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第三十四話「女子トイレの試練」

 衝撃的な告白があった後も夏美ちゃんの学校案内は続く。動揺する気持ちを抑えて何食わぬ顔でついてゆく。


「えーっと、二階の一番奥のところに音楽室があって……次は家庭科室ね」


 もちろんボクは知っているが、知らないふりをして頷く。


「トイレの場所は……まあ言わなくてもわかるよね。ここにくるまでにみかけてるだろうし」


夏美ちゃんは確認のためこっちをちらっと見る。それがあったか。


「うん、大丈夫だよ」


男も女も毎日厄介になるその場所はもちろん全て頭に叩き込んである。だが考えが甘かった。


「でも、ついでだから戻る前に一緒に行こうか」


全く何の気兼ねもなく誘われた。女子トイレ――。ボクが?


「!?」


特に行きたくはないんだけど、全く断るというのは妙に気が引けた。

連れションは友情の証だ。これも男女関係ないはず。


「うん行こうか」


自然に振舞って会話した。動揺したらかえって良くない。


「顔真っ赤だけどどうしたの? 気分が良くないなら保健室に行く?」


夏美ちゃんは、顔を見つめる。


「な、何でもないから、大丈夫」


戻ってきたボクたちは、元の二年一組の教室に近いトイレに入る。今まで全く立ち入ることのない秘境――。

い、いや単なるトイレだ。用を済ませるためだけの場所だ。

自分に言い聞かせる。

入った途端に誰かがいた。

岡本さん、藤崎さんがいた。いや待っていたというべきか。

何やら手洗いの鏡の前で会話していた。髪を整えたり枝毛のチェックをしたりして――。


「あ、雪耶ちゃんが戻ってきたみたい」

「ねえ、雪耶ちゃん、さっきの雪まつりの件、今あずっちと話してたんだけど、氷清公園前で集合でいいかな? それでその後に皆んなでカラオケ行こうって話してたんだ」


か、 カラオケ。そんな遊興施設行ったことないんだけど――。やっぱり活発な女子たちだ。


「雪耶ちゃんは、どう?」

「え? あ、ああそうだね。店が大丈夫なら行けるかな」

「そっか雪耶ちゃんのうちってあそこだったね」

「じゃあ返事待ってるから」


これで終わりではない。それからも話題が続く。


「次の授業、須田の社会よ――」

「あー、まじ嫌」

「この間なんか、あいつチラチラ一番前の女子の太もも見てたんだよね」


内容もよりディープで棘のあるものに変わってゆく。


「雪耶ちゃんも気をつけなよ」

「え?わたしが?」


突然振られてなんで自分が、と目を丸くする。

暢気に聞いていたら、真剣な表情で語られた。目が本気だ。


「あいつ、雪耶ちゃんのような可愛い子を狙ってセクハラしてくるから。転校してきたばっかりだし」

「そうそう、特に放課後教室とかで一対一になった時は気をつけな。マッサージしてやろうかとか、肩揉んでやろうかとか言われた子がいるから」

「そ、そうなんだ」


チラリと夏美ちゃんの方を見ると頷いている。

どうも真実のようだ。


「雪耶ちゃん、そういう時は誰か呼ぶんだよ。あたしでもいいし誰でもいいから」


それに二人も続く。


「あたしでもいいよっ」

「あー、まじきもい。サブイボたってきた」


男子の目がないせいか思いっきりぶっちゃけトーク再び。

(須田先生、そこまで嫌われてたんだ。これまた知らなかった)

女子の連れションを甘く見ていた。

身だしなみを整える化粧室であり、社交場所。

何だか女子の世界に絡め取られて行くような気がした。

ようやく個室の戸をバタンと閉める。

女子はこんなに大変な世界にいたのか――。


再びトイレを出て夏美ちゃんと合流する。


「さ、だいたいこんなところよ。後はわからないところがあったら聞いて頂戴」

「うん、ありがとう、夏美ちゃん」


 一通りの説明が終わり、教室へ戻るルートを歩く。

(何としてもバレないようにしないと)

 心に誓いつつ、夏美ちゃんの顔を見る。

 視線に気づいたのかニコッと笑った。

 笑窪が可愛い。きっとボクを信じきっている顔だ。


「早く慣れるといいね――」


 うう、真実を隠している罪悪感が……。

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