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9. 僕はこうしてダンジョンに向かった

 結局、僕はガストンさんに売られてしまったみたいだ。

 

 僕を牢に入れたお姉さんが、僕の価値を査定をするために再びやってきて、混乱している僕に色々と教えてくれた。


 ガストンさんが交渉していたのは、迷子を届け出る部署なんかではなく、村から出る助成金を管理する部署だったらしい。こんな村でも若い漁師に対する助成金による借入制度がしっかりあって、ガストンさんはそれを利用して漁船を購入していたそうだ。だけど嵐で全てを失い借入金が返せず、家を売り、奥さんを売り、子供を売り……という境遇だったみたいだ。


 ここまでは何て可哀想な人生なんだって僕は思えるのだが……


 この村への漂着物の権利は例え人であっても、発見した人間の所有物として扱われるという法があった。ガストンさんは、これを利用し合法的に僕を借金の返済に充てた。物納だね。うん、誰だこんな制度を考えたのは!


 ちなみに助成金制度の方はトーキョーを参考にしたらしい。父上、内省チートのツケが回りに回って、あなたの息子を奴隷にまで突き落としましたよ。


 さて、こうなった以上、僕の残された道は2つ。

 僕の資産で僕自身を買い戻すか、できるだけ優しいご主人様と出会えるよう神頼みをするか。そして現在、僕自身の資産は何も無い。僕が身につけていた鎧も含めて、ガストンさんの借金の返済として村へ物納されてしまっている。


 この現実を認識してから3日間、僕は毎日会った事も無い神に祈り続けた。


「どうか、優しいご主人様が僕を競り落としてくれますように!」


 この願いが届いたかどうか、神頼みが本当に役に立つのかを、僕は今から検証する事になる。


「次は4歳健康な男子、そして、ご覧の通り、竜鱗と思われる赤い鎧を着用。今回はこの鎧込みの売り出しになります」


 司会者の声に会場は騒つく。

 僕に興味を持ってそうな人で、目下の本命は最前列の右端にいる優しそうなお婆さん。


「なお、この鎧は特殊が加護が施されているため、脱がして再利用をする事が出来ません。この子供とセットでの運用を前提としてください」

「なんだよそれは!」


 野次が飛ぶ。

 早速、お婆さんは興味を失ったみたいだ。きっとあの人に買われれば、優しく僕を解放してくれたんだろう……なんとか買う気になってくれないかと必死にお婆さんの方を見る。でも全然視線を合わせてくれない。


「もちろん、皆さんで独自に鎧を脱がす手段を探すのは自由です。どうです? 市場に滅多に出ない竜鱗の鎧ですよ? これだけでも相当な価値があるとお考えください。それでは、100万から!」


 僕の想いを他所に、司会がセリを始めた。


「どうします? 100万、100万……100万は無いですか? それでは70万!」


 ふーん、値段が下がっていくオークションなんだね。何だかバナナの叩き売りみたいだ……

 いきなり3割引だけど、それでも、まだ誰も反応が無い。売られる事は全くの本意では無いけど、これはこれで寂しい。


「50万! 30万! 10万! えーい、もう5万だ!」


 5万の声がかかった瞬間、ようやく複数の人が持っていた札を上げた。

 あれ、この場合どうなるんだろう? そう思ったらそこから改めて入札が始まった。


「5万500、はい、5万1000が出ました! 51500、51500でおしましですか? 52000」


 今度は値段が上がっていくんだね。ややこしい仕組みだ。

 そのうち僕を競り落とそうとしているのは3人に絞られてきた。芸術家みたいなベレー帽を被ったイケメンと、真っ黒なローブを着込んだ謎の人物、ブクブクと太った成金趣味のおじさん。ああ、僕はどうなっちゃうんだろう。まともな感じの人がいないんだけど……


 あ、真っ黒なローブは6万4000で諦めたみたいだ。あまりにも怪しい風貌だったので、これは助かった。続いて、芸術家も諦めた。はぁ……僕は6万7500で成金趣味のおじさんに競り落とされた……どちらかといえば芸術家の方がよかったんだが、僕には選択権は無いしね。仕方が無い。成金が良い人だといいなぁ。

 

 僕は係員に腕を引かれながら、ドナドナを口ずさんでいた。


----- * ----- * ----- * -----


「鎧を脱げ」

「脱げないんです」

「脱げと言っているだろう」


 セリが終わって大体1時間後、僕を買った成金と、その取巻きみたいな人達に囲まれていた。


 ああ、海賊船でも同じような場面があったね。またそれの繰り返しか。成金と取巻きに何発も殴られたし、挙句の果てに剣で斬り付けられた。一切ダメージは通らなかったけど……


「うえーん! 脱げないんでずぅー! うえーん! もういやだー! 帰るー!」


 僕は恐怖のあまりに漏らしてしまっていた。鎧の機能のおかげか股間はすぐに乾く。


 その後、成金と取巻きは、ノコギリみたいなもので引かれたり、棍棒みたいなもので殴られたり、水や火、魔法まで使って僕から鎧を引き剥がそうと試みていた。痛みは全くないけど、怖い。僕はただただ、泣き叫びながら、この苦しみが終わるのを待っていた。


