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第百十二話「雪女の掟」

「起きて、雪耶――」


 母さんの声にボクは眠りから起こされた。

 寝過ごしたか。


「もう朝?」


 布団から起きあがって枕元の時計をみるとまだ夜中の12時前だ。


「あれ……?」


 日付がもうすぐ変わろうという時間だった。

 外はまだ夜だ。

 カーテンの外から差し込む雪明かりを朝の光と勘違いしてしまった。


「母さん……?」


 あくびをしつつ目をこすると、布団の傍らに母さんがいた。

 

「どうしたの……?」


 母さんは白い着物姿で正座して座っている。

 いつもと違う雰囲気だ。

 明るい母さんが静かに微笑む表情がなんとなく哀しさがある。

 妙に胸騒ぎがした。


「ちょっと起きて来てくれる?」

「何かあったの? あ、明日の準備が終わらないの? 手伝うよ」


 きっと明日の店の準備、料理の仕込みで何か手伝ってほしいことでもあるのだ、と言い聞かせた。

 だが通されたのは1階の調理場ではなく居間だった。


「よう、雪耶。起こしてすまんな」


 父さんも起きていた。

 やはりテーブルに座ってボクを待っているようだ。


「そこへ座ってくれ」


 父さんもいつもと違う空気を感じた。

 あれ? まだ寝間着に着替えていない。

 いつも仕事終わり、食事、風呂そして寝る前にビールを飲んで、そして寝るのが父さんの楽しみ。

 そういうわけではなさそうだ。


「ちょ、ちょっと……どうしたの?」


 どうも普通じゃない雰囲気をすぐに察した。

 店の子だから人の気配や気分に

 何か楽しいことがある雰囲気ではない。

 怒られるわけでもなさそう。 

 ユーモア好きでいつもおちゃらけけたりおどけたりするのが好きなのに、その様子もなく穏やかな顔をしている。

 それがむしろ不安をかきたてた。

 何か予想しないことがある……。


「実はな……」


 しばらく間があった。

 言いにくそうに。その言葉を口にしたくなさそうにようやく吐き出した。


「母さんが……これから山に戻るんだ」


「ええ? こんな時間に? 朝になったらでいいじゃん」


 普通じゃない。

 わざわざ起こして言うことじゃない。何かがあった。

 それは……。 


「今じゃないと駄目なんだ」

「なんで?」


 ようやく母さんがここで口を開いた。

 そこから話したことはボクの想像していたかった事態だった。


「この間のことで、また叱られちゃって。しばらくまた街から山へもどらないといけなくなったの」

「え……」


 山と雪女についてこれまで修行の合間に何度か聞いたことがあった。

 山を守り仕える存在として掟がある。

 人と違って山の加護を受けて力をもらえる代わりに掟を守らないといけない。

 そしてそれを犯したときに受ける雪女の罰があるのだという。

 軽く済んで良かった、と明るい調子で母さんは言う。


「大丈夫、今回、罰を受けるのは母さんだけだから、それに結構軽く済んだし」


 凍子が言っていた「あなたもただじゃ済まない」その言葉が今はっきりとよみがえった。

 一つつながると、全てがボクにもわかった。

 母さんははっきり言わなかったが……。

 山の聖域を犯した者たちを逃した。

 雪ん娘が手助けした。

 それらボクがやらかしたことも母さんが全てを背負った。

今回いきなりこうなったのではなく、大学生遭難事件の時もそれらしい描写があるのですよ。

(第二十九話辺り)

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