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第百六話「再び対決の時」

「ここは、雪女わたしたちの聖なる場所よ」


 冷たく透き通る凍子の声が三人に刺さる。


「ひいっ」

「また現れた!?」

「そんな……」


 明らかに寒奈の仲間と思われる白地の着物を着た少女が立ちはだかっている。

 そして出て行くことを拒んでいる。


「凍子、氷見子!」


 ボクは当然その二人を知っていた。


「あら、北原さん。あなたもいたのね」


 凍子。こっちをちらり、とみた。


「わき役みたいにいうな」


 こっちをせせら笑っている。

 ボクを煽る口調は相変わらずだ。


「未熟なあなたのでる幕ではではないわ」


 あ、今のカチーンときた。


「そうよ、山の聖域を犯した人間は帰すことはできないんだからね」 


 さらに、隣の氷見子も両手を広げて、とおせんぼの姿勢をする。

 それで三人の気力はついに失せた。


「嘘でしょ……」


 さらに追い打ちをかけるように背後から気配がした。


「ああ、やっと追いついたあ」


 後ろから追いかけてきた寒奈が洞穴から姿を現した。

 これで前も後ろも塞がれた。


「凍子姉さん? 氷見子? どうしたの? あれ、雪乃さんのとこの子だっけ」


 寒奈はまだ事態を把握していない。ボク、そして凍子と氷見子が何故かここにいることに、きょとん、としている。


「寒奈。この子たち、人間の子よ。あなた、気がついてなかったの?」


 凍子は呆れた口調だ。

 そしてその言葉に三人の心は折れてしまった。

 やはり行く手を塞ぐ少女たちは怪異の仲間だった。

 同じように薄い白い着物。冷たく透き通る瞳。


「ああ、もう駄目」


 前にも後ろも進めない。進退極まったことを察した。 

 三人は立ち止まり、へなへなと崩れ落ちる。


「え、そうなの? 凍子姉さん!?」

「寒奈、間違って連れてきてしまったのね……」


 腰を抜かしてしまった三人は、絶望とショックのあまりに立つ力も失ってしまった。


「この子たち人間の子だったの?」

「ええ、そうよ」


 目をぱちくりして、寒奈は腰を抜かしている三人を見据える。


「そうだったのか、何か変だなと思ったけど。ご、ごめんな、凍子姉さん」

「まったく、そそっかしいのは、相変わらずね、寒奈」


 そしての三人。


 リーダーのむつみさん。


「あ、あたしたち、どうする気なの?」


 気丈に叫ぶが、震えている。寒さなのか、恐怖なのか。あるいはその両方かもしれない。


「か、帰してよっ」

「お願い、見逃して」


 あとの二人は座り込んだまま、必死にあらがう。


「残念だけど……そういうわけにはいかないわ」


 凍子は首を振った。


「す、好きできたわけじゃないのに」

「ひどいよ」

「知らなかったんだって」


 なりふり構わず、自分たちの無実潔白を主張する。

 唯一、慈悲にすがるしかない。目こぼしを求める。


「ここまで連れてきてしまっては、帰すわけには行かないわね」


 返ってきたのは無情な宣告だった。


「そんなあっ」

「ううっ」

「酷い、こんなのって……」


 希望を絶たれて泣き崩れる。


「ここは雪の神聖な場所なの。侵した人間は返せない」


 虚ろな顔をした三人。

 精も根も尽きた表情だった。


「ゆきっち、どうにかして……」


 すがるのは、雪耶しかいなかった。

 残された最後の希望。


「わかってるよ」


 空威張りなのはわかっている。

 状況を分析すると、正直かなり厳しい状況だ。

 未熟な雪ん娘である自分と、長年積んできた凍子たち雪ん娘とガチでやったら勝てない。

 今の一番の正解は逃げること。

 だが、自分だけならなんとかなっても、この三人は逃がせられない。

 見捨てることになる。

 結構、やばい状況だ。


「今日はこっちの始末が大事だから、この場をおとなしく立ち去れば、見逃してあげるわ。さもないと……」


 氷見子め……。この間のボクのアイス買収作戦で知恵をつけたのか交渉してきやがった。

 三人をみやる。

 三人とも一心にボクをみつめている。


「さもないと……なんだよ」

「あなたもただでは済まないわよ。あ、それにこの間のおかえし、まだだったものね」


 凍子はいつぞやボクが大学生を助けた時の件で対峙した冷酷な顔になっている。

 しばらく人里での時間で随分表情が豊かになっていたが……。

 こうなったら再戦だ。

 リターンマッチ。

 拳を握りしめた。

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― 新着の感想 ―
[一言] この展開が気になるのですが。
[一言] 絶体絶命の危機!
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