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第五十五話「雪耶のある長い一日 ④」

 そしてついにやってきました。給食後の昼休み。

 時計をみると、そろそろ時間だ。

 うう……。

 一人立ち上がる。

 夏美ちゃんをちらりみると、やっぱりこっちを見つめている。

 そして頷いた。さあ、出発よ、といいたいらしい。 

 ボクもやむなく頷いた。

 そして教室を後にする。

 ああ……。

 運命の時がきた。



 校内の喧噪が遙か遠くに聞こえてくる。

 ボクは今、氷清中学(この学校)で一番人気の無い音楽室の横の準備室にやってきている。

 建物内部はストーブや暖房をきかせているとはいえすみずみまでゆきとどいているわけではない。この部屋も暖房は効いておらず空気も冷たさを感じる。

 まあ、今のボクにとっては、なんてことはないものだけれど。

 恐る恐る部屋に入ると、いました。先輩。


「ごめんなさい、先輩。待たせちゃいました?」


 女子らしい気遣いをする「振り」をしてみせる。学校にいる間はボクは本当は元男子だという、こだわりを見せるべきではないとは考えている。

 意地とかではなく、正体がばれる危険があるし。

 

「いいんだよ、北原さん」


 準備室で既にボクを待っていた中島先輩。一人の背の高い、スポーツ刈りの男子生徒。いかにもバレーやってるという体格だ。

 三年の中島先輩。ひょっとしてずっとここにいました?


「大丈夫ですか? 寒いのに風邪ひいちゃったら……」

「いいんだよ、ありがとう」


 ちらりと窓の外をみると、また雪がちらついている。

 晴れてるんだか雪が降るんだかよくわからない天気だ。


「あ、また雪、降ってますね。先輩」


 話を和ませようと思ってとりあえず天気の話題を降ってみた。


「そうだね。やっぱり雪耶ちゃんは、雪が好きなの?」

「え? あ、うん、好きです。名前のとおりです」

「そうかははは」

「あはは」

 

「……」

「……」


 やっぱりぎこちない。すぐに会話が途切れてしまった。

 天気の話題ならオールマイティだと思ったのに。

 すでに先輩の目は真剣だ。もう何が起こるかわかる。


「あのう。それで、用事って……なんですか?」


 少し緊張するような、不安と期待を入り交じったような素振り。

 そして、相手の目をしっかり見るのがいいんだとか。

 そんなの……できるわけないよ。夏美ちゃん。


 中島先輩はこっちをじっと見ていた。その眼差しにたじろぎそうになる。

(うう、この視線が……ボクに向けられてる)

 急速に辺りの空気が緊張感のある張りつめたものに変わってゆく。

 暑くもないのに汗が滲んできた。

 先輩のボクを見つめる真剣な眼差しは漢の一番勝負。

 イケメン、バレー部の主将という肩書きも今は関係ない。


「北原さん、俺君がここへ来たときから気になってたんだ。君のことがずっと」


 そして中島先輩は語った。

 転校してきた時から好きになった。

 朝学校へくる時も、雪まつりの時も。ボクのことを見ていたんだって。

 はあ……。いたんですか。

 

「俺とつき合って……」

「ごめんなさい、中島先輩」


 この間、わずかに3秒。というか最後の方の語尾が終わらないうちに謝りを言ってしまった。


(あ……)


 あまりの空気に耐えられず、フライングしてしまった。

 さすがにためらいがなさ過ぎか。一刀両断してしまった。

 どう声をかけるべきか。


「ううう……」


 撃沈した中島先輩はがっくり肩を落とした。

 さすがの容赦ない「告白切り」に呻いた。 

 そのまま頭をだらんと下げたまま。


「うう、こほん」


 気まずい空気を紛らわすために、こほんと咳ををする。

 まさかその理由が男とつき合う気がないだなんて言えない。

 さらには、ひょっとして、北原雪耶は女の子同士がいい。 というあらぬ疑惑が浮上してしまう。

 当然ながら、さらにその先の本当の真実などいえない。

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