第五話「朝起きたら女の子に!?」
そして。
朝が来た。
僕は眠りから目覚めた。
このところ降り続いていた雪は止んだようで窓からはカーテンの隙間から朝日が射し込んでいる。
久しぶりの日の光が刺すように眩しい。
「ん……」
目をこすりつつ顔をあげて辺りを見回す。
勉強机に座っていた。と同時に昨日のことも思い出した。
どうやらあのまま机につっぷして眠ってしまったようだ。
涎の跡まである……。
「うーん」
立ち上がって大きくのびをした。
(あれ?)
瞬間に違和感を感じた
髪が妙に延びている。だが最後に散髪にいったのが、一ヶ月前だったので、そろそろ切り時なんだろうと思っただけだった。
胸が張っているような気がした。
だが、少し太っただけだと思うことにした。
股間が妙に寂しかった。すぅっという感覚は変ではあった。
お尻も大きく形が変わったような気がして妙に不安定なのだ。重心がおかしくてふらふらする。
色々と体に違和感が走っていた。
(ふわ……)
まだ寝ぼけていて、頭がはっきりしていないせいだと思った。
あるいは、一晩机の椅子に座ったまま変な姿勢で寝たせいだろう、寝冷えして調子がおかしくなったかもしれないと思って気にはしなかった。
部屋から出て階段を下りて1階に向かう。
開店の準備をしないと。
開店前の清掃と、ゴミだし、それから洗濯や朝食の準備。
必要な仕事を思い浮かべる。
その前に洗面所で身支度だ。
昨日は夕食も食べずに、部屋に戻った。
それから外には全く出なかった。
父さんは多分カップラーメンや缶詰か何かで腹を満たしたはず。
果たして台所を除いてみると、キッチンのゴミ箱にはビールや空いた缶詰が捨てられている。
(まったく……)
昨日の話を今一度思い起こす。
ボクの母さんは雪女だという。
バカもほどほどにしてくれと思った。
ビールをしこたま飲んだ父さんはまだ寝ているようだ。
そして、洗面台に立った。
いつものように歯ブラシと歯磨き粉を手に取ろうとした。
鏡の前で、寝癖のチェックをしながらーー。
そして気づいた。目の前にボクに似た少女が立っていたのだ。
「……」
もちろん、状況を理解するのにしばしの時を要した。
なんで女の子がここにいるの?
だが、鏡に映っているのは一人しかいない。じゃあ、自分はどこだ? ボクどこに行った⁉︎
混乱する思考と矛盾する事実。
少女は自分と同じような動きをする。
驚いた表情右手をあげて指さすと、鏡の少女も指をさす。
口をぱくぱくさせると、やはりぱくぱくさせる。
「あああああ!」
ようやくこの女の子の姿をしているのが自分であると脳が認識する。
確かに自分だ。
顔もそういえばどことなくふっくらとして丸顔になっていて、目や鼻もすっきりしている。
だけど顔つきは自分だった。
それに全体的に華奢になったような――。もともと細かったが、それに輪をかけて細くなっていた。
「!?」
叫び声もおかしい。少し高くなったような感じがした。
自分の声であるが、微妙に今までと違う。
「あー、あー」
声を出しながら喉に手をやる。
「喉仏が……」
そのまま下を見ると、胸も男とは明らかに違う膨らみがあった。大人の女性と比べるとささやかではあるがーー。
「な、何これ?」
そう思うと今朝からの違和感の正体にようやく気づいた。
この胸の膨らみは――つまり――。
(お、おっぱい?)
クラスの女子でも、まだそれほどみかけないような、はっきりとした2つの膨らみがある。
急いでその膨らみをつかんでみる。
むにゅっという柔らかくそして捕まれる感覚が起こる。
ほぼ同時に、先端の異様な感覚におそわれる。
「あっ……」
その今までに無かった新しい感覚が脳に伝わったことで自覚する。
「ほ、ほんもの?」
これは詰め物なんかではなく、本物の自分の胸だ。
間違いない。女の子の胸にあるはずのものがボクにある。
「じゃあ、これは……」
僕は下半身に目をやった。
突然自分が女になった。もしそういう状況が起きたらほぼ99.9パーセントの男子が取るであろう行動をボクもとった。
すなわちズボンの中に手を入れ、パンツの中に手をいれて、男の子の証であるものをさがした。あの2つのものをーー。
生まれてこの方、そこについていたもの。そして苦楽を長年共にしてきた相方をーー。
「ない……そんな……」
何度もそこを撫でまわした。
だが、どこまでいっても見つからず、そこはなだらかな丘になってしまった。
「あ、ああ……」
そしてさらに、奥に手をやると、そこには相方に変わるそれはそれは恐ろしい女の子の証であるものにふれる。
「ぎゃああああああ」
その悲鳴は男子としての断末魔の叫びに近かった。
「そんな……どうして……」
あまりの状況に、そのままぺたん、と尻餅をついてしまった。
放心状態で床に座り込んでいると、背中から声がした。
「ああ、やっぱりな。女の子になってしまったか」
声に振り向くといつの間にか父さんが背中に立っていた。
全てを知っているかのように落ち着いて、女の子になってしまっているボクをみていた。