第百四話「迷宮からの脱出」
母さんに任せて一人でボクは探索を続けて、しばらくして三人を見つけたのだ。
結構迷った。
広い場所、狭い場所。とにかく入り組んでいる。
何せボクだってここは話に聞いていただけで初めてくる場所だ。母さんの話を頼りに、そして雪ん娘の勘だ。
見つけられて良かった。
ここから連れて帰らないと。
「こっちこっち」
出口へ向かう。
洞穴の中は、氷の輝きで明るいものの、キラキラ光ってかえって目が眩む。
その上にいくつもの分かれ道がある。到底外部の3人では帰れない。
帰り道は雪耶が先導しなければいけない。
先を行き、時折振り返っては手招きする。
「ほら、早くっ」
おまけに行きは下りだったため、帰りは登りだ。雪や氷が覆う洞穴内だが、専用のシューズというわけではない。
寒さと疲労で3人の足取りは重かった。
「待って、ゆきっち」
「追いつかれる前に……」
寒さで足が言うことを聞かない。
遅れ始めたみなの背中を二人が押す。
それでも雪耶の先導で、洞穴の正しい道を確実に抜けてゆく三人だった。
「こら、待ちなさい」
後ろから寒奈の声が聞こえてくる。
追いつかれたら終わり。
その思いで三人とも力を振り絞って前へ進む。
途中で一番前をゆく麻衣が足下の氷に滑らせて転んだ。
「しっかりっ」
だが後からきたむつみがすぐに抱き起こす。
捕まったら終わり。
そんな思いが彼女たちに最後の力を振り絞らせた。
「や、やっと出口だ」
「もうすぐだよ」
「助かった」
あと少し。
外の雪明かりが見えてきた。
「やった……」
「助かった、の?」
歓声をあげた二人。
目に飛び込んできたのは、どこまでも広がる綺麗な星空だった。
リーダーのむつみは戸惑いの声をあげた。
「あれ? ここ、どこ?」
ようやく洞穴から外に出られた。
だが入ってきた時とはまったく違う景色だったのだ。
三人がさっき寒奈と共に入った時は、険しい山の斜面にほんの少し割れ目のように開いていた入り口だった。
だが、今抜けて出てきた場所を振り返ると、そこにはトンネルのようにぽっかりと大きく口を開いた巨大な洞穴があった。
そして辺りも急峻な山々ではなく、平坦な開けた場所だ。
少し離れた場所には夜の暗闇を地面から照らす雪明かりに、もうもうと白い煙が浮かびあがっていた。
荒々しい吹雪の雪煙ではなく、穏やかに地面から立ち上がっている。
それが湯気であることに気づいた。
「温泉……?」
いくつものごつごつした岩場の合間から泉のように湧き出ている。
ほんの少しの硫黄の臭いも伴っている。
「ここは、また別の入り口なんだよ。氷清山の旧火口に近いから……」
ボクも三人も鼻をちょっと押さえる。
「ああそういえば、聞いたことある……」
「大昔は火山だったって……」
「氷清村の反対側には、温泉街があるんだよね」
一応ご当地アイドルだった一同は、仕事で触れた地元の情報にどこか聞き覚えがあった。
三人にとっては暖かな温もりは何よりの希望であった。
「さあ、今はじっくり説明している時間はないから、追いつかれないうちに麓へ帰…」
寒奈はまだ追いついてこない。雪耶が三人を再び先導しようとした。
「帰すわけにはいきません」
突然、二人の影が行く手を塞いだ。
雪耶と同じように白い着物に身を包んだ少女が立っていた。
凍子と氷見子の二人が出口の外で待ち受けていたのだ。