質問会
「おかしい…どう考えてもおかしい…」
火煉は一人呟いた。
自殺をしようと飛び降りたのに何故か雲の上にいて、挙げ句知らない女性の自称魔法で助けられる。
…確かにこんな経験はおかしい。その上、その女性は火煉に信じられない事を言った。
「貴方勇者だから。」
その言葉を聞いて、もっとわからなくなるのは必然だろう。
呆ける火煉によくわからない説明をして、今に至る訳だ。
「…幾つか質問したいことがある。」
一応命の恩人の女性に話しかける。先程のよくわからない説明では、冷静に考えておかしい所がある。
「何で俺が勇者なんだ?」
「魔王を倒せるのは勇者だけ。つまり貴方が勇者ってことよ。」
そんなこともわからないの?そうとでも言いたそうな表情で彼女は告げる。
火煉は少しイラッと来たが、とりあえず質問を続ける事にした。
「ここはどこだ?」
「今私達が向かっているのは王都グラネーデ。これはさっき教えたはずよ。」
そうだったか…?首を傾げる火煉。だが聞きたいのはそんな事ではない。
「日本にそんな地名があるわけ無いだろ。それに俺は何で助かってるんだ?確かにビルから飛び降りたはずだ。」
「貴方が聞いたこと無いのは当たり前よ。だってここは貴方がいた世界とは全く違う世界だから。それと、貴方が助かったのは私が重力の魔法を使ったからよ。」
納得した?女性はそう続ける。
普通の人間ならば納得出来る訳が無い。たが火煉は普通の人間では無い。
驚くほど適応能力が高いのだ。それは日々の修行(授業中の妄想)の成果であった。
「色々突っ込みたい所はあるが…まあいい。で、何で俺は違う世界にいるんだ?」
「この世界には魔王がいると言ったでしょう?その魔王を倒せる人がこの国にいないから、別世界からランダムで呼び寄せたのよ。」
その言葉を聞いた瞬間、火煉の身に電撃が走った。
魔王、なんと素晴らしい言葉であろうか。日常に退屈していた火煉にとって、この世界は夢のような世界だった。
事実、火煉は何度か同じような設定で妄想をしている。
それに、さっき自分が勇者とか言われていたような気がする。
ランダムとはいえ、自分が勇者に選ばれた。こんなに嬉しいことは無い。
気が付くと火煉は満面の笑顔で、少し引き気味の女性の手をしっかりと握っていた。