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6. 僕はこうして婚約した

 それにしてもひどい状態だね。

 上甲板にあった船長室はほとんどが吹き飛んでおり、バラバラと転がっている燃えかすが、その名残を示しているにすぎない。船長室の後ろにあったマストや帆は、痕跡すら残っていないよ。


「こりゃ、自力での航走は無理だな」

「そうですね……」


 親方とマルコが何やら相談している。


「どうなっちゃうんです?」


 吹き飛ばした当人としては心配になって親方に確認してみたんだけど、


「簡単に言うと遭難だな」

「そうなんですね」


 ギャ、ギャグじゃないよ。

 自分が発した言葉に僕はおろおろしてたら、ソフィアはそれが面白かったみたいで、ケラケラ笑いながら、


「大丈夫です。助けは呼びましたから……」

「お、ソフィア様も魔法を使えるんですね」

「はい。魔力は強くありませんが、風の精霊とは仲良くしていますので、父の元へ飛んでもらいました」

「それなら安心だ」


 え? 何が安心なの? 精霊にお願いって、伝言までお願いできちゃうの?


「人によるな。あと、ソフィア様のところは精霊使いの一族として有名だから……」

「じゃぁ、何で昨日、海賊にやられてしまったの?」


 そんなに強いなら勝てたんじゃない?


「あの船長が乗り込んできてから、精霊に私たちの言葉が届かなくなって」

「やはり、何か特殊な力を持っていたようだな」

「そうですね」


 ソフィアと親方、マルコは納得したように頷いているが、魔法の知識の無い僕にはサッパリだよ。話についていけなくなって退屈そうな顔をしたのがわかったのか、カーラが僕の肩に手を置き、こう囁いてくれた。


「シャルル様、お礼が遅れて申し訳ありません。本当にありがとうございました。あなたは私たちの命の恩人です」


 カーラさん、優しい。何かこの言葉で、ようやく僕も助かったんだって気になってきた。鼻の奥がツンとしてきた僕は、その胸にしがみつい……


「船影発見!」


 未遂でした。危ない。泣きそうになってしまった。慌てて溢れそうだった涙を拭い、喉に流れる鼻水を飲み込んだ。そして、声のした方に行ってみると、水平線の方にポツンと米粒ほどの大きさの、小さな影が見えてきた。時間の経過とともに、それははっきりとした船の形となり……


「あれは……アマロ公国のエンペラトリス号」


 影がはっきりとした船影として確認ができるようになったところ、僕の近くにいた親方の部下の言葉が耳に入った。


「アマロ公国?」

「そうです……」


 僕の後ろに立っていたカーラさんが、今度は僕の両肩に手を置き、


「ソフィア様はアマロ公国の公女殿下なのです」


----- * ----- * ----- * -----

 

 エンペラトリス号は海賊船の近くまで来ると、小舟をおろしてきた。助けが来た! と、みんなは喜んでいたが、最初は状況を確認する必要があるという事で、ソフィアとカーラだけを乗せ、小舟は戻っていった。


 待つ事数十分、このまま放置されたらどうしようって考え始めた頃、また小舟が下され、こちらへ向かってきた。ソフィアとカーラが色々説明してくれたみたいで、ようやく僕たちはエンペラトリス号に移乗する事を許された。


「申し訳ありませんが、ゴヤの方たちは一度、拘束させていただきます」

「えー!」


 エンペラトリス号に乗ると、親方以下、元海賊は僕を除いて全員拘束されてしまった。僕は思わず叫んでしまったが、親方も全く抵抗もせず、


「当然ですね。お世話になります」


 そう頭を下げた。


「あ、シャルル様は問題ありません」

「そうなの?」


 どうやら僕だけ別扱いらしい。それだと、なんか罪悪感があるが……


「坊主、元気でな。ゴヤへ来る機会があったら顔を出せ」

「お前の魔法、凄いんだって? 今度見せてくれよ」

「本当に助かった、ありがとうな」


 そう言って、親方達は船員に先導され、エンペラトリス号の船内に入っていった。


「ゴヤとアマロ公国はちょっと微妙な関係で、さすがにこの船で自由にしていただく訳にはいかないですし、ゴヤの兵士がアマロ公国の船を襲ったという事が公になるのも、まずいんです。でも、ちゃんと船室は割り当ててくれるよう、ソフィア様がお願いしてくれましたので大丈夫です」


 カーラがそう説明してくれた。このまま、親方たちは表に出ないようにして、ひっそりと強制帰国となるらしい。親方、臭かったけど、色々とありがとう! また、いつかどこかで!


