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第百八話「微かな記憶は湯気の煙から」

 そして今度は熱の衝撃が襲ってきた。

 飛びかけた意識が戻ってきた。

 ボクも凍子も温泉に落下したのだ。


「いや、あつい、あつい」


 慌てて脱出しようとする。


「凍子姉さん!」

「なんてこと!」


 氷見子と寒奈の二人は急いで入って加勢しようとしたが、足をいれたとたんに、共に「あつ、あつっ」「あっつーい」とすぐに飛び出てしまった。

 手出しできない。


 しかも思ったより深い。

 ようやく浅いところまで泳いだがそれでも腰までつかっている。

 凍子のやつ、悲鳴をあげてばたばた。顔が火照っている。

 きつそう。

 やっぱりお湯が駄目なようだ。当たり前ではあるが。

 ……とはいえ、ボクも結構きつい。

 前以上に風呂が苦手になってきている。

 徐々に体の性質が雪女になってきているのかもしれない。

 ……溶けそう。


「一緒に入ろう」

「いい湯だ♪っ」

「ちょっと、何するのよ」


 正攻法では分が悪いうえ奇襲作戦も難しいとなれば、後に残るのは相討ちさ。

 ことわざにある。

 肉を切らせて……なんとか。


 雪ん娘。

 消えてしまう伝承も多いという。

 有名なのは無理に風呂に入れられて、消えた後に氷柱が一本浮かんでいた。


 さあ、根比べだ。

「あつい、あっついって」


 凍子を羽交い締めにして


 はあ……。

 久しぶりにこんなにお湯につかったことはない。


 あたまがボーッとしてきた。

 ほんとうに消えそうな気がしてきた。


 世界が湯気みたくしろくなってきた……。

 

 白い世界で、また記憶が蘇ってきた。今度は赤ん坊の頃の記憶だった。


 ボクは母さんに抱かれていて、傍らの父さんはちょっと若くて髭もまだはやしていない。

 母さんが父さんにボクを渡し、遠く離れていく。

 父さんが悲しいのを堪えている。

 ボクは泣いたけど、どんなに叫んでも戻ってこない。






ー星が綺麗ー


 次に気付いたときには、仰向けに倒れて夜空を見上げていた。

 そしてのびて横になっているボクを介抱しているのはみなさん、むつみさん。傍らによりそっている。


「あ、雪耶ちゃん」


 どうやら氷柱つららにはならなかったようだ。


「湯当たりした……」


 修学旅行以来だ。まだ男子だった時だっけ。

 湯船でぶっ倒れて危うく溺れかけた。助け出されて部屋で寝かされた。

 夏美ちゃんも駆けつけてくれた。

 あれ以来お風呂のお湯はどんなに父さんから文句を言われようが、うんとぬるくするようになった。

 母さんは、足をつけるだけが精一杯らしい。

 人間にとっては大丈夫な温度でも危険なのだ。

 熱いお風呂だと……。


 やっぱり無茶をしたかもしれない。



 まだぐるぐる回る世界であの3人の顔が見えた。

 ボクも凍子も助け出された。

 凍子も横になっていて寒奈と氷見子が介抱している。


「大丈夫、凍子姉さん」

「あたしの力をあげる」


 一生懸命冷気を送っている。


「もう、あなたは……けほっ、どうかしてるんだから」


 湯辺りして白い顔が心なしか赤くなっている。

 ぐったりしてて戦う気も失せたようだ。


「げほっげほっ、しょっぱいな……」


 一万年前は活火山だったという。

 氷清村にある源泉かけ流しの温泉は、地下鉱脈からわき上がってきて色んな成分を吸収するのか、塩分濃度が濃い。ちょっぴり硫黄成分。もちろん飲めません。

 腰痛、肩こり、皮膚、内臓疾患。

 心臓の弱い方は医師の指示に従ってください。 


「ゆきっち、無理しなくていいから」


 みなさんに膝枕状態のまま。だけど構わずボクは続けた。


「いいか、凍子。この子たち、氷清ホテルに泊まってるんだぞ。宿泊客が謎の失踪なんてしたらどうなるか……」


 出発間際、捜索の準備中の父さんから身元の情報を盗み聞き。それは置いといて。

 なんて噂が立ったら縁起が悪いって、ダウンするぞ。


「君のお父さんにも迷惑がかかる」

「それは、困るわね……」


 いつも不敵な凍子が妙に物憂げな表情を浮かべた。あともう一押しだ。

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