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第五十八話「放課後の戦い」

「何か持っていかなくていいかな」

「大丈夫じゃない? どうせあいつのことだからすぐに治るって」


 その日の帰りに風邪を引いて学校を休んでいるという、智則の見舞いに行くことになった。

 外は雪が少し止んでいた。

 智則の家は、比較的新しい住宅街にある。

 道路も歩道も整然と整備された一区画に入る。

 普通の戸建て一軒家だ。


「さて、と智則は元気になってるかな」


 チャイムのボタンを押そうとする。


「雪耶ちゃん、智則の家がどこか、よくわかったね。来るの初めてじゃないの?」


 普通に後ろからついてきた夏美ちゃんが、首を傾げた。


「……あ、そうだっけ。ほ、ほら、ここに佐伯って書いてあるから」


 表札を指差す。


「……」


 うっかりした。誤魔化さないと。

 家のチャイムを鳴らすと、智則のお母さんが出てきた。


「こんにちは、おばさん」

「あら、こんにちは、夏美ちゃん。それから……雪……やさんだっけ? 北原さんとこの……初めまして」


 女子中学生の雪耶としては、初対面改めて智則のお母さんから挨拶される。


「あ、はい。北原雪耶です」


 肩の雪を払いつつちょこん、と挨拶する。


「二人ともわざわざすまないわねえ」


 智則のお母さん(おばさん)はお仕事は今日はお休みのようだ。

 案内されて、二階建ての一軒家の二階部分、智則の部屋に向かう。

 もちろん幼なじみの智則。勝手は知っている。

 そうそう、階段を昇って一番奥の部屋だ。

 とはいえ、この雪ん娘の姿、女子中学生として訪れるのは初めてだ。


「よう……ごほっごほっ、この間模擬試験の時に体を冷やしちまったからな……」


 智則はベッドに毛布を被って寝ていた。マスクをしたまま仰向けに横たわっている。

 まだ治りきっていない様子で、熱はやっと下がったがまだ咳がでるという。

 部屋はストーブががんがんで、スチームもたかれている。ボクにはちょっと暑苦しいくらいだ。

 汗が出てきた。


「まったく智則が風邪だなんて、鬼の霍乱だねえ、それとも勉強のしすぎかな」

「雪哉みたいなこというんだね、ごほっ」


 智則が雪哉を指すときは呼び捨てで、今のボクを呼ぶときは雪耶ちゃんである。

 ボクが雪耶としてこの学校に登校するようになって、もう一ヶ月であるから呼び方も、だいぶ親しく言い合えるようになった。


「あ、そうそう、今日の授業で社会科の期末テストの出題範囲があったから教科書とノートのメモ書き写しとこうか」

「ああ、ありがとう助かるよ」


 立ち上がって智則の勉強机を探る。


「雪耶ちゃん、ノートと教科書、そこにあるから……」


 本棚から教科書とノートを探り当てた。


「あ、これだね。あとは、ええっと……蛍光ペンがあるといいんだけど」

「そこの……」


 智則が言い終わらないうちに、ふと記憶が戻って、そのまま行動に移してしまった。


「ああ、真ん中の引き出しの奥だったっけ」


 机の引き出しを開ける。


「あったあった」


 引き出しの奥にある蛍光ペンを見つけて取り出した。

 ボクが気が緩んで見せたその隙を智則は見逃さなかった。


「よく蛍光ペンの場所がわかったね、雪耶ちゃん、前に俺の部屋に来たことがあるみたいだね」


 ずしん、と見えない音が聞こえた。

 強烈な突っ込みの炸裂だ。

 しまった。うかつな行動をまたとってしまった。今の自分はまだ智則の部屋に始めてきたばっかりだ。


「え? そ、そうかなあ、あはは、たまたまだって。わ、わたしも普段ここに入れてるから」

「まあそれもそうか……ごほっごっほ」


 風邪でまいっているせいか追求もそこで止まった。


「ところで、雪耶ちゃん。向こうの……雪哉のやつは元気かい?」


 だが次の変化球がきた。痛い質問だった。


「え? ああ、うん、元気だって。心配はいらないって言ってたよ」


 じっとボクを見つめる眼差し。いつになく真剣だ。

 何か見透かされてるような気がする。


「そっか……もっといろいろ返事してくれって伝えといてくれないかな?」


 確かに……最近、メッセージの返事はさぼり気味。というか書くネタがなくなってきている。空想の新生活を書くのも億劫で……。


「だ、大丈夫だよ」


 智則だけでない。

 夏美ちゃんの視線も突き刺さる。二人、ボクの反応を見守っている。


「あ、あはは……もう、雪哉ったらなにやってるんだろうね。ほんと、二人を心配させてしょうがない奴だなあ、きっと向こうで楽しくやってるんじゃないかなあ、あはは……」


 目をそらして笑って誤魔化そうとしたが、二人は乗ってくれなかった。

 空気がだいぶ微妙になってきたところで、その空気を取り払うように、家の中にピンポーンと呼び鈴の音が鳴り響いた。


「あ、だ、誰か来たみたい。誰かな?」


 渡りに船とばかりに話題を逸らす。

 だが、それは新たな波乱の引き金だった。

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