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第三十五話「運命の再会?」

 校内巡りが終わり程なくボクと夏美ちゃんは元の二年一組の教室まで戻ってきた。

 そのまま教室に入ろうとした時だ。

 その隣の二年二組の教室が妙にざわついていた。


「なんだろう、あれ……」

「ああ、あれのこと?」


 夏美ちゃんに尋ねたがどうも、既に知っていた雰囲気だ。さすが女子ネットワークは情報がはやい。


「実はもう一人今日転校してきた生徒がいるらしいの。あたしもさっき友達に聞くまでまで知らなかったんだけど……」


 え? もう一人転校生がいたの? 職員室にはいなかったけどなあ……。

 首を傾げる。合点がいかないボクに、夏美ちゃんはさらに教えてくれる。


「氷倉さんっていうらしいんだ」

「え?……氷倉って」


 夏美ちゃんが頷いた。

何か喋ろうとした夏美ちゃんを別の声が遮った。


「隣のクラスの転校生、あの氷倉ホテルを含む氷倉グループのご令嬢らしいぜ」


 いつの間にか、二人の後ろからすっと現れた。

 腕を組んで立っている。


「わ、智ひ……佐伯君」


 また思わず名前で呼びそうになったが、言い直す。

 

「何、あんた何そんなところに立ってんのよ」


 夏美ちゃんの突っ込みには途中から後ろを着いてきてたのではないかという疑念もあったみたいだが、そこは全く智則は意に介さなかった。


「さっきその転校生を見てきたけど、嘘じゃなくて本物だな、あれは――。それに目撃した奴によると、朝は黒塗りの車で登校してきたらしいぜ」


 氷倉グループというと、あのばかでかいホテルのオーナー会社だ……。

 商売敵であり、色々複雑な思いがある。それまできついながらも細々やっていたうちの店が一気に苦境に陥った張本人でもある。

 しかし一目見たくなった。

 廊下は転校生を見に来た男子や女子たちが屯している。


「うひょー!」

「すげークールな瞳」

「体が、凍りつきそうなぐらい綺麗だ」

「ああ、凍子さん素敵!」


 その姿を見た生徒たちは早くも惹かれたような顔をしていた。

 ボクも興味があって覗いてみた。美人といえばボクの心に響くものがある。

教室内には、先ほどのボクのように人だかりができている。


「と、凍子さん、あたし田中文子っていいます。よろしくお願いします」

「そう、よろしく」

「わ、わからないことがあったら何でもいいつけてください! 氷倉さん!」

「頼みますわね」

「はい、なんでも! 仰せつかってくださいっ」


 氷倉財閥の娘ということと、醸し出す女王様然の雰囲気から、早くも二組のクラスメイトの連中を従えようとしていた。

 ん? 凍子……。どこかで聞いたような……。

 ボクの脳裏に妙にひっかかるものがあった。なんか最近そんな名前を聞いたような――。


「ねえ、なんで凍子さんは、転校してきたの?」

「そうそう、それ聞きたいです。東京の有名女子校にいたんですって?」


 微笑しつついかにも優雅で物静かな口調で答える。


「人の世のありようを学ぶ様に母から仰せつかりまして――」


 そして髪をさらり、とかきあげる。

 凄い、うちら庶民とは違うと取り巻きたちは皆感服する。

だが妙に素直に受け取れないのは何故だろうか。

(なんだ、その下手な脚本家が書いたようなベタな設定は)


「あら? 凍子さん。その腕……どうしたんですか? 包帯巻いて……」


取り巻いている女子生徒の一人が右腕に包帯が巻かれていることに気づく。


「ああ、これですか? これは下品で粗野で頭の悪い雌猿に噛みつかれまして……」

「ええ? 猿に? 大変だったのね」

「まったくしつけの悪い雌猿には困ったものです、ほほほ」


 そこで凍子という奴は、取り巻いている生徒の後ろに佇んでいたボクに気付いた。


「ほほ…………」


 お互いの目が合った。

 はっきりとその顔をみて、ボクも気づいてしまった。


「あっ!」

「ああ!」


 その転校生の女子は見覚えがあった。

 切れ上がった、きつい目と端正な顔立ち、長い黒髪。

 こいつ……こいつ山小屋にいたあの雪ん娘じゃねーか!


「性悪女!」

「あの時のあばずれ女!」


 向こうも気づいたらしく、お互いを指さした。


「なんでおまえがいるんだよ」

「おめーこそ、なしてこんなところにおるんか」


 凍子という少女は座っていた椅子からガタっと立ち上がる。

 ふん、言葉遣い、地が出てるぞ。

 夏美ちゃんも意外そうな顔をした。


「あれ? 二人って知り合いなの? ひょっとして、友達?」


 だが、ボクは即座に否定した。 


「誰がこんな奴と!」

「こいつなんかとありえんわい!」


 しかも相手と声が被った。


「え? と、凍子……さん?」

「あれ? 東京から、来たんだよね」


 取り巻きたちは最近聞かないほどの思い切り氷清訛りに目を丸くしたり呆気に取られたりしている。


「この間はよおくもうちらを邪魔してもろうたね。忘れとらんぞ」

「それはこっちの台詞だよ!」


 何? 二人はライバル?

 以前からの因縁? 

 周囲は色めき立った。同じ日に転校してきた雰囲気対照的な美少女二人が――。と早くもゴシップとなって校内を駆けめぐろうとしていた。

 呑気なもんだ。

 こっちは、ただでさえ女子として通うことに頭を痛めているのに、また頭痛の種が増えてしまった。

 店と学校、雪ん娘のこと――大変なことになりそうだ。


 ボクは頭を抱え込んだ。

ここまでお読みいただきありがとうございました。

作品本編はここで一旦一区切り。完結になります。

今後、番外編などを掲載することも考えてますので、とりあえず完結設定にはまだしません。

続きに関しては、もしかしたら、シーズン2があるかもしれないし、ないかもしれないし……。

でも一旦は区切りということで。

ご意見、ご感想、お待ちしております。

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[良い点] ここまで一気読みしたけど面白かった! [一言] 急な完結宣言驚いたけど続いててよかった(^^)
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