第六十一話「放課後の戦い ④」
凍子の満を持してのお土産作戦は無事失敗に終わった。
「い、いいんです。じゃ、じゃあこれは……」
だが凍子は別の弾をもう一つ用意していた。今度は風呂敷から別のものを取り出した。
それは、また白い冷気をもわっと発している。それでお察しだった。
「氷倉アイス……」
木のスプーン付き。見て笑いを押し殺す。近くにある工場で製造しているやつで、最近やたらとご当地品として売られている。といっても最近発売されたものだけど。
アイスばっかり食ってる噂は本当だったか。
「凍子さんは、毎日アイスクリームを食べているそうで」
またまたぷぷっと笑う。
「ぐっ……」
お、悔しそう。これは勝負ありと思った刹那。
「アイスクリーム……いや、俺、大好きだよ。後で食べるから」
「あ、ありがとうございます、ど、どうぞ」
智則が袋を受け取った。
「これ、冷凍庫に入れといてくれないかな? 夏美にお願いしていいか?」
「うん、いいよ」
智則はそのまま夏美ちゃんに袋を渡す。
「なっ」
しまった。予想外。まさかのクリーンヒットか。
アイスは冬でも食べるーー。誰もが好きな食べ物。
「嬉しいですわ、智則様の好みにあったようで」
今度は凍子の奴の得意な顔をボクに向けてきてるぞ。
いけない、あの雪女にポイントを稼がれた。
「二人とも、喧嘩しないでね、これ、しまっておくから」
夏美ちゃんは受け取ったアイスも持って部屋を出ていった。
そしてついでにお粥を温め直すといって件の鍋も持って出て行った。
「また欲しかったらいつでも言ってくださいね」
「ああ、ありがとう、俺食べ始めたら止まんないからな。俺はフレーバーはバニラとチョコが好きなんだ」
「ああ、わたしも同じです、智則さんと好きなものが一緒なんですね」
会話が弾み始めてしまったぞ。ボクをおいてけぼりにして。
ぽつん、と部屋の隅に座っている自分。
やはり他人の失敗を喜んでいては駄目だ。
行動が大事だ。智則を守らないと。
ここは長年のつきあいというものをみせつけて格の違いをつけてやろう。
すっとベッド脇に近寄る。
「そろそろそのタオル、取り替えた方がいいよ、ぬるくなってるでしょう」
智則の頭に乗っけているタオルを洗面器の水で絞る。
ぎゅっぎゅっとよく絞って、またおでこへ。
「どう?」
「ああ、ちょうどいいよ」
智則はほっとしたような顔をする。
「何をやってるんですの」
おそらくわからないと思うお嬢様に説明を差し上げる。
「頭を冷やしてるのさ。熱があるときは頭を冷やすと気持ちいいんだよ」
「まあ、そうなのですか」
凍子が、そのままその手を智則の頭のタオルに添える。
ふん。
嫌な予感。
「あ、ちょ、待てーー」
智則の頭にのせたタオルが一瞬のうちにキイン、と凍り付いた。ドライアイスのように白い煙がぶわっと広がる。
「うおおお、冷てえっ」
悲鳴とともに、がばっとエビがはねるように布団をはねのけた。
「なんだ、今の。頭が、きんきんする……」
ベッドの上でのたうち回り、顔をしかめる。
「智則!?」
「智則さん!?」




