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8. 僕はこうして奴隷になった

また長くなってしまったので2つに分けました。このため、予告タイトルのパートまで行き着けませんでした。


次話は明日投稿します。

 海風が冷たい。

 それでも僕は、じっと立ち尽くしていた。


 執事さんは、僕を下ろした後、小舟を颯爽と漕いでエンペラトリス号に戻ってしまった。それからしばらくすると、エンペラトリス号は動き出し、小さな影となり、やがて水平線に消えた。


 僕はそれでもじっと、カーラが来てくれるんじゃないかと、看板のそばで立ち尽くしていた。


「……」

「……」

「……」

「……」


 とうとう真っ暗になった。

 誰も僕を迎えには来なかった


 本当は最初から気がついてはいたけどね。

 ああ、どうやら僕は置いていかれたみたいだ。なんだろうな、ほんの数時間前は、僕にもようやく結婚相手が出来たって喜んでいたんだけど、またこのパターンか。前世の最後はそれでも1日は夢を見ていられたのに、今回は1時間弱か。


 ……あ、やばい……鼻の奥がツーンとなってきた……これ、制御できないやつだ……


「ひっ、ひっ、ぐ……う、う、うえーん! ははゔえー! ぢぢゔえー」


 僕は盛大に泣き出してしまった。

 いくら泣いても、涙と鼻水が止まらない。頑張れ、シャルル()! 負けるなシャルル()! 必死に自分に言い聞かせる……


----- * ----- * ----- * -----


「……ぉぃ……おい……おい!」


 耳元の大きな声に僕はびっくりして飛び起きた。


「え、あ、はい! すみません、寝過ごしました!」


 やばい! 居眠りしてた! 慌てて立ち上がり、上司に頭を下げ……って、あれ? 僕はシャルルじゃん。


 ふぅ、久しぶりに日本にいるような気分になったよ。少し懐かしかったな。そうか、あのまま泣き疲れて眠ってしまったんだな。ふわぁ……もう朝か……もう一眠り……


「おい!」


 そこでようやく、僕は自分の後ろに立つ人に気がついた。


「すみません……えーと、なんでしょう?」

「なんでしょうって……ここで何をしているんだ? その身なり、どこかの貴族の坊ちゃんか? 船が難破でもしたのか? なんでこんな所で子供一人で寝ているんだ?」


 立て続けに僕にそう問いかけてきたのは、いかにも漁師という風体の男の人だった。うん、おとぎ話に出てくる浦島太郎みたいな格好をしているな。


「ああ、すみません。僕もよくわからないのですが、ここに置いていかれたみたいなんです」

「置いていかれた? なんだ、親に捨てられたのか?」


「いえ、親は元気です。決して親においていかれた訳では無いんですが……」

「そうか……なんか事情があるのか。まだ幼いのに、大変だな」

「はい、ちょっと困っています。ここはどこでしょうか?」


 看板にゴヤって書いてあったから、親方の国だっていうのは解ったけど、そもそもゴヤがどこにあるのかも知らないしなぁ。ダビド王国から遠いのかな……。


「ここはエズっていう村だ。とりあえず漁が終わったら、俺が役場に連れて行ってやろうか? 行く当てもないんだろう?」

「はい、それは助かります! ありがとうございます!」


 過去を振り返るのはやめよう。とりあえず前へ進まないと!

 僕はそう思って漁師の申し入れをありがたく受けた。漁師は僕に干した魚を分け、そのまま砂浜を歩いて海に入り、腰の辺りまで浸かりながら網を投げ始めた。


「……」


「……」


「ぐすっ」


 いかん! 腹が膨れたせいか、いつのまにか昨日の事を思い返していた。


 気分を変えようと僕は立ち上がり、漁師の元へ向かった。途中からバシャバシャと水の中に入るが、僕の鎧は水まで弾くのか、鎧の中には水が入ってこない。


「どうした? もう魚は分けてやれんぞ」

「い、いえ。魚はありがとうございました。おいしかったです。それよりも助けていただいたお礼に、何かお手伝いするような事はありませんか?」

「ああ、そうだな……それじゃ網から魚を外すのを手伝ってくれ」


 そう言って漁師はまた海に向かって網を投げ、それを手繰り寄せる。その網をよく見ると体長が数センチ程度の小魚が数匹、かかっていた。


「これを外せばいいんですね」

「あ、ああ……おい、その……その鎧は……濡れないのか?」

「え、あ、はい。そうみたいですね。防水性能がいいのか、全然濡れないし、蒸れないんですよ」

「そ、そうか……それはすごいな」

「はい」


 僕はそんな他愛の無い事を話しながら、網にかかった小魚を外していく。それから太陽が昇りきるまでの間、何度も漁師は網を投げ、僕と一緒に小魚を外すというのを繰り返した。


「よし、今日はこのくらいで十分だ。シャルル、ありがとうな」

「いえ、こちらこそ、このくらいのお礼しか出来なくて」

「シャルルは小さいくせに、礼儀正しいな」


 作業の合間に自己紹介も済ませた。漁師のおじさんはガストンさんと言う名前だ。


「それじゃ、そろそろ村まで戻ろう。魚を置いたら役場まで連れて行ってやるからな」

「はい、お願いします」


----- * ----- * ----- * -----


 浜辺に沿って30分くらい歩いた先に大きな村があった。

 ガストンさんの格好から小さな漁村をイメージしていたんだけど、しっかりとした港もあるし人も多い。真っ赤な鎧を着ている僕が珍しいのか、ジロジロ見られるのには辟易としたが、そこは大人力を発揮して愛想を振りまいておく。港の前を通り過ぎ、やがて板で囲んだだけの家が立ち並ぶスラムのようなエリアに入った。


「ほら、ここが俺の家だ……」


 ガストンさんが指差した先には、板と枝を壁として囲い、屋根には枝を並べただけの小屋があった。


「……借金して船を買ったんだけど、あっさりと嵐で沈んでしまってな……女房も子供も全部持っていかれてしまって、今では俺一人でこんな暮らしさ」


「そうなんですか」


「ああ……おい、そんな顔をするな。それに辛い事ばかりじゃないさ。シャルルにも出会えたしな」

「はい」



 ガストンさん、良い人だ。

 僕らは二人で獲った小魚を板の上に並べて、天日干しの準備をした後、僕たちは役場へ向かった。


 港から内陸に向かう道を歩いているうちに、どんどん村は賑やかになっていく。道沿いに色々な店が並んでいる。父上が治めているトーキョーと比較するとのどかな田舎という雰囲気はあるけど、これはこれで立派なものだ。僕が生まれ変わってきたこの世界、科学文明は発達していないけど、それなりにしっかりとした社会なんだろうな。


「ここだ……そこの椅子に腰をかけて待っていてくれ。受付で手続きをしてくる」

「はい」


 役場の中には窓口がいくつもあり、その一つにガストンさんは並んだ。僕は言われた通り、端の椅子に座りガストンさんの手続きが終わるのを待つ。あそこが迷子係なのかな? この年で迷子とは情けない事だが、さすがに止むを得ないだろう。


「……わかりました。これで……はい。長い間、お疲れ様でした。確かに……はい……」


 ガストンさんの順番となり、窓口の女の人の声が少し聞こえてきた。僕の位置からはガストンさんの顔は見えないけど、何か一生懸命説明しているみたいだ。本当にご迷惑をおかけした。しばらくして、ようやく僕の状況を理解してもらえたのか、受付の女の人とガストンさんは握手をし……こちらを一度も見ないまま、役場から出て行ってしまった。


「あれ? ガストンさん?」


 なんだろう、向こうでも手続きがあるの……かな? 役場の出口をじっと見ていたら、ガストンさんと話をしていた窓口の女性がこちらへ歩いてきた。


 とてもキレイな人だ。スレンダーで長身の金髪、オッパイはそれほど大きくないけど、日本にいれば確実にモデルと間違えられるだろうね。


「シャルルさん」

「はい!」


 顔とオッパイをじっと見つめていたのがバレたと思って、僕は思わず立ち上がってしまった。


「うん、いいお返事ね。ガストンさんから話は聞いたわ。災難だったわね。それじゃあ、こっちへ来てもらえる」

「はい」


 受付のお姉さんが出した手を掴み、僕は役場の奥にある階段から下へ降りた。横目でじっとオッパイ……じゃない……モデルのような端正な横顔を見つめる。


「はい、ここに入ってね」

「はい!」


 お姉さんの案内で僕は木の扉を開け、中の部屋に入る。寝台と木の桶だけがある部屋だ。何か見覚えのあるような感じの部屋だね。そして、お姉さんはニッコリと笑って僕にこう言った。


「それじゃ、ここで静かにしているのよ」

「はーい」


「いい子ね。セリは明後日だから、それまではゆっくりしていなさい」

「はー……い?」


 そう言ってお姉さんは扉を閉め、外から鍵をかけた。


「え? え? ええ?」


 振り返ってみる。そこには寝台と桶……桶……海賊船で何度も掃除をさせられた汚物を処理する桶。

 

 僕はこうして奴隷になった。


次回、


「僕はこうしてダンジョンに向かった」


今度こそこのタイトルで行きます!

もう書き終わっているので確定です!


明日の夕方に投稿予定。お楽しみに!

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