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From Dystopia  作者: 結佐
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【第一章・ユートピアにて】第三話

「どうせアンドロイド様がやってくれるから人間なんていらないっつーの…。いや、アンドロイドはダメか…あーあー…人間に友好的なアンドロイドがいたら代わりに仕事させられるのになぁ。」


 そんな投げやりな言葉をぶつぶついいながら見回りし、すれ違う知り合いの人にはにこやかに手を振る警察官がいる。名前は安芸(あき) 穂波(ほなみ)。中性的、というよりは、幾分か女性よりに近い容姿の「彼」は、形骸化した警察という職業に就きあまり治安の悪くない一般階層を歩き回るのが日常だ。


 しかし、いつもどおりの生活の中で、いつもどおりではない出来事が起こる。安芸の元に、一人の白衣の男が近寄ってきたからだ。このあたりでは見かけたことが無い。

 見た目から上位階層の人間、しかも医者だと考え及んだ安芸は会釈をする。

会釈をした安芸に、少し表情を明るくした男は話しかける。


「こんにちは。安芸さんだよね?僕はドクター・ブラウン。君にお願いがあるんだ。」


 彼はそういいながら右手を差し出して握手を求める。


「名前を知っていただけているなんて光栄です…。」


 安芸は少し照れ笑いをしながら、握手に答えてそう言った。おそらく、医者か科学者だろう。そう安芸は思う。見たところ、白衣は泥や血で汚れてはいないし、加えていうなら物腰が柔らかだ。自分がすごしている環境とは違う、上位階層や最上位に当たるような場所で暮らしてきた人なんだと、そう感じたからだ。それならば、どういった意図で近づいてきたにせよ、礼節のある振りをすれば何か見返りがあるかもしれない。そんな風に思ったからだ。


「あぁ、名前は…ね。ほら、君の名札に書いてあるから。」

「あら…恥ずかしい…お願いとは?」


 心持上品そうな解答をするのは、彼の性格によるものだ。長いものには巻かれよう。そんな自分尊重的な考え方。しかしその考え方は、この世界では当然だ。身を守るためには使えるものは使う。それはある意味で最適解かもしれないからだ。


「僕はこのどうしようもない世界を正常な世界に戻したい。君にはその手伝いをしてほしいんだ。」


 そんな心理的駆け引きを展開しようとする安芸に対し、あっけらかんと突拍子もないことを言い出すドクター・ブラウン。


「…えーっと…正気ですか?」


 安芸が正気を疑うのも当然といえば当然だろう。この時点で既におかしな雰囲気は感じている。しかし、天才は常軌を逸しているものだと彼は知っている。ともすれば、もしかしたら本当のことなのか、とも考え及ぶが、それはそれ。やはり、言っていることがおかしい。

 そもそも、彼は搾取する側の人間のはずだ。その人間がこの場所に対して正常に戻したい、などとのたまうことすら既におかしいと思わざるを得ない。


「もちろん正気だよ。疑うのも無理は無い…けどね。」


 しかし、正面に立つ男が嘘をついて自分を騙す気があるとは思えない。ことさら、彼が自分をペテンにかけるメリットも見えない。意図が見えない。ならば、話を聞いてみるとしよう。安芸は、そう考えた。


「…万が一、万が一私にその気があるとして…。」


 ひとたび間を空ける。反応をうかがうが、自分の言葉を待つ体制のブラウン。どうやら、その真剣な目はすべてを語ってくれているようだった。ならば、後は訊いて見るだけ。


「それを私に話してどうなさるんですか?私は別に何の力もありませんが。」


 言うが早いが、ドクター・ブラウンは言葉を返す。


「…僕はタイムマシンという時代を移り行く装置を作ったんだ。それを使って世界が荒廃する前に戻り、荒廃する原因を解決して世界を元に戻す。その手伝いを、君に頼みたいんだ。力があるなしじゃない。僕が君の力を借りたい。ただ、それだけだよ。」


 ふと、一瞬の沈黙が場を支配する。そして、沈黙を破ったのは安芸だ。


「…ふう……わかりました…。…それで報酬はいかほどでしょう?」


 どちらかというと、笑い飛ばしてやりたいくらいだった。タイムマシン、とは、大層なことを言うじゃないか。そんなものがあるならとっくにこの場所はなくて自分たちはもっと平穏な暮らしをしているか、はたまたもっと地獄のような生活を送っているに違いない。そこまで考えてみて、もしかしたら、とも思う。

 それに、この男が言うことが真実にしろ、ペテンにしろ、自分にメリットがあるなら乗ってみるのも面白い。安芸はそういうスタンスで生きている。


「細かいことは聞きません、まずは報酬からです」


 安芸は曇りのない目でそう言い放った。


「報酬は世界を変えること…かな。納得がいかないなら時間旅行に行くまでの間、このお金を使って好きなことをしてもらってかまわない。」


 そういってドクター・ブラウンはお金の詰まった袋を見せ付ける。内容額はわからないが、結構な金額が入っていそうだ。と、安芸はほくそ笑む。なるほど、これなら多少危険なことでもやる価値はある。


「安芸穂波、誠心誠意世界改革のお手伝いをさせていただきます」


 安芸はにっこりしながらお金の入った袋を受け取った。


「ああ、ありがとう!それじゃあ、三日後にこの住所に来てくれ。やりたいことは3日の間に頼む。それじゃあ、よろしくね。」


 去るドクター・ブラウンをお辞儀をして見送る安芸。

さて、中身はどれくらい入ってるんだろうと中をあされば、そこには一年ほど遊べる金額が入っていた。


「うっわあああああこれまじでやばい仕事かもしんねえ…上流階級だろうし今更逃げらんねえしなあ…。」


 安芸はそう心の中でつぶやいた…。

 これが安芸の素。上っ面を取り繕うのは生きる術だ。


 そして渡されたメモを見る。場所はどうやら一般階層とスラム階層の中央辺りのようだ。

場所も場所だしこれは地雷引いたか…などと一人ごちる安芸だったが、さしあたっては今日の仕事。


 再び文句を垂れながら、見回り業務に戻る安芸であった。


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