「ここまでやってもダメか。おい、他に何か方法は無いか?」

「剣でも切り離せないとは思いませんでしたね」

「とりあえず、奴隷の刻印だけ打ってしまいましょう。逃げられたりしたら面倒です」

「ああ」


 泣いてうずくまったまま動けなくなってしまった僕の頭の上で、何だか色々相談しているみたいだ。


「くそ! 刻印魔法すら通じないのか。これじゃ投資した金が回収できないぞ!」

「どうでしょう。我々で無理ならあそこに放置して中身だけ吸わせちゃうというのは」

「ああ、なるほど……くく……お前の考える事は相変わらずえげつないな。まだ子供だぞ」

「いえ、そうは言っても、こいつの価値は鎧だけですからね」


 僕は突然持ち上げられた。

 長い時間、恐怖に晒されていた影響で僕の身体は強張ってしまい、身動きが出来ない。


「なんだ、こいつ……とうとう壊れたか? 何も反応しないぞ」

「まぁ、これから起こる事を考えれば、その方がいいじゃないですか?」


 そのまま僕は荷物のように麻袋の中に突っ込まれた。

 そして、馬車か何かに乗せられ、ガタガタと数時間揺られる事となった。


「着いたぞ、ガキを下せ」


 麻袋がまた持ち上げられた。


「おい! 助かりたかったらそこから生きて帰ってこい! 頑張れよ!」


 僕の耳元で小声で囁く声が聞こえたかと思うと、胃が突然浮き上がるような感覚に陥った。どうやら麻袋ごと僕を投げられたらしい。 数秒ほど落下が続いて、身体に大きな衝撃が走った。その瞬間、僕を包んでいた麻袋の感触が消えた。


「あれ?」


 その衝撃で僕の身体の硬直も解消されたみたいだ。よかった……とりあえず動ける。

 早速、立ち上がってみる。僕を包んでいた麻袋が消えている。僕の周りには岩しか無い。上を見上げると、どうやら僕は直径で10メートルくらい、深さは20メートルくらいの穴に投げ落とされたっていう事が理解できた。


 誰かが削ったのか、壁の内側には手がかりになるような凹凸が無い。これでは道具なしでは登れない。


「ここは、どこですか!」


 穴の上から僕の様子を窺っている人影が見えたので、大きな声を出して聞いてみた。


「ああ、そこは余り知られていないが、ダンジョンの出口じゃ。そこら辺の岩陰に穴があるだろう。反対側の入り口から入った場合の緊急脱出経路の一つになっているのじゃ」


 逆光で顔はよく見えないが、その声は僕を競り落とした成金だな。


 「おっと、先に言っておくが、お前みたいなガキがそこに入ったら、入り口付近で襲われて確実に死ぬぞ。熟練の冒険者がパーティを組まない限り、抜ける事なんて出来ない難易度の高いダンジョンの出口付近だから、魔物のレベルも高い場所だ」


 そこで何かツボに入ったのか、大声で笑い出した。


「まぁ、お前が今いる場所は……ぷ、くく、ははは……はぁ……今、お前がいる場所は、竜種が巣にしている場所だから、どっちにしても今夜には死ぬけどな」


 その言葉を聞いて全身の血がサーっと引くのが解る。

 あまりの怒りに貧血で倒れるかと思ったよ。4歳児を竜の巣穴に落としておいて、ゲラゲラ笑っているなんて、あの成金野郎、生きている価値が無いね。


「……そうですか……それで僕を殺してどうするんですか?」


「正しくは、お前なんか死のうが生きようがどうでもいい。、わしはお前の鎧が欲しいんじゃ。だから竜種に喰われて消化されてくれ。まぁ、ダンジョンで死んでも身体はダンジョンが吸収するから、そっちでもいいがな」


 そうか……僕の価値は無いのか……結局、父上が作ったこの鎧が今の僕の価値なんだな。むしろ僕が付いているから鎧の価値が下がっている、さっきのオークションはそういう事なんだろう。


「長生きするなら、そのままそこで座っていろ。今日の夜までは確実に長生きできるぞ……くくく、がははは!」


「わかりました、それならお望み通りに……」


 僕は岩の壁から成金が言っていた岩陰の穴を探し始めた。


「お、おい。そこを動くな。そこで大人しく喰われておけ。その方が後の回収が楽だ」


 お、あった。ここだな。随分小さな穴だな。へぇ、仕組みはよく解らないけど、中は明かりが灯っている。これはラッキーだな。


「おい、待て! 中に入ったら確実に死ぬぞ! こっちも回収が少し面倒なんじゃ! 勿論、ほんの少しだぞ! だから悪いことは言わん。そこで喰われろ! ちゃんと墓は立ててやるから!」


 一度だけ僕は上を見上げ、


「い、 や、 だ!」


 大きな声で、僕の決意を宣言した。


 僕はこうしてダンジョンに向かった。

あれ、鬱展開?

安心してください。赤い鎧を着てますよ!


次回『僕はこうして冒険者となった(仮)』


そう。予告には(仮)をつけるのが大切です。だって、これから書くんですから!

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