----- * ----- * ----- * -----


 僕には豪華な船室が割り当てられた。

 どうやら貴賓室のようなんだけど……色々と背が届きません。大人サイズだと、何をするにも一苦労だ。少し、途方に暮れていたらカーラが入ってきた。


「シャルル様、体を拭く水を……あら、そうよね……ふふ……ごめんなさい。おばちゃんがやってあげるわ」

「え、あ、ありがとうございます。でも、おばちゃんじゃなくて、お姉さんですよね」

「上手ね。でもシャルル様から見たら30前の独身女なんて、おばちゃんよね。お母様とそんなに年齢が変わらないんじゃない?」


 そうなんだ。30前なんだ。一番熟れ頃じゃないか。僕と年齢的にも釣り合……わないか……今は4歳だもんな。いいオッパイなのに……いいオッパイなのに……


「はい、それじゃヨロイを脱いで」

「あ、これ、脱げな……あれ?」


 海賊船では決して脱ぐ事が出来なかった鎧が、何の抵抗もなく、あっさりと脱げてしまった。そのあと、カーラに上も下も全部脱がされてしまった。


「ほら、シャルル様。恥ずかしがらないで……身体が拭けないですよ」


 そう言って、全身を少しぬるめのお湯で絞ったタオルで拭いてくれた。いやー、久しぶりで気持ちい……もちろん、股間だけは自分で吹きました。


「はい、おしまい。着替えはここに置いておきますね。それと鎧は拭いておきましょう……あら……」


 僕が新しい肌着に着替えている間、カーラはベッドに置いてあった僕の鎧を手にとって、ひっくり返してみたりと、色々観察をした後、


「この素材……竜鱗? しかも着色じゃなくて天然色の赤色……シャルル様、これは?」



「父上が旅立ちの餞別にと、僕に作ってくれたんです」

「そう……そうなんだ……そうなのね、だから、あの威力なのね」


 カーラが頬を染め満面の笑顔を浮かべた。


「え、それはどういう?」

「今は内緒。私とシャルル様、とっても不思議な縁があったんですね」


 そう言い残し、カーラは部屋を出て行った。しばらくすると、ソフィアが来て欲しいと言っていると、船員が僕の事を呼びに来た。


「え?」


 船室のドアを開けようと、手を伸ばした瞬間、突然、カーラが片付けてくれた僕の鎧が、ゆっくりと飛んできて、僕の身体に張り付いた。


「これを着て出ろって事?」


 自分の意思を持った鎧ってどういう事なんだろう? 父上! 一体どんな鎧を作ったんですか!


----- * ----- * ----- * -----


 船員に案内された部屋も貴賓室のようだった。どうやら、僕が案内された船室よりも格式が高い部屋みたいで、広さも家具の豪華絢爛さも段違いだった。


 部屋に入ってすぐ、応接セットがあり、そのソファの前で、ソフィアと、恰幅のいいおじさん、上品そうなおばさんが立っていた。おばさんの方はソフィアによく似ている。多分、この二人がご両親なんだろう。ソファの後ろで、カーラが控えていた。


 カーラの顔は先ほどと違い、少し沈んだ雰囲気だ。ソフィアは少し頬を染めはにかんだ感じで僕の事を見ている。うん、こんな表情も出来るんだ。さっきまでのキツイ感じと比べて年相応な感じでいいんじゃない。そんな事を考えていたら、おじさんが口を開いた。


「私はアマロ公国の公主マティス・アマロだ。君がシャルル君か……本当に幼い子供なんだな……これは失礼」

「はい。僕の名前はシャルルです。4歳になったばかりですので、幼い事に間違いはありません」


「受け答えがしっかりしているね。さすがだ」


 何がさすがなんだろう。


「今回、うちの娘や他の我が国の子供達を救ってもらい、本当に感謝している。正直、もう無理だと諦めていた所だったんだ。公主としてではなく、ソフィアの父としてお礼を言わせて欲しい」

「私からも感謝を……」


 公主の隣にいたおばさんはソフィアの母だと名乗った。二人からも暖かい感謝の言葉をもらった。


「いえ、本当に僕は何もしていないので……」


 そう言って謙遜してみたが、


「先ほど、ゴヤの軍人からの事情聴取もしてきた。やはり君の働きが大きいだろう。是非、お礼がしたい」

「ありがとうございます」

 

 親方からも受け取っておけって言われたし、素直に受け取っておこう。


「それと、一つ頼みがあるのだが……」


 なんか雲行きが怪しくなってきたぞ。


「実は、海賊船に襲われ、攫われたというのは外聞が悪くてな。特に、女性としてはどうしても『海賊に攫われた女』というレッテルがついて回ってしまうだろう」


 その言葉を引き取り、ソフィアのお母さんが続ける。


「そこで、今回、英雄的な働きをしたあなたに無理なお願いと言ってはなんだけど、攫われていたのではなく、『婚約者』のあなたがずっとそばで守っていたという事にして欲しいの」


 え、今なんて?


「年頃の女性には『海賊に攫われた』というのは致命的な醜聞になってしまう。君のような幼い子供に頼むのは本当に心苦しいが、ゴヤの軍人に頼むわけにもいかなくてな。本当に申し訳ないんだが、是非、婚約をしていた事にして欲しい。ああ、もちろん、偽装ではなく、本当に婚姻を前提としたものだ」


 その言葉に僕は彼女を見つめる。

 彼女も真剣な顔をして僕を見つめ、そして頷く。


 そうか。確かに結婚適齢期の女性には、たとえ短い時間であったとしても、海賊に攫われていたというのは致命的な話だよな。本人がどんだけ傷つくのかなんても事も考えず、どうせレイプされたんだろうと口さがない連中が騒ぎそうな話だ。


「わかりました。確かに女性にとっては大切な話です。僕なんて、幼くてまだ何の力もありませんが、婚約者として醜聞からも守り続けましょう」

「そうか、ありがとう。ありがとう」


 僕は静かに歩み出て、彼女の腕をとった。


「「「「え?」」」」


 この部屋で唯一の結婚適齢期である女性の腕を取った僕は、まっすぐ彼女の瞳をみつめ、こう誓った。


「僕が、この命を賭して、彼女(カーラ)の事を守ります」


 僕はこうして婚約した。



明日は遅めの時間に更新予定です。

カーラと婚約(?)したシャルルはどうなっちゃうんでしょう!


次回「僕はこうして国を追われた(仮)」

……今日の反省で、(仮)としておきます。

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