに。
部屋が見る見る凍り付き、冷気と冷気がぶつかりあい、吹雪を含んだつむじ風が室内なのに何故か起こる。
「本当のことをいっただけだろ」
「なにをいってるんですの、この嘘つき猿」
その対決モードを打ち破る盛大なくしゃみが、部屋に響いた。
「さ、寒い、ぶえっくしょっ」
大きなくしゃみでボクも凍子もはっとベッドの智則をみると、熱が上がってきたようでぐったりしている。
「だ、大丈夫? 智則?」
「智則さん」
だるそうにして、寒気もあるのか身体がガタガタ震えている。
「大変だ、休まないと。誰かさんの相手してるから」
ボクの前にさらに押しのけやがる。
「やっぱり雌猿がいると、悪い影響が……」
だが。
「も、もう……いいから二人とも帰ってくれないか、なんか二人がいると、つらくなってくるんだ」
智則は布団を被ってしまう。
「智則さん、……最後までいさせて、わたしがお供します」
「智則、ここにいてもいいよね!?」
智則のためにも、ここでひくわけには……。
「お待たせー」
部屋のドアががたっと開き夏美ちゃんが熱く煮えた鍋を持って部屋に戻ってきた。
そして部屋の緊迫した様子に気づいた。
「!?」
ベッドでぐったりしている智則にも気づいた。
ここで起きたことはわからないが、夏美ちゃんが危惧していた仲違いがエスカレートしたと判断したようだ。
「もう、何やってるの、二人ともっ」
鍋を横に置いて、一喝。
ボクと凍子の奴の襟をつかんだ。
「行くよ、じゃあね、智則」
引っ張られて部屋を出される。
「うぐぐ……智則」
「そんな……智則さん」
結局夏美ちゃんにボクも凍子も連れ出される格好になった。
「ほ、ほら、行くよ。二人とも」
階段をドタドタ降りていく。そして玄関まで一直線。
「あ、おばさん、あたしたち、これで失礼します」
夏美ちゃんは靴を取り出した。
やむなくボクも靴に履き替える。凍子の奴も諦めて靴を履く。
目があってぷいっと向こうを向いた。やっぱり嫌な感じだ。
「あらもう帰るの? みんな、またいつでもいらっしゃい」
詳しい事情を知らない智則のおばさんはやっぱり上機嫌だ。元気よくボクたちに手を振ってくれた。
幼なじみの差を見せつけてやろうと思ったのに、一緒くたにされてしまった。
ちくしょう。
この様子だと凍子が余計な手出ししないように、智則の家も定期的に見張らないと駄目か……。




