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第五十九話「放課後の戦い ②」

 呼び鈴の音。誰か来た。

 正直微妙な空気だったので、助かった、とほっとしたのが本音だった。

 正体は完全にばれていないにしても、違和感はおそらく二人は確実感じている。

 二人とも感がいい方だ。

 おそらく確実に雪哉ボクと雪耶が何か隠していると思っている。

(隠しきれるのか……)

 冷や汗が流れた。

 だから、ちょっぴり感謝してしまった。すぐにその誤りに気付くのだが。

 部屋にいる三人、誰だろう、と耳を澄ました。


「失礼します、智則さんがやまいに伏せっていると聞いて、いても立ってもいられなくなりまして」


 玄関の方から何やら聞き覚えのあるような女の声だ。

 そしてボクの胸に何か闘争心のようなものが燃え始める感じ……。

 なんだろうこの気持ち。

 宿敵が来たような。

 智則のおばさんの上機嫌な声が階下から聞こえてくる。


「あらあら、わざわざありがとう。心配させてしまって悪いわね」

「いいえ、おばさま」


 そして靴を脱いで誰かが上がり込むような音がする。


「でも智則も隅におけないわねえ。同級生の子がこんなにお見舞いに来るなんて。実はもう二人先に来ているのよ」


 おばさんののりのり声が聞こえてきた。


「え? お二人? どなたでしょうか」


 おばさんは別の女の声と会話している。


「智則と同じクラスの子よ、もう部屋にいるわよ」


 この口調……。

 そしてドアが開く。

 確信めいたものがよぎる。


「智則、また学校からお見舞いに来てくれたわよ」


 先に入ってきたおばさん。その後ろに誰かいる。


「失礼いたします」


 そして開いたドアの向こう、智則のおばさんの後ろに立っていたのはセーラー服姿のあの女だ。

 氷倉凍子ーー。


「え? あ、氷倉さん……?」


 智則も驚いて首だけ枕からあげた。


「ーーあなたは……」


 制服に、まとわりつく黒い長い髪をかきあげる。

 部屋の中に入るなり、向こうもこちらの姿にすぐに気づき、切れ長の目を丸くする。

 そしてすぐにきっと目が細く鋭くなった。いきなり向こうも敵意むき出し。


「なんだ、お前か。何しに来たんだよ」


 ならこっちも、応戦だ。


「あなたこそ、なんでここにいるのですか」


 凍子の右手には何か大きな風呂敷をさげている。なるほど、そういうことか。

 早くも一触即発の空気に変わる。


「氷倉さん、こんにちは」


 不穏な気配を察してか、夏美ちゃんは場のフォローをしようとする。

 正座した状態から立ち上がる。


「こんにちは、あなたは……確か……」

「二年1組の葉月夏美よ。いつも、うちのお父さんからあなたのお父さんにお世話になってるって聞いてるわ」

「ああ、村長むらおさの……お父様が……」


 父の世話になっている子と聞いて顔から警戒心が緩む。


「氷倉さん、こうして直接話すのって、初めてね。よろしくね」

「こちらこそ」


 夏美ちゃんが手を差し出す。

 凍子は夏美ちゃんの手をとり、握った。

 一瞬、大丈夫かと思ったが、夏美ちゃんは、最初ははっとするが、しっかりと手を取って握手した。


「じゃあ、あとはお任せするわね」


 おばさん、お邪魔虫は退散とばかりに部屋を退出する。

 事情を知らないおばさんのウキウキ声だけが場違いに明るい。

 きっと隣の壁に張り付いて部屋の中の様子を伺っているんだろうけど。


「雪耶ちゃんも氷倉さんも、二人は、なんか以前から知りあってるみたいね」


 お互い目も合わせない。間には夏美ちゃんが入る。


「ええ、そうなりますね」

「うん、まあそういうことになるかな」


 そして智則。

 ベッドに寝たまま咳き込んでいた。


「三人とも、まあ、座れって。ごほっごほっ」


 三人が入り乱れて不穏な空気を察したか。

 まさか放課後にこんな波乱が待ち受けているとは――。

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