3. 僕はこうして拉致られた
23時にもう1話投稿します。
「シャルル坊ちゃん、それではどこに向かいましょうか?」
「セリア、一緒に旅をするんだ。坊ちゃんは無しにしてくれ」
「わかりました。それではシャルル、これからどこに向かいますか?」
両親に見送られ屋敷を出た僕たちは、昨日、オーガ族と出会った小川の手前まで来ていた。
「とりあえず、村に行ってみよう!」
「村ですか?」
「え、村じゃないの? あの橋の向こうは……」
「あ、小川を渡った先は、もっと大きい都市ですよ」
「都市?」
「この国の英雄と王女様が住んでいる屋敷ですよ……そんな小さな村のそばにはありませんって」
「え、だって、父上は領主じゃ?」
そこでセリアはにっこりと笑う。
「そうですよ。シャルルのお父上はダビド王国最大の経済都市トーキョーの領主様です」
なんだよ、トーキョーって……しかも最大の経済都市? どんだけチートを駆使したんだよ!
「トーキョーって、父上が作ったとか?」
「はい、そうですよ。元々は魔王の居城があったものを、魔法で更地にして、そこに一から街を作ったんです」
もう驚かねーぞ。
「じゃぁ、とりあえず父上が作った街に行ってみよう」
「はい!」
小川を超えしばらく歩いていると道の両脇に少しずつ建物が増えてきた。やがて、建物と建物の隙間がなくなり、気がつけば街の中に入っていた。
「ふぅ……今日は随分歩いたな。今日はこの辺で休むとしよう」
「え、シャルル? まだ1時間も歩いていませんけど……」
そうなの? もう疲れたし、眠いんだけど……
「まぁ、まだ4歳だし、仕方が無いか。それじゃ、宿を取りましょう」
「冒険者らしい宿で!」
「はいはい」
セリアは僕の手を引き、宿を探し始めた。
街は本当に大きく、なかなかそれらしき宿が見つからない。僕はいつのまにか、歩きながら眠ってしまっていたんだろう。気がつくとセリアに抱きかかえられていた。
「あ、シャルル、起きました」
「うん……ゴメンなさい。僕、もう眠くて……」
それだけ言うのが精一杯。僕はまた眠ってしまった。
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「うえーん」
僕は自分の泣き声で目を覚ました。
「ぐすん! ぐすん! ははうえー! ははうえー!」
どうやら僕はセリアと一緒に宿屋に入っていたらしい。眠っていたので全く気がつかなかった。目を覚ました途端、不安になったシャルルの部分がホームシックを起こしてしまったみたいだ。うーん、こうなると制御が出来ん。
「シャルル? シャルル?」
セリアがドアを開けて入ってくる。あ、僕を一人で残してどっか行っていたんだな。
「セリアー! セリアー!」
僕はセリアの胸に飛びつく。
セリアは鎧の胸当を外しており、ダイレクトにオッパイの感触を感じる。
「うえーん、おうちに帰るー! おうちにー! シャルル、おうちに帰りたーい!」
いや、これは本心じゃないぞ。僕は帰りたくない。父上に大見得を切ってしまったし、これからは父上の視線が厳しくて母上のオッパイに甘えられない。シャルルよ、男なら気合を見せろ!
「ぐすん……ぐすん……」
しばらく泣き続け疲れたのか、本能の部分が少し落ち着きを取り戻した。
「ごめん、セリア。僕、目が覚めたら寂しくなってしまって」
「いいんですよ。シャルル。私は奥様の代わりにはならないんですが、まだ4歳ですもんね。いくらでも甘えてください」
そう言って、ぎゅっと抱きしめてくれた。胸の感触が……お、このコリっとした部分は……この世界、ブラジャーが無いので、ダイレクトに例のポッチの感触があるんだよなぁ。
「セリアー」
「はいはい、シャルル」
14歳のセリアはまだ柔らかい感じだけど……どさくさに紛れて、口の部分で当たるように僕は顔を押し付ける。うーん、役得役得。そんな僕の心情を知らずにセリアは僕の頭を撫でてくれた。あー幸せだ。
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「セリア、ありがとう」
僕は色んな気持ちを込めてお礼を言った。30歳のおっさんが14歳の女の子の胸にしがみついているのは犯罪だが、今の僕は4歳児。セーフだ。いやらしい気持ちではなく、母性を求めての行為です。はい。
「目が覚めて一人だったから、ちょっとびっくりしちゃった」
「うーん、シャルル!」
僕の仕草が可愛かったのか、セリアがもう一度抱きしめてくれた。
「セリアが、ちゃんと守りますから、安心してくださいね」
「うん」
「それじゃ、夕食を食べに行きましょうか。この宿屋、ステーキで有名なんですよ」
「はい!」
セリアに手を引かれ、僕たちは階下の食堂に移動をした。
どうやら、ここの料理は元々、父上のアイデアだったらしい。単に肉を焼くだけでなく、強火で周りを焼き上げ、弱火でその後じっくりと焼く。こうする事で柔らかくてジューシーなステーキが出来上がる。ステーキにつけるソースも醤油ベースのさっぱりしたもの。醤油も父上の発明らしい。もうやりたい放題だな……。
「シャルル、美味しい?」
「うん」
「そう、よかった」
セリアの目がとても優し。
あれ、出発の時はこんな優しい目をしていたっけ?
