表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
60/118

第六十話「放課後の戦い ③」

 ごほっごほっと立て続けに咳をした。

 智則は、やはり風邪が治りきっていない。


「大丈夫ですか? 智則さん」


 凍子のやつは智則のベッドの傍らに座る。そして覗きこんだ。

 くそ、遠慮もせずに一等席を取りやがったぞ。


「あ、ああ……大丈夫だよ。ありがとう」


 こっちは相手にしない、とばかりに、背を向けて二人だけのやりとりを始めた。


「この間のことで体に障ったのではないかと……」

「い、いや、俺、ここんとこ、夜更かししてたし、疲れてたからさ。この間のことは関係ないと思うよ」

「本当ですか?」

 

 胸に手を当てて撫でおろす仕草をしている。


「ああ、気にしないでくれよ、凍子ちゃん」


(と、凍子ちゃん!?)

 もはやファーストネームで呼び合う仲なのか。

 これはいてもたってもいられない。

 やつは智則を狙っているんだ。間違いない。

 何をされるかわからない。下手をすると命すら危ない。

 なのに智則はなにをてれてれしてるんだ。

 身体をそわそわさせていると、制服の袖を夏美ちゃんが引っ張った。


「雪耶ちゃん、ここは堪えて」


 違うのに。智則の身のことが気になっているだけなんだ。

 なのに、こちらには構わず二人で会話している。


「もう大丈夫だよ、凍子ちゃん、明日はきっと学校いけると思うから」

「良かった……本当に心配したのですよ」


 二、三。そんな会話をした後、傍らの風呂敷の包みを開く。


「智則さん、どうかこれを……」


 豪華な風呂敷包みをしゅるしゅると結び目を解いてゆく。


「すごーい、お見舞いの品持ってきてるんだ」


 結びを解くとポットのような形をしたステンレス製の鍋が現れた。


「わあ、何それ」


 夏美ちゃんが無邪気に驚く。


「おお、凄いね。それ、アウトドア用のやつ?」


 智則も目を見開く。


「おかゆを作ってきましたの、病を得た人にはこれが一番だと聞いて」


 蓋を開けると、卵と梅がほんのり乗せられている白いおかゆがあらわれた。


「それ、凍子ちゃんが作ったの?」

「ええ。手伝って貰いましたけど」


 どうせ、ほとんどホテルの調理やってる人に作ってもらったんだろう。

 リンゴの皮も剥けなさそうなくせに。

 作るのならボクの方が上手く作れる。飲食店やってる子の名にかけて。

 直接、料理勝負すれば負けない自信があるのだが……何も持ってこなかったのはやはり失敗だった。

 お見舞い品のおかげで、場の空気も話題も凍子のやつにイニシアチブを取られている。


「さあ召し上がれ」


 スプーンで掬って智則の口元へ持ってゆく。

 不意打ちを受けたのか、風邪でまいっているのか、普段の智則の性格なら「いいよ、自分で食べるから」と言うのだが、されるがままだ。恥ずかしいっぽい顔をしながらも、口をあーんと開けた。

 ちょっとやりすぎじゃないか。自分で食べれないわけでもないのに。

 夏美ちゃんも苦笑いしてるじゃないか。熱いね、お二人とジョークを飛ばす。 


「冷えてるよ……これ」


 口にした智則が困ったように呻いた。明らかに不味そうだ。

 あまり演技をして美味しいというだけの余裕が今は無いのだろう。


「え? こんなにちょうどいいのに……」


 凍子、慌ててる。が、自分にとってはちょうどいい匙加減のようで、首を傾げた。


「やっぱり山育ちでは、人の味の好みがわかりませんか」


 口に手をあててぷぷっと笑い。


「うう……」


 ざまあ。


「凍子ちゃん、これじゃお腹こわしちゃうよ。冷製スープみたい……」


 夏美ちゃんも横から一口、味見をして慌てる。


「ごめんな……」


 布団に伏したまま智則は食べられないことを謝った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
script?guid=on
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