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第六話「雪哉(耶)の秘密」

「うう……」


女の子になっている――。

しかもこれが自分じゃなくてクラスにいようものならドキッとしてしまうぐらいの可愛さだ。そしてその子には近づくこともできないだろう。

だがそれが自分となると話は別だ。

この膨らみかけの胸も、艶やかで細い太ももや素足。

 そして服はダブダブだ。大きくなったのではなくボクが微妙に縮んでいる。

自分じゃしょうがないだろう。

 混乱しながらも、色々な光景が頭に思い浮かぶ。

 一体何故?

 昨日何か悪いものでも食べたか?

 

 これからどうなるんだ?

 トイレは?

 服装はどうするんだ?

 学校は?

 店は?


「どういうことか……説明して」


 居間に戻って改めて今の状況について、父さんから説明を受けることになった。

 すっかり涼しくなった股間を押さえながらーー。


「まずは落ち着け」

「う、うん」


 動揺して声も体も震えがちなボクのために父さんが冷蔵庫のお茶を一杯持ってくる。

 促されて、その冷たい飲み物をのどに流し込む。コップを手で持つのもやっとだ。


「今日は店はやめとこう」


黙ったまま頷く。

 入り口に『臨時休業』の張り紙を父さんが即興で作り掲げた。

 いつもは何か理由をつけてサボろうとする父さんをけしかけるのだが、流石に今日は反対する気にならなかった。

 ようやく落ち着いて来たところで口を開いた。


「昨日の話の続きだ」


 父さんは、まだ剃っていない顎の無精ひげをなでた。


「昨日の話の続きって……母さんのこと?」

「ああ、そうだ。昨日雪哉の母さんは氷清岳の雪女だっていったよな?」

「う、うん……」


 今は素直にうなづいた。素直になるしかなかったというべきだろう。


「父さんと母さんはあの氷清岳の吹雪の中で出会って、そしてお互いが好きになって結ばれた。そうして雪哉が生まれたんだ」

「そう……なんだ」

「そして父さんと母さんとまだ赤ん坊だった雪哉、最初は三人で暮らし始めた。だが、母さんは山の雪女。母さんは山に帰って、雪哉は父さんと二人で暮らすことになった」

「それは……なんで?」

「理由は複雑で色々あるんだが、その一つには、雪哉が男の子で生まれたからというのがあるんだ」

「ボクが男の子……だから?」


 今は女の子……だけど。細かい突っ込みは今日はやる気がない。


「そうだ、雪哉は人間と雪女の双方を受け継いでいるから、人間と雪女どちらになってもおかしくないんだが、だいたいどちらになるかは性別でわかるんだ。もし雪哉が女の子で生まれていたら、間違いなく雪女になるから、山の母さんの元で育てられていたはずだった。だが、生まれたのは男の子の雪哉だった。つまり人間として暮らすことになる。だから、父さんの元で育てることになったんだ」

「そんな……」


母さんと離れ離れになった理由がボクが男の子だったからというのか?


「ただし、人間よりも雪女の方が霊力が強いので、途中で、雪女に変わるかもしれない、そう母さんから忠告を受けていた」

「と、途中で変わるって?」


 だが今は完全に否定することができなかった。その不可思議な現象を目の当たりにしている。身を持って体感する。


「雪女の血……らしいな。その血が母さんから濃く受け継がれていると覚醒してしまい、姿形が雪女に変わってしまうようだ。でもどちらの性質が色濃くでるかは、十四歳になった時にわかる、と。そしてそれまでは黙っておくように、というのは母さんからの伝言でな」


 ちらり、と壁に貼られたカレンダーを見たあと、父さんはまじまじとボクを見つめる。

まさにボクは昨日十四になったばかりだ。


「どうやら雪哉は母さんの方の血を色濃く受け継いだみたいだ」

「だからってなんで男子のボクが……女の子に……」

「雪女は他の何でもない雪女という存在なんだ。雪男という存在は無いようでな。山の霊気と人の想念から生まれた存在だからーー限りなく人間の女性に近くて、子供が産まれるんだとさ」

「だからボクが女の子に……そんなあ」


言っていることの内容は理解した。だが信じ難い内容に口はポカンと開いたままだ。

 ポンポンと肩を叩かれる。


「なんでボクが」


涙目状態のボクの頭を父さんが撫でた。


「安心しろ雪哉、例え女の子になっても、おまえは俺の子だ」

「父さん……」


 父さんの無精ひげの顔を見つめる。父さんもボクから視線を離さない。

 そして、父子感動の抱擁――。

 

 なんてしてたまるか。


「なんか話を無理矢理まとめようとしてるな、その手には乗らないぞ!」


 昨日まで男子だったのに、女の子になってしまったこっちの身にもなってみろ。


「そう、嘆くな。その代わりに、いいことがあるからさ」

「いいことって?」

「母さんがもうすぐ、やってくる」

「え?」

「だから、母さんだ。そろそろ帰ってくる頃だな」

「……母さんが?」


 頭が真っ白になった。今まで絶対に不可能と思っていた、奇跡があっさり実現することに、僕の頭の処理能力がついていかなかった。


「雪哉が十四歳になったら母さんがうちにくることになってるんだよ。黙ってて悪かったとは思うが、全ては雪哉を人として育てたいという母さんの意思からだったんだ」

「ちょ、ちょっと待って、まだ心の準備が」


まだ寝間着のままだ。というか、服がない。

 だが、事態は勝手にどんどん進んでいく。

 直後、誰かが店の入り口の戸を開ける音がした。

 カランカラン。

 そして。


「ただいまーー」


 若い女性の綺麗な声がした。

嘘だろーー。

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