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第百十四話「雪国の朝に」

「あー、今日も降ってる……」


 家の外へ出たとたん銀世界が飛び込んできた。

 地面にはしっかり雪が降り積もっている。

 見慣れた景色ではあるけれど、本当は今ぐらいからは雨まじりの雪が多くなって、そろそろ春の足音が聞こえてくる、本来雪解けの時期だ。

 雪が溶けて泥になって、緑が芽生えてくる。春になったら山も麓の村も一面鮮やかな緑に変わるのが氷清村とその一帯の季節の移り変わりだ。

 なのに今日も雪が降っている。

 天気予報でも季節はずれの雪として今年は異常気象だなんだとニュースで氷清村の積雪は何度も取り上げられているらしい。

 ボクにとっては都合がいいのだが。

 とりあえず店の前だけ簡単に積もったばかりの雪をどけておく。

 もういない間にやってくれる母さんはいないし……。

 ほどなくして背中から聞き覚えのある声がした。


「おはよう! 雪耶ちゃん!」

「よう、北原、朝から雪かき大変だな」


 葉月夏美ちゃんに佐伯智則の二人がこっちへ向かって歩いてくる。


「夏美ちゃん! 智則!」


 いつもどおりで安心した。

 雪かきはひとまず終えて、二人に駆け寄った。

 一緒に並んで学校への道を歩む。

 

「そうそう、今智則にも話したんだけど、雪耶ちゃんは聞いてるかな?」

「え? 何?」


 夏美ちゃんがすぐに明るい調子で口を開いた。


「また村に新しいホテルができるんだって。スキー場に近いところに、今よりももっと大きなホテルが温泉とかレジャー施設も併設してできるって」

「また新しいホテルぅ?」


 思わず顔がひきつってしまった。

 凍子のところのホテルができただけで前は客が奪われると大騒ぎだった。商店街の人が何度も集まったりしていたのを覚えている。 夏美ちゃんのお父さんも村長として難しい舵取りを迫られて大変だったという。


「雪耶ちゃんところも、そう悪い話じゃないんだって」


 気色ばんだボクを察したのか夏美ちゃんは、まあまあと手で制する仕草をする。


「お父さんによれば最近はインバウンド需要が氷清村にもきてるから、沢山のお客を受け入れられる施設はむしろ村全体に良い効果があるって」

「いんばう?」


 夏美ちゃんのあれ? 知らないの? という苦笑いが突き刺さる。


「海外からのお客さんって意味だよ」


 智則が助け舟を出してくれた。ついでに氷清村は雪質が最高で自然も豊かなことが、じわじわ知られつつあるとか。

 まあ確かに……。最近はちょこちょこ店にくるお客さんに海外からの人が増えているような印象はある。

 商店街でも英語の講習会やらなにやらの勉強会をやってたりしていたが、父さんはもちろん欠席だ。

 観光関係に携わっている家が多いから、むしろ嬉しいことではある。


「「相乗効果」ってのがあるらしいからね」


 夏美ちゃんは難しい言葉を使う。


「がんばらないとな、母さんもいないし、父さんとボクだけだし……」


 少なくとも凍子には負けたくない。

 あいつのおかげってのもなんとなく複雑な気分だけど。


「え?」

「んん?」


 ボクは自分の設定を忘れていたのにも気づかなかった。

 母さんは叔母さん。雪哉の従妹。

 しかし夏美ちゃんも智則もツッコミはしないで、二人同士でそっと目配せだけをしただけだった。


「そういえば……雪耶ちゃん、最近何かあった?」

「え?」


 胸がどくん、と鳴る。

 努めて母さんが店を去ったことは知られないようにしたつもりだったけど感づかれたかな?

 きっと昨日の母さんの

 涙をこぼしたのはあの一瞬だけ。

 泣くのは男だろうが女だろうがしないのがモットーだ。

 空元気だったかな。


「何か……変?」

「ちょっと……綺麗になったかな。雰囲気が変わった気がする」

「そ、そう。ありがとう。特に変えた気は無いけど……」


 雪哉と雪耶の真相が、感づかれてないようでほっとした。だが問いかけてきた理由がわくわからなかった。


「夏美ちゃんにそう言ってもらえるなら嬉しいな」


 ちょっとおどけて笑ってみせる。

 そう、ボクは一応女子ってことになってるから、綺麗とか言われたら嬉しい一言ってことなんだ。

 今だってセーラー服姿だ。もう最近は慣れてしまってなんとも思わなくなってきてしまったけど。

 だが、夏美ちゃんは不安そうな顔をしている。

 首を傾げた。


「!?」


 急に夏美ちゃんがボクの手を握ってきた。

 温かい手だった。


「雪耶ちゃん、きれいだけど儚いなって……」


 儚く消えてしまいそうな綺麗さだという。

ー人間離れした美しさを帯びてきていて、どんどん加速してきている。

 だから夏美ちゃんはボクの手を急に握ったのだ。

 どこかへ行ってしまいそう。


「だ、大丈夫だよ、どこも行かないから」


 夏美ちゃんの肩に手をおいて元気づけた。

 今度はやりとりを横で聞いていた智則が呟いた。


「ねえ……北原さん。最近、コンタクトか何か入れるようになった?」

「え? 別に特にそういうのはしてないけど……」


 視力は生まれつきいい方だ。眼鏡にもコンタクトにも生まれてこの方縁が無い。

 智則の問いの意味もやっぱりわからなかった。

 首を傾げた。


「瞳(目)と髪が銀色っぽくてさ、綺麗なんだけど……」


 銀は氷と雪に覆われる氷清山を象徴する。

 瞳と髪の色

 雪女たちの間でも、特別な意味を持つ色であった。

 ボクは……。

今回で第二部終了になります。

主人公が雪ん娘になった1~35話までが第一部、雪ん娘の主人公と周囲の色々な事件が起きた36~114話までが第二部。

構想では色々お話が動き出す予定ですが、まだちょっと先は未定です。

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― 新着の感想 ―
おや?どういうことだろう。
やっぱこの作品おもしれぇー!どこがとは言い難い、全体的に好みとしか言いようがなくて好き♡
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