第十五話「来客者たち」
「ありがとうございました!」
「はい、ごちそうさま」
会計を終わらせた後、老夫婦を笑顔で見送る。
そして一礼。
「よしっいいぞ。今日はいい感じだ」
こっそりと小声で呟き、小さくガッツポーズ。
今日は店入りがいつになく絶好調だ。
開店以降、お客さんがずっと途絶えない。
ボクもお客さん相手に目まぐるしく動き、父さんも調理場で忙しそうに動き回っている。
そしてランチタイム真っ最中、順調にお客さんが入って店が満員になりそうなころ――。
カランカランと店の入り口の戸がまた開いた。
「おーさむい……」
「お、席空いてるしここでいいじゃん」
「全員座れそうか?」
五人ほどの若い男女がガヤガヤと賑やかに店に入ってきた。
いずれもスキーウェアを身に纏っている。脚や靴にはまとわりついた雪がまだ残っていて、暖かい店内に入ると同時に、少しずつ溶けてゆく。
どうやら何処の店も混んでいて、彷徨っていたようだ。
スキーシーズンのまっただ中、昼のランチタイムとなるとどこの店も超満員だ。
流石に閑古鳥だったこの雪乃亭にもお客さんがやってくるようになった。
もっとも他の店はもっと忙しいだろうけど。
「いらっしゃいませ」
新しいこのお客さんたちへ、にっこりと歓迎の笑顔を浮かべた。
どっかのハンバーガーチェーンよろしく、この店もスマイルは0円だ。
もちろんこれまでどおりの客相手の営業スマイルだったが――。
「お、可愛い子」
「いいじゃん、ここにしちゃおうぜ。ちょうど空いてるし」
スマイルが効いたかはわからないが、大学生たちはしばし顔を見合わせた後こそこそしゃべりあう。
偶然にも客席はちょうど、五人入れそうな席が空席だった。
やった、五人のお客さんをゲットしそうだ。
「えー、こんなしょぼい店じゃなくて、もっといい店行こうよぉ」
グループの中の紅一点、髪の毛金色で、まつげもぱっちりのお姉さんからお褒めの言葉をいただく。
「でもさホテルのレストラン、満席だったし、他の飲食店もいっぱいだっただろ? もうここに決めようぜ」
この村でホテルというとあの二十階立ての「プリンセス氷清ホテル」のことだ。どうやら、この大学生たちも、そこの宿泊客だろう。
高級客だけでなく、手ごろな価格帯の宿泊プランも用意しているので、様々な客層を掴んで賑わっているらしい。
もっともそういう客をごっそり持ってかれているのがボクたちのような零細店であるが。
何せレストラン一つとっても一流のシェフが作る高級西洋料理のランチやディナーに、ファミリー向けの中華ブッフェも完備してるそうだ。
「もう、なんでホテルのレストラン、予約しなかったのよ」
なかなかにうちの店にご不満のようだが……もちろんポーカーフェイスだ。
「おいこら、失礼だろ」
軽めなノリが多い中で一人、ちょっとまじめそうなめがねをかけた男子大学生っぽい人が――。
学生特有の浮ついたノリの中で一人凛としていた。
口ぶりからすると、大学生のサークルか何かだろうか……。
おそらくこの人が、このグループのリーダー役か幹事なのだろうと思われた。
「もう、さっさと食べてゲレンデに行こうよ」
いろいろとこめかみが、ぷるぷるしそうなことを言う馬鹿女がいるが……。
それでも笑顔を維持した。
「どうされますか?」
「あ、お願いします」
「何名ですか?」
「あ、すいません五人です」
「では、あちらのテーブルへどうぞ。今席をおつくりします」
空いている一番奥の席へ案内した。二人席用のテーブルを急遽くっつけて五人分の席をつくる。
ついさっきまで別のカップルと思しき男女の客が使っていた席だ。
テーブルをさっと布巾で拭いた。
「こちらへおかけください」
「ありがとう」
大学生たちは、それぞれ席に着く。
それから、メニュー表と水を運ぶ。
「ご注文は何になさいますか?」
5人分の水をテーブルに置いた後、注文票とボールペンをエプロンのポケットから取り出す。母さん譲りのとっておきの笑顔を維持しながら――。
「えーっと」
大学生たちは、メニュー表を順番に見ながら回していく。
「じゃあ、俺、ラーメンにしようかな」
「あ、俺も」
「俺はメンチカツ定食」
「じゃあ……僕は天ぷらそばにしようかな」
まだ注文の呼び声の無い件のお姉さんはふてくされ顔だ。
「……」
急かすわけにもいかないので、笑顔のまま根気よく注文を待つと、ようやく口を開いた。
「あたしは……カレーライス。他に無いし」
うわ、いかにも不満そう。メニューがしょぼいといいたげな感じだ。
とにもかくにも、メニューを復唱する。
「ラーメン2つ、メンチカツ定食1つ、天ぷらそば1つ、カレー1つ以上でよろしいですね」
件の眼鏡の大学生は、オーダーを一つ一つふむふむと頷きながら確認する。
「はい、大丈夫だよ」
「ありがとうございます」
そして一礼をする。




