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第四十一話「昔話 ③」

「お……」


 ふと話を止めておばあちゃんは窓の外を見た。


「少しまた降ってきたようじゃの」


 確かに、窓の外をみると少し雪が降っていた。さっきまでは太陽が垣間見えていたが、空はすっかり雲で覆われていた。

 まあ、春が来るまでは氷清村はこんな天気だ。絶え間なく雪が降ったり降らなかったり。


「あの頃に比べたら今は便利になったもんだのう。楽ではないけんど、温かい部屋で食うのも困らんし、人も沢山おるしな」


 その昔、小学校で村の成り立ちを学ぶ機会があった。観光地になる前は寂しい村だったと聞いたけど、やっぱりそうだったのかな。

 そして、また小春さんはお茶をずずっと飲んだ後に、話を再開する。


「あの日もこんなふうに雪が微かに降っていてなあ」







 初めて打ち解けることができた相手だっただけに、小春さんは翌日にまた会えるかと期待して同じ場所にやってきた。果たしてその子がいた。


「こはるちゃん、まあた会えたね一緒に遊ぼうよ」


 色が白くて元気で可愛い。一緒にいるとこっちも元気づけられた。


「うん」

「今日は何しようか」


 雪がほんの少し吹雪いている中で、薄い着物しか着ていないのに、やっぱり元気な顔で話しかけてきた。


「それからというもの、その雪ん娘は毎日のように村の外れに遊びにきよった」


 初めてできた友達にこはるさんは明るくなった。

 やがて家の周りだけでなく、村の周囲を案内し暇を見つけては一緒に遊んだ。


「ある時は二人でいる時に、この村の男の子と喧嘩したこともあった。その頃は、村には意地悪な男の子たちがおっての、しょっちゅう悪戯やからかわれたりしていたんじゃ」


 その日も、ちょうど二人で一緒に村の外れを歩いている時にばったり、出会ってしまった。


「やあ、こはるがこんなところで何をしてるんじゃ」


「よそもんじゃ」「びんぼうのいえのこ」


 こんなふうにからかわれて、いつも走って逃げる。嘲笑の声を背にしながら――。

 怯えながら背を向けようとした。


「い、行こう」


 けれどもその子は逃げようとする腕を掴んた。

 そして――。


「そうしたら、その子はわしの代わりに怒ってくれた」


 かばう様に前に進み出て悪い男の子たちに立ち向かった。


「こら、お前たち」


 腕を組んで仁王立ちする。


「あ?」

「こはるちゃんは何も悪いことしとらんのに、何でいじめる」


 幾人もの男子に一人で怖気ない一喝に驚いた。


「なんだ、みかけん奴が、女のくせに」「生意気いうな」「その白い女は誰じゃ」


 いつもからかって楽しむはずが、村で見かけない少女の反撃に驚きつつ怯んだ。


「誰だってええじゃろう」


 まさに男勝りに飛びかかっていった。


「うわっ」


 着物姿でもよく暴れて組み伏せた。


「生意気かどうかわからせてやる」

「こ、降参、降参。もう勘弁してくれ」


 当時ガキ大将と言われたその子もたまらず音をあげた。 


「もうあんなことせんかっ」

「もうしない……ほら約束する」


 ようやく喧嘩は収まった。


「よかったね、こはるちゃん――」


 男子の騒ぎに女の子たちも集まってきた。 

 早速不思議な少女に注目が集まった。


「その子だあれ?」

「あたしはこはるちゃんの友達」


 子供の世界は単純で強くて元気な子が一番人気が出る。


「一緒に遊ぼう」


 皆で雪だるまを作って遊んだり、雪合戦をしたり――。

 お餅や蜜柑を持って行くとおいしいと食べてくれた。

 なんども一緒に食べた。

 その子がいると綺麗な雪が降った。



 かけがえのない友達になった。

 こはるさんも、他の子もこの少女が普通の子ではないことに薄々勘づいた。でもそこはまだ子供。楽しければそれで良い。

 誰も正体を探ろうとか言いださなかった。

 その少女との出会いをきっかけにわしも村の子供たちとも仲良くなっていった。


「けれども……楽しい時間が来たら次は悲しい時間じゃ――」

 

 そんな中、父親が久方ぶりに街から帰省してきた時のことだ。

 事件は起きた。


「わしがうっかり大人にしゃべってしもうた。なんで娘のわしが最近は明るくなったのか聞かれて、白い着物を着た女の子と仲良くなったと。毎日村にやってきて一緒に遊んでいると無邪気にしゃべってしもうた」


 そしたら見る見る顔が青ざめた。


「おとんが、『こはるが雪ん娘に憑かれておる』いうて、血相を変えた」


 すぐに小春さんの父親は家の扉や戸を堅く閉めて、「娘を外に出すな」と家族中に言い自分を抱えて家の部屋に閉じ込めてしまった。

 あんなに恐ろしい顔をした父親は初めてだった。


「いやじゃ、ここから出して」


 部屋に外から鍵をかけて、出られないようにされた。

 中からどんどん叩いて叫んだけれども、聞いてはくれなかった。


「知らんかった……当時の村の大人にとっては雪女は恐ろしい存在で、その子の雪ん娘も恐れる存在だった」


 神聖な山の使いである一方、人間に災いももたらす畏怖する対象。

 だから氷清村を始めとする周辺の住人は雪女と雪ん娘が里に近づくことを昔から禁忌としていた。


   ☆   ☆   ☆


「つ、憑いてる?」


 ボクは今はその雪ん娘なんだけど――。

 進んでこうなったわけではないどさ。そういうの聞くとボクってそんな怖いものだったの? と思ってしまう。


「ああ、あんなもん、ただの迷信じゃ。もう今の村人は覚えておるのはほとんどいないわ。あんたは心配せんでええって」


 こはるさんは手を振って否定する。


「昔はそうじゃった、という話さ。でも……昔のもんは頑なに信じとった」


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