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第三十二話「早くも人気」

 最初の休み時間は早速クラスメイトに取り囲まれた。

 見知っているので、勝手はわかる。第一波は岡本さんや藤本さん。この子たちは女子の中では明るくて活発な子でクラスのムードメーカーのような子たちだった。

 ボクにとって試練の開始だ。


「あたし、岡本梓」

「わたしは藤崎舞よ」


 早速自己紹介――。


「わからないこととか困ったことがあったら、何でも聞いてね?」

「ありがとう、岡本さん、藤崎さん」

「もう舞でいいよ」

「あたしもあずっちって呼ばれてるから、そう呼んでよ」


 穏やかな会話であるが、探ってきているのだ。

 この二人は、転校生に最初に話しかける権利を持っている。

 ボクは、このクラスでの人間関係や構成を知っている。

 だから女子同士の付きあい方など詳細を知らないが、この子たちとの関係は重要であるのはわかっていた。

 そしてそれを伺うようにおとなしめの子が見守っている。例えば、一番前列の机に座っている眼鏡で三つ編み。本好きでいかにも性格が控えめの渡辺さん。二年前に東京から転校してきたあの子は典型だ。自席に座っているが、しっかりボクと岡本さん藤本さんとのやりとりに聞き耳を立てている。

 女子の微妙な力関係を象徴してはいる。陰湿ないじめというのはないはずだけれども人間関係がガラス細工のようにできている。


「北原さんはなんて呼べばいい?」

「ゆ、雪耶でいいよ」

「じゃあ、雪耶ちゃん」

「ねえ、雪耶ちゃん、部活は何に入るの? あ、前は何だったの?」

「う、うん、ソフテニで――」


 答えないうちに、向こうがさらに質問を被せてくる。


「わたしは、陸上部だけど、お勧めよ」

「あ、そ、そうなんだ」

「あ、バレー部もいいわよ。先輩たちも優しいし」

「そ、その……」


 すかさず夏美ちゃんのレスキューが入った。


「雪耶ちゃんは前はソフテニだったんだって」

「へえソフテニかあ」


 5分後。

(お、終わらない……)


「そう、再来週に雪まつりがあるんだ、雪耶ちゃん、一緒に行こうよ! 雪像とかスケートリンクとかもできるし、色んな催し物があるんだ」

「氷清村雪まつり、凄く楽しいんだよ。雪耶ちゃんきっと気に入ると思うよ」


 口から先に生まれてきた。マシンガンの異名を取るあだ名は伊達ではなかった。


「へ、へえ、そうなの……楽しそうだね、是非行ってみたいな」


 実は父さんは祭りの実行委員に名前を連ねていて、ボクも設営準備を手伝ったことがあるからよく知っているのだが。


「やったあ、じゃあ、雪耶ちゃんの歓迎会兼ねて皆で行こうよ――」


 それを聞きつけて、あたしも行く、あたしも大丈夫だよ、行ってもいい? と会話が交わされる。

 男子も、お前も行くか? おう、俺も――とこそこそ話し合う。


「決まりね、みんなで行こうよ」


 目配せをしあう。

 クラスで盛り上がったところでチャイムが鳴る。


「よかったね、雪耶ちゃん」


 席に戻り、やれやれと座ると後ろから夏美ちゃんの声がした。

 終始クラスの女子に溶け込めるかどうか、見守ってくれていたのだ。時折助け船を出してくれたが――。


 二時間目後の休み時間は長めで二十分間ある。

 その間にやらなければいけないこととして委員会の仕事やらをやったりする生徒もいるが、当然転校したばかりのボクには何もない。

 今度は前の時間に出番のなかった男子が参戦してきた。


「北原さん、この漫画、知ってる? 面白いから貸してあげるよ。すっごい面白いんだ」


 一度読んだことのある格闘少年漫画をすすめられる。もちろん、漫画の持ち込みは言われなくても禁止だ。

 確かに内容は濃くて面白い漫画だが生憎読んでいた。

 

「え? あ、ありがとう――でも読んだことあるから」

「本当? これ、女子で読んでるの滅多にいないのに、あ、結構漫画好き?」

「え? う、うーん、そうかも」

「じゃあ、ゲームとかもやるの?」

「うん、少しだけね。智則の家でよく遊んで――あっ」


 すぐに失言に気付く。


「え? 俺の家?」


 すぐ隣にいた智則が反応した。


「あ、佐伯君と仲良かった雪哉君から教えてもらったから」


 苦しい言い訳……。首を傾げたが、無理に納得させたようだ。

 流石に、お前の正体は雪哉だとは言われない。


「ふう、危ない……」


 でもやっぱり男子との会話の方が、慣れ親しんでいるだけあって気が楽だ。


「ねえ? さっき付きあったり告白されたりしたこと、まだないの、本当?」

「ほ、本当だって」


残念ながらボクは女子どころか男の子としても綺麗なままです。


「付き合ってたりする人いないなら、俺、立候補しようかな」

「え、えーっと……」


 笑いながらも目が真剣だ――。


「馬鹿、困ってるだろ、北原さん。この馬鹿の言うこと、気にしないでよ」


 今度は智則が助け船を出す。

 

「あはははは」


 固まりそうな空気を笑って誤魔化す。

 視線を感じる。女子たちがボクと男子とのやりとりに聞き耳を立てている。

(ひえ、転校生のつばぜり合いってこんなにすごいんだ)


「ねえ、雪耶ちゃん、学校を色々案内しましょうか? この間、約束してたもんね」


 ふと気がつくと、夏美ちゃんが押しのけるように傍らにやってきていた。

 夏美ちゃんは、男子の群がりを引っ剥がし、女子が机に群がるのをブロックして、ボクの真ん前に、でーんと陣取っていた。


「行こう」

「あ、うん」


 ボクの腕を引っ張った。つられて立ち上がる。


「あ、夏美、ずるいよ。あたしがしようと思ってたのに」

「ふふ、先に約束しちゃってたんだ」


 夏美ちゃんの独り占めを非難する視線もあったが、なんのそのだった。

 クラスのムードメーカー、リード役といえば、夏美ちゃんが筆頭なのだ。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 男子も、お前も行くか? おう、俺も――とこそこそ話し合う。  クラス の「クラス」の部分、削除し忘れかな?と思いました。違ったらスミマセン。
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