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VERSUS

己が何者であるか、否、何物であるかを認識したのは、いつであろうか?

記憶は定かではない。

気が付けば“そう”であった。気がついた時には既に“成って”いたのである。


そう、“転生トラック”という存在<モノ>にーー。




私を作り変えたモノは、いったい何であるのか?

分からぬ。何一つ分からぬ。分からぬまま、時は過ぎた。否、時が過ぎたからこそ、“成った”のだ。

そう、時経たモノは付喪神になるとか言う。

私もまた、なったのだろう、付喪神の一種とやらに。




美味である。実に美味であることよ、ヒトの血というモノは。

初めて味わったのはいつであろうか?

おそらくは、まだ私がヒトに使役されていたーーヒトが私を運転していたーー頃であろう。運転手が不注意によりーー飲酒運転であっただろうかーー運転を誤り十代の少年を轢いた。その十代の少年は哀れにもバンパーと壁の間に挟まり、助け出されるまでの間、苦しんで死んだ。ただ挟まれただけならまだ死なずに済んだかもしれないが、運転手は気が動転していたのか、アクセルとブレーキを間違い、気前よく踏み込み、挟まった少年を押し続けた。少年は翌日、長年の片思いをしていた少女とデートの約束をとりつけた直後であった。

初デートも済ませないでーー少年はDTであった。DTとは何か? 言わせんな、恥ずかしいーー死んでたまるかという執念が隅々まで澄み渡った少年の血液をバンパーで、エンジンで、車体で味わった私は、そしてその後私を所有した運転手たちも何故かよく運転を誤り、数多の少年たちを轢き殺し、いつしか私は少年たちを異世界に送る能力を手に入れていた。

異世界へと送れるのは十代の少年限定な理由は分からぬ。病んでる少女を轢きかけた時もあった。道路に飛び出してきた猫を轢きかけた時もあった。しかし、運命のいたずらか、何故か毎回少年が飛び出してきて、私は幾度となく少年を轢いた。何人の少年を異世界に送ったかは分からぬ。そして何人の運転手が刑務所に入ったかは分からなくなった頃、遂に私は目覚めた。否、己が何物かを真の意味で理解した。




そう、私は転生トラックである、と。




それからの私は轢いて轢いて轢きまくった。最早運転手などいない。呪われたトラックをーータダ同然であろうとーー欲しがる人間などいるはずがない。

しかし、付喪神と化した私に、運転手などもはや不要。いるだけ無駄というものである。




数年の時が流れた。退魔士トカ退魔忍トカ色んな人間が私の前に立ちふさがったが、例外なく轢いてやった。彼らは皆——十代の少年は除くーー等しく病院送りとなった。私にこびりついた怨念が、彼らの精神を侵食し、再び私の前に立つ者はいなかった。

時が流れ、私を止める者、否、止めようとする者すらいなくなり、虚しさを感じ始めていた頃であった。

私は巡り合った。私を止める者、否、まったくの同種の存在に。

それは偶然か、それとも必然か。

いや、そんな事はどうでもいい。

私は心震えた。心が躍った。

運命の出会いと言ってもよかったのかもしれない。

彼——彼女か? どうでもいいことだーーもまた、心震えたに違いない。

お互い同時に、高らかに声をあげたーーエンジン音を響かせたーー。

スタートも同時。お互いに相手を生かしてはおけないという明確なる殺意を持って、最短距離を最高速で詰めたーー。


そして、必殺の思いーー転生トラックは己一人でいいーーがぶつかり、すべてのエネルギーが解き放たれた。

如何な物理法則が生まれたのか、宇宙誕生に匹敵するエネルギーでも生まれたのか、相手を異世界送りにーー勝者は自分一人でいいーーする筈のエネルギーはその場にとどまった。

お互いに相手を見やる。バカな、何故貴様がここにいる? 自分がいるということは、貴様が異世界に行っている筈——。

己の力に絶大な自信のある私たちであったがゆえに、あり得る筈のない結果に驚いていた。


戸惑う私たち。再度お互いを殺すべくーー異世界送りにすべくーー距離をとろうとしたが、異変を感じた。

すぐ近くで、扉が開くような音を聞いた。

まるで、己の家に帰ってきた時に、何の気なしに玄関の扉を開けるような、そんな音だった。


「帰ってきたぞ」

「帰ってきたぞ」

「帰ってきたぞ」


世界が、歓喜の声をあげた。

そう、扉を開けて彼らが帰ってきたのだ。

転生して現代知識チートで国の王となった者が。

転生して得た膨大な魔力で国を救う勇者となった者が。

転生してありとあらゆる枷から解き放たれて魔王となった者が。

虎視眈々と復讐の機会を待っていた者たちが。


「帰ってきたぞ」

「帰ってきたぞ」

「帰ってきたぞ」

「復讐をする為に」

「復讐をする為に」

「復讐をする為に」


ああ、世界に異質なる者が違う世界から“戻ってきた”のだーー。


『転生トラックを滅ぼす為にーー』


私と彼はお互いを見やり、一時休戦することを一瞬のうちに決めた。

種の存続をかけた戦いの火蓋がが今、斬って落とされたのだ。


そう、異世界転生者と転生トラックとの生存をかけた戦いがーー‼


私たちの戦いはまだ、はじまったばかりだーー。

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