「セリア、なんか屋敷にいる時よりも優しいね」
そう僕が呟くと、
「え、あ、やだ。シャルル、照れるじゃないですか。なんだろう……私がシャルルの事を守らないとって思ったら、とってもシャルルが可愛く思えてきちゃって」
デレた? 母性を刺激したのかな? これは乗っかっておかないと!
「そう。ありがとう。シャルルもセリアの事が大好きだよ」
ぼっ! と音がするような勢いでセリアの顔が赤くなった。
「シャ、シャルル。嬉しい……あーもう、本当に可愛い」
ムチュ。
え? 突然、唇を塞がれた。 あれ、これって……
「あーん、もう食べちゃいたい」
ムチュ! ムチュ! ムチュ!
セリアがなんどもキスをしてくる。息が苦しい……びっくりして目が回ってしまった。
「あれ、シャルル! あー、ごめん。私、ちょっと調子に乗りすぎた! わー、起きてー!」
ぼんやりと薄れゆく意識の中、セリアの叫び声だけが聞こえた。
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目を覚ましたのは夜中だった。
僕はベッドの上で寝かされており、同じベッドの中でセリアが僕の事を抱きしめていた。
「あ、起きた?」
セリアは眠らずに起きていたみたいだ。
「あれ、僕は?」
「ごめんね、シャルル。あんまり可愛かったので、つい……疲れていたのに、ごめんね」
「ううん、ちょっとびっくりしただけ」
「もう遅いから、寝なさい。寂しくないように、私が一緒に眠るから」
「はい」
また急速にやってきた睡魔に、僕はそのまま身を預けた。
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翌朝、気分もすっきり目が覚めた。
なんだか、身体の調子がいい。さすが幼児の身体、一晩寝れば完全復活。日本にいた頃の中年の身体とは大違いだ。
「ねぇ、セリア?」
「なーに? シャルル」
なんかセリアの顔がほんのり赤い。4歳児に恋しちゃってません? セリア? 大丈夫?
「この街は父上の街だよね」
「そうですね」
「ここにいても、僕は冒険した事にならないよね?」
「そう……ですね」
「せめて、父上の影響の無い街まで行きたい」
「わかりました……この国でそれはなかなか難しいのですが……ますは、隣の街まで行ってみましょうか! ああ、でも、半日以上歩く事になりますよ? 大丈夫ですか?」
「うん、休みながら行けば大丈夫だと思う」
こうして僕たちは朝食をとった後にトーキョーを後にした。
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「シャルル、今日は調子がいいみたいね」
「そうだね……昨日よりは疲れない感じかな」
トーキョーの街を出発して3時間くらい経った。昨日は1時間でへばってしまった僕だったが、今日は全然余裕だ。まったく疲れを感じない。
「1日で鍛えられたのかな? 父上が勇者の加護を与えてくれたって言っていたし」
「まさか。加護があっても歩くくらいで鍛えられたら、私たちが修行する意味がないじゃないですか」
「そういえな、セリアは父上の弟子なの? 僕はすっかりメイドさんだと思っていたんだけど……」
「あはは、シャルルは勘違いしていますね。お父様の屋敷にいるのは、皆さんお父様の弟子だけですよ」
「え、そうなの?」
「魔王を2度も討伐した伝説の英雄ですからね。皆さん、住み込みで修行をしているんです」
「でも、僕は修行しているところなんて見た事ないけど」
僕のお世話をしたり、屋敷の掃除をしたり、料理をしたり……僕はそんなところしか見ていない。
「そうですね。魔法の修行としては、普段から魔力を全身に帯びて行動したり、手で触れずに物を動かしたり……日常生活で常時魔法を使うようにしています。武術の修行としては主に筋肉トレーニングですね。私はメイド風タングステンアーマーを身につけて毎日、屋敷の掃除をしていました」
「タングステン?」
「はい? シャルルのお父様に作っていただいたんです。最初はメチャクチャ重くて毎日泣いてましたよ」
へー。タングステンって重くて硬い重金属じゃなかったか? あんなもんで、どうやってメイド服を作るんだよ。父上、いくらなんでも規格外すぎるぞ。
「今回はシャルルの護衛ですので、ご覧の通り普通の革製の軽装備ですので防御力は落ちていますが、私の本来の売りはスピードですので、安心してください」
「もしかして、その格好で走ったら相当早い?」
「はい、ほとんど自分の体重だけですので、かなりイケると思います。持久力もかなり付きましたので、長距離もいけますよ」
「本当? ちょっと走って見せて!」
「はい、では行きますよー。よーく見ていてください!」
セリアは、にこりと笑い俺の前から姿を消した。
「うぉ!」
少し遅れて突風が俺を襲う。どんだけスピードが出ているんだ。道の先の方で全速で駆けていくセリアの姿が見える。
「はえー! もうあんなところまで……え? あれ? おーい! セリア! 戻ってきてー!」
みるみる小さくなるセリアの姿に段々不安になる。シャルルの部分が震え出してきているのがわかる。あ、やばい、もう制御がきかない……
「う、う、う、セリアー! セリアー! うえーん! セリアー! わーん」
僕は号泣してしまった。でもあの距離だと聞こえないだろうなぁ……
「僕、どうしたんだい?」
優しい男の声に僕は振り向いた。
「セ、セリアが、セリアが行っちゃった……あ……」
そこには見るからに優しくなさそうな風体のおっさんが3人、ニヤニヤしながら立っていた。
僕はこうして拉致られた。