19. 僕はこうして魔法学院の女子寮に忍び込んだ
2日ほど、更新が出来ませんでした。
今後も2、3日に1回のペースになりそうです。
といいつつ、本日は19時にもう一回更新します。
「お待たせしました」
僕は肩を落としながら冒険者ギルドの外で待つジョゼとスンの所まで戻った。
「ジョゼ、ジョゼだけを都まで連れていけばいいんだよね?」
「そうよ、そういう依頼を出していたのに、何を今更言っているの?」
「うん、ごめんなさい。ジョゼみたいな女の子が一人で都に行くなんて事を考えていなかったので……」
「人を見かけで判断するのはよくないわよ。あなた達だって、見かけだけで言えば私を護衛出来るなんて思えないわ」
「そうだね……反省します」
とはいえ、もう受託してしまった以上、行くしかないかな。
「馬車を借りて行ったりは……?」
「お金が無いわ」
即答したジョゼを改めて上から下まで見回す。
金髪縦巻きロール、セリアよりは年上に見えるみかけ、フリフリドレス。顔は鼻筋の通った美人。オッパイはセリアの完勝だけど、師匠よりは大きい。うん、
「お金が無いようには見えないけど、それも見かけで判断しちゃいけないって事?」
「そうよ、依頼料を払って、私は無一文。この荷物が全財産」
「なんでそんな事に……」
僕の質問にジョゼが顔を横に背ける。
「……」
ジョゼの声が小さくなって、よく聞こえない。僕は耳をそばだててみると、
「追い出さえれたの! 学校から!」
ジョゼの話はこうだ。
ジョゼはゴヤの都にある老舗商会の次女で、僕たちのいるエズの村から半日ほど行った街にある魔法学院に通っていたそうだ。そこにはジョゼのような民間人だけでなく、ゴヤの貴族子弟も多く通う名門校らしい。まさにゴヤの未来を担う子供達が集う場所だった。
同級生にはゴヤの第3王子がいた。王子は見た目も麗しく、性格も穏やか。ジョゼも含めて女生徒達は皆、一目あったその日から……という状態だったとの事だった。
「私は王子を初めてお見かけした時、運命を感じたわ」
ジョゼは身分の差を物ともせず猛アタックをかけたそうだ。
「最近は王子の方から話しかけてくれたりと、とってもいい雰囲気だったの……それなのに、あの泥棒ネコが!」
王子を囲む幸せな日々が数カ月も経った頃、聞いたこともないような男爵家の令嬢が入学してきたそうだ。その日を境にジョゼを取り巻く艦橋は一変した。王子の様子はおかしくなり、これまで毎日のように話をする仲だったはずが、ジョゼの事を見向きもしなくなった。
そこまで聞いて、ふと疑問に思い僕は、
「これって、ジョゼがその学校を追い出された話だよね? その王子と男爵令嬢は関係しているの?」
「関係するも何も、私を追い出したのが、その男爵令嬢なのよ!」
ジョゼはこれまでと態度を変えてしまった王子は、男爵令嬢が原因だと思い、その目を覚まそうと行動を開始した。
「それって、具体的に何を?」
「まずはニセの手紙で呼び出し、私の友達を集めて、取り囲んで詰問したわ。でも、もう少しで本性を暴ける所だったのに、王子が現れて……」
「そ、そうなんだ……」
「次に、学校が主催するパーティを内輪のパーティだからラフな格好で来るように教えて、怒りのあまり本性が出るように仕向けたり……」
「う、うん……」
「王子の側から離れるように、何度も手紙を書いたりしたわ。でも、あの泥棒猫は毎回、図々しくも王子に泣き付いて助けてもらって……何とか陰謀の証拠を手に入れようと奔走していたのだけど、とうとう反撃されてしまって……味方だと思っていたみんなも、恐ろしい目で私を糾弾して……私はとうとう追い出されてしまったの!」
話を聞く限り、全く同情の余地が無いね。ジョゼが悪いよね。
「でも、学院を追い出されたのなら、普通に家に帰ればいいんじゃないの?」
「急な事だったから、家に迎えを呼ぶことも出来なかったわ。持てるだけの荷物を持って昔、父が世話をした事があるという商人がいるエズの村まで来たの」
「ここまではどうやって?」
「ちょうどエズ行きの荷馬車があったので、お願いして乗せてもらったわ」
学校側もひどいな……いくらジョゼが悪いって言っても若い女の子を一人で追い出すなんて、何かあったらどうするつもりだったんだろう。
「でも、ジョゼはお金持ちなんだよね? 馬車を呼んだりは出来なかったの?」
「男爵令嬢を陥れた罰だって言って、持ちあわせは全て没収されたわ」
「学校に?」
「いえ、男爵令嬢の取り巻きに……それでも足りないといって、私は多額の慰謝料を背負わされ……ああ、どうしましょう。お父様に大変なご迷惑を……」
ジョゼは下唇を噛んで、ぐっと涙を堪えたみたいだ。
でも、今の話って、あれ? 何か話が思っていた方向からずれてきたような……
「ジョゼは学校から退学処分を受けたんだよね?」
「退学? なんで私が?」
「だって、学校から追い出されたって」
「そうよ、この荷物だけ持って、学校の寮から追い出されたわ」
「誰に?」
「男爵令嬢に」
僕の勝手な想像の中にあった、可憐で清楚、そして出る所は出ている男爵令嬢のイメージがガラガラと崩れてきた。
「慰謝料って?」
「あの泥棒猫を傷つけた慰謝料って言われたわ」
それって、男爵令嬢にキッチリと型にはめられていませんか?
「ジョゼに言いたい事はあるけど、それは後でいいや。でも、それだと家に帰るには、そのお父さんが昔お世話をした事のある商人に頼んだほう方がいいんじゃない?」
「勿論、そう考えていたわ。でも昨日、この村に着いてみたら、商会が潰れてしまっていて……」
なんか嫌な予感がしてきたぞ。
「その商会は何ていう商会?」
今まで黙っていたスンが僕の代わりに聞いてくれた。
「ジャンユーグ商会よ。私も会ったことはなかったけど、イザという時には頼りなさいって、お父様に言われていたの。なのに、昨日訪ねてみたら誰もいなくて、周りに居た人に聞いたら潰れたって……仕方ないのでお金に替えられるものを全部替えて、ギルドに依頼を出したの」
「主様、因果応報」
「そうだね」
ジャンユーグ商会は僕が一昨日、潰しちゃいましたよ。多分、ジョゼのお父様がお世話をした商人は、蜘蛛の口から出る白い粘液の原料になっていると思います。結局、この依頼は僕が受けるべくして受けた依頼って事なんだろうな。
「因果応報って、どういう事?」
「あ、ううん、こっちの話。それよりも、賠償金っていくらくらいなの?」
「2億セルクル」
「そ、そうなんだ……」
貨幣水準が分からないから、高そうとしか言いようがない。でも、多額って言っていたし、2億だし、相当な金額なんだろうな。
「それは払わなきゃいけないもの?」
「わからないわ……みんなに囲まれて、これは賠償が必要だって言われて……これで許してって持っていたお金を全部出したんだけど、これじゃ足りないって怒られて……ちゃんと払うからって言ったら、これを押し付けられたの」
そう言って背負袋の中から1枚の羊皮紙を出してきた。
「これがその羊皮紙」
僕はそれを受け取ったが……
「知らない単語が沢山あって、無理」
すぐジョゼに返してしまった。
「ジョゼ、これって何か怪しいよ。都に行くのは止めて、学校に戻れないか、頑張ってみない?」
「それが出来れば一番いいんだけど……」
問題はどうやってやるかだな。
「スン、何かいい方法ある?」
「正面突破?」
「いや、それは駄目でしょ」
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良いアイデアは浮かばなかったけど、とりあえず学院に行ってみようという事で、僕はジョゼとスンを連れて魔法学院がある街まで移動した。
「金輪際、私を担いでの移動は禁止します!」
ジョゼでは僕とスンのスピードには付いてこれないので、いつもの通りに二人で肩に担いで走ってきたのが、どうも気に障ったらしい。おかげで1時間くらいで着いたので良かったと思うんだけど、今はプリプリと怒っている。おとなしく担がれていたので、大丈夫かと思っていたら、どうやら恐怖の余り、声も出なかったらしい。
「まぁ、それはそれとして、ここが学院前なんだね」
「誤魔化されませんからね!……って、ええ! もう着いたんですの!?」
ジョゼは唖然と目の前にある大きな門を見ている。
魔法学院がある低い山を中心に発展した街のようで、頂上付近から放射線状に道が伸びていた。街の入口からなだらかな坂道を登って行くと、その先には学院の正門があった。門の向こうには大きな中庭とそれを取り囲むようにいくつもの建物が並んでいる。どうやら広大な敷地を要する学校みたいだ。
「この門から入ればいいんだよね」
「そう。でも、ここから先は生徒と職員、それに校長から許可をされた人しか入れないわ」
「ジョゼは入れるの?」
「勿論、入れるはずなんだけど……荷物をまとめて裏門から追い出されたから、どうなんでしょう」
ジョゼが少し不安げな表情を浮かべた。でも、そんな事は気にしていたら始まらないので、
「とりあえず、入ってみて」
「今からですか? こんな格好で?」
ジョゼの姿はフリフリのドレスに、大きな背負袋。特におかしな点も見当たらないので、
「僕たちはジョゼが入ったのを確認してから忍びこむから、さっさと入って。学校を退学になった訳じゃないなら、入れるんじゃない?」
「でも、寮を追い出されたから、もう戻っても……」
「寮を追い出したのは、その男爵令嬢なんでしょ? その人が管理人なの?」
「いえ、違うわ……でも……」
「ぐずぐず言わない! 駄目だったら都まで担いで連れて行ってあげるから!」
「それは却下よ……そうね、わかったわ。行くわ!」
そう言ってジョゼは虚勢だと思うけど背筋をピント伸ばして門の所へ行き、門を警備している守衛さんに話しかけた。
ジョゼは守衛さんとは少しやりとりをした後、守衛さんに先導され門の中へ入っていった。僕とスンはそれを見届けてから、塀を沿って移動し、正門から見えない位置まで進むと、一気にその塀を乗り越えた。侵入成功っと。
「ジョゼはどこにいるかな?」
「主様、あそこ」
スンが指差す方向には大きな背負袋を背負ったジョゼが守衛さんと一緒に歩いている姿だ。ここにいると見つかっちゃいそうなので、どこか良い場所を……
「スン、屋根の上に」
「ん」
目の前にあった建物の屋根の上へ駆け上がった。目立たないように姿勢を低くしながらジョゼの様子を伺う。こっちを探しているのか、キョロキョロしているけど、僕たちは上にいるんだよね。さすがに気がつかないかな……ん?
ジョゼが向かっている先にある石造りの大きな建物から5人の大人の人が出てきた。白髪の人や杖を付いている人がいるから、先生かな? 守衛さんは先生と何か話したあと、元来た方へ戻っていった。かなり距離があるので、何を話しているかまではわからない。
それにしてもジョゼは、先生方に何度も頭を下げているな。ちゃんと謝れる子なんだね。そのうち、話が済んだのか杖を付いた先生だけを残し、他の先生は戻っていった。
ジョゼは杖の先生と移動を始めたので、僕たちも屋根から屋根へと移動をしながら、二人に付いて行く。大きめの窓が沢山ある3階建の建物まで近づくと、中から女学生と思しき子達がバラバと建物の中から出てきた。ジョゼはそれを見て立ち止まる。どうやら、あれが女子寮のようだね。とりあえず、あの建物の屋根まで移動をしよう!
「主様、嬉しそう」
「ば、馬鹿なことを言わないで。これもジョゼのため」
女子寮の屋根の上に潜むって事にドキドキなんてしていないよ。子供だし、僕そういう事よくわからない。うん。
女子寮の屋根から玄関先の様子を窺ってみるが、杖を付いた先生が女学生に何かを告げ、戻っていった。ジョゼも女生徒達もしばらくは動かず、先生を見送っていたようだ。
その先生の姿が建物の影に入るやいなや、ジョゼと女学生の一人が言い争いを始めた。
「貴族だけが住まうべき伝統あるダニエラ寮に、卑怯で卑しい貴女が戻ってくるとはどういう事なの? それも一度、尻尾を巻いて逃げ出したネズミの癖に!」
甲高い声でジョゼに詰め寄っているようだ。
「おお、怖い。泥棒ネコに食べられると思って、避難しただけですわ。それにしても、おかしいわね、いつの間に規則が変わったのかしら。私の知る限り、ここの寮則にそんな愚かな項目はなかったと思いますが……さすが男爵家のご令嬢ともなりますと、寮則の余白に書かれているような事まで見えるのかしら?」
ジョゼも負けじと言い返している。
「私が悪魔と契約でもしていると言いたいの?」
「まさか、この国を支える男爵家のご令嬢にそのような無礼な口を利くなんて無礼など、私が働くとでも?」
「ふん、まぁいいわ。今日はあなたを連れてきた教授のお顔に免じて、許してあげましょう。それに、貴女は多額の借金持ちという事をお忘れにならない事ね。そうね、一日あたり1割の利子で許してあげるわ。あなたのお父様がいくら裕福な商会を経営していると言っても、どこまで持つかしらね。楽しみにしているわ!」
「くっ……」
ジョゼに対して男爵令嬢は言いたいことを言い切ったのか、一緒に出てきた他の女学生達を引き連れて、建物の中に戻っていった。さすがにこのタイミングで中に入るのは気まずいのか、ジョゼは玄関先でしばらく立ち尽くし、玄関付近に人の気配がなくなってから、寮の中に入ろうとした。
「ちょ、ちょっと待って」
僕は慌てて屋根から飛び降り、ジョゼの後ろに静かに立つ。我ながら、完璧な着地。そして、匍匐前進でジョゼに近づき小声で呼びかける。
「ジョゼ」
「きゃっ! ……あ、あなたですの。びっくりさせないで」
「こっちを見ないで。前を向いていて。で、結局のところ、中に入る事になったの?」
「ええ、教授のとりなしで寮には戻れる事にはなったわ。でも借金が……」
「ジョゼの部屋はどこ?」
「ここから見える裏側、3階の右端の部屋よ。2人部屋だったのだけど、同室の子は私が戻った事で他の部屋に移動するって……」
「そうなんだ。じゃぁ、部屋に入ったら窓を開けてね。僕とスンは窓から入るよ」
「わ、私の部屋に入るつもり?」
「勿論、この先の事もあるし……」
ジョゼが少し焦ったような表情になって……
「わかったわ。変なことをしたら許しませんよ?