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第三十九話「昔話 ①」

 氷清岳を遙か向こうに望める雪原にボクは一人いた。

 雪に白く覆われた地をじっと見つめる。静寂に包まれている。

 ふうう、と一呼吸した後、気合いを込める。


「やああっ」


 目を閉じて精神を集中させる。

 風もなく穏やかな天気の中、ひゅううという風がボクの周りでだけ起こり、やがてつむじ風となり、地面に積もった雪を巻き上げながらボクの体を包む。


「ん……くく……」


 しばらくつむじ風となってボクの体を包んだ後、徐々に弱くなり、ついには小さなつむじ風は収まり静かな雪原に戻る。


「はあああーー」


 大きく息を吐いた。見かけ以上に精神力を使うこの能力と技は、とても疲労を覚える。

 膝に手をあてる。


「なかなか上手く行かないよなあ……」


 母さんのように、天候を一変させるほどの大きなつむじ風は起こせない。起こせる気もしない。

 ちなみに今挑戦しているこれは母さんにたたき込まれている雪女修行の一つの自主練習だ。店番は母さんに任せて、行きなさいという指示の元に訓練している。

すっかり母さんの接客も板についてきていた。必ずしもボクが店に張り付いてないといけないような状況でもない。

なのでボクは自主練で吹雪を起こす技ーー。

 部活のソフテニより真剣にやってるかもしれない。

 だが、一生懸命やっても、成果はなかなか上がらない。


「そもそもボクは本当にその雪ん娘や雪女になるんだろうか……」

 

今一何の為にやってるのかわからない。


「ふう……」


 傍にある切り株に座り込んで休憩した。

森に囲まれたこの場所は村の外れにあり、家からもそう遠くない。

周囲に人影もなくちょうど練習に良い場所だ。

 開けた場所を見つけて、これはよいとばかりに、勝手に始めた。

 冬の雪山。どうせ誰もいないと思って油断していた。


「あんれ、あんた雪ん娘だべ!?」


 不意を突かれて耳に届いた人の声に驚いて振り返ると少し後ろに恐らく推定80歳以上と思われる高齢の女性、おばあちゃんがいた。腰は曲がって頭もすっかり真っ白でかおに刻まれた深い皺が年を感じさせる。

老眼鏡をかけ直してこちらに雪をザクザクと踏みしめながらやってくる。


「!?」


 思い出した。

 山の登山道の少し入った場所に、小さな家屋があって高齢の夫婦が住んでいる。

 細々と農業を営んでいるという。

 今まで直接会ったことはなかったけど、この人がそうなのか……。

 杖をつきながら、ゆっくり近づいてきた。


「うちの畑に何かいると思ってきてみれば……こりゃまためんこい子だ」

「えっ!?」


 ここって畑?

 どうりで開けていると思った。

 すると、この白い雪に覆われただたっぴろいのは、全部畑ーー。

 そこに勝手に入って修行をしていたのだ。


「ご、ごめんなさい」


 慌てて頭を下げる。おばあちゃんは手を振る。


「いんやあ、謝らんでもええって。そもそもこの土地は全部山の神様のもので、その使いのあんたたち雪ん娘のものだあ。ちょっくら畑に借りてるけれどもな、ははは」


 しかもーー。

 雪ん娘のことを知っている!? 

バレた。あっさり身バレしている。


「い、いや、ボクは……その違うんです」


 力なく首を振る。


「いいんだ、いいんだ。秘密なんじゃろ? 誰にもいわんから安心しんしゃい」


そして手招きされる。


「それより、ちょっとこっちへ来なさい。ああ、なあんもしないって、せっかく来たんだからゆっくりしてってべや」


 取り敢えず騒いだり何か悪いことを考えてる様子もなかったので言う通りついてくことにした。

 腰は曲がっているがおばあちゃんの足取りはしっかりしている。

 畑を離れて森の少し奥の方へ案内されてゆく。すると程なく建物が現れた。木々に隠れてはいたが、確かにそれは家だった。

 しかも一見ログハウスのように見えて意外に鉄筋コンクリート製の立派な作りだった。


「昔は山小屋経営もやっていたんだけども、じいさんが亡くなってからは、畑いじりだけになってしもうての……まあこの年まで元気にやってこれただけでも感謝せんといかんな」


 今風に言うとペンションだろう。氷清村にはそういう施設がいくつもある。

 ドアまで来ると鉄製の物々しいドアがぎいっと開く。


「こっちじゃ、いらっしゃい、雪ん娘さん」

「失礼します」


 家の中に入ると使わなくなった家電や本や機材が廊下にまではみ出しており、年季の入った空気が漂う。それら一つ一つが思い出なのだろうか。

思い出とともに生きるという表現があるがまさにそんな感じだ。80年季の以上の歳月は伊達ではない。

凄い、黒電話があるぞ。しかも現役。


「昔は東京からも山登りするっちゅう人たちがようおって賑わってたんだけどなあ」


壁には宿泊客と一緒に撮ったと思われる記念写真がいくつも飾られていて当時に面影を偲ばせている。

かつて大広間だと思われた場所にも物が雑然として使われなくなったソファやテーブルもまだそのままだ。かつては毎日宿泊者たちが寛いでいたように思える。

いよいよこの作品に相応しい季節になってきましたね。

ペースもあげられれば……いいなあ。

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