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第百話「どんどん勘違い」

「す、凄い、こんなに寒いのに」

「地元の子? 流石だね……」


 三人は思わず見入った。

 目の前の少女は、この大雪の中でも薄い着物一枚しか着ていない。

 にもかかわらず、まるで春か夏に遊ぶ虫や蝶のごとく駆け寄ってくる足取りは軽く、表情はニコニコの笑顔だ。

 しかしそれ以上に目を見張ったのが、少女の美しさだ。


「綺麗……」

 

 その身につけている白い着物よりも、さらに透き通るような雪のように白い肌。

 片側おさげの黒い髪の毛はさわさわ凍える風になびく。

 その神秘的な姿は、アイドルの自分たちよりもさらに上を行く魅力を持っている。

 麻衣は、ちょうど昼に食堂で出会った子も近い雰囲気がある。

 残り二人も同じことを思い浮かべていた。

 この雪山ではさらに幻想的だ。


「その格好……あんたらも雪ん娘だよな。みたこと無い顔だけんど。ひょっとして別の山にいる子かな?」


 少女は果たして地元の氷清訛りの言葉遣いだが、妙に親しげだ。そしてアイドルとしての自分たちのことを知っているようにも見えた。


「え、ええ、そうよ。あたしたち、雪ん娘アイドルだからね」


 気丈に営業スマイルを見せる。


「そうか、やっぱりあんたたち三人も、雪ん娘か。いやー、よその山の子がくることはここ最近めっきりなかったから、久しぶりだあ。歓迎よお」


 そうかそうか、と自分で頷いている。

 山の方から吹きすさぶ冷気に体を震わせながらも、喜んだ。この子、ひょっとして新しいスノーガールズのメンバーなのかもしれない。そして地元の子だから、寒さも平気なのだ。


「あなた、わたしたちの仲間なの?」

「ひょっとして新メンバー?」


 恐る恐る尋ねる。


「ああ、そうだ。あたしたち氷清山の雪ん娘は、今夜大事な日だからなあ。修行をすっぽかして、まだこの辺で遊んでる子がいないか、探してたんだ」


 少女は笑顔で頷いた。

 

「修行? 新しいお仕事のこと?」


 麻衣は声をあげた。

 アイドルの仕事と聞くと、普段愚痴をいいつつも、顔も綻ばす。  

 残りの二人もつられて喜ぶ。


「やった。もう次の仕事なの?」

「プロデューサーが、きっと新しいメンバーと仕事取ってきたんだ」


 きっと後からスタッフたちがやってくるだろうと思っていた。


「そろそろおつとめ始まるよ、せっかくだから一緒にやるか?」


 その不思議な少女にこっち来い、と手招きされた。


「え? あ、はい? もう次の仕事?」

「や、やるよ、やる」


 三人は仕事らしき話と聞いて、きっと顔が引き締まった。

 少女もにこやかに頷いた。


「ああ、すぐにおつとめを始めるよ。しかし、やる気があってええことだ」


 少女の反応は、妙なところがあった。だが、急かされてそのまま思わず後を追っていく。


「こっちこっち。もう行くよお」

「え? え? もう行くの? 他のスタッフさんたちはどこに……」


 村の外になると寒さが流石に応える。周りには誰もいない。

 時折吹き付ける風と絶え間なく積もる雪の音だけだ。防寒着を着てても寒さが染みてくる。


「すたっふ? よくわからないけど、そんなの待ってる暇ないよ」


 少女はそう言いながら、こっちへこっちへと急がされ、後を追う。

 そんなに時間がないのかしら、と思いつつ少女のつけた足跡をたどる。


「あれ? こっちって……いいの?」


 現れた女の子は、山奥の方へと自分たちを誘っている。


「もうみんな集まって初めてるよぉ、時間ないよ」

「そうなの?」


 あるいはこっちに地元の人が知る近道があるのだろう、と思った。


「あ、あなた、名前は?」


 歩く途中で少女の名前を尋ねた。


「え? あたし? あたしはこの氷清山の寒奈かんなだよ。よろしくな」


 笑顔は可愛い。

 冷たい瞳は相変わらずだが。


「そ、そう。かんなちゃんっていうんだ」

「いい名前だね」

「そ、そう、似合ってるよ」


 言われて寒奈はけらけら笑った。


「ありがとう、上手だなあ、あんたたちも」


 これが怪しい男ならともかく、同じ女の子。酷いことはされないだろうと信じてついていった。


遅くなりました。

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― 新着の感想 ―
[良い点] お久しぶりです! [一言] あ~あ~あ~、どんどん深みにはまっちゃって……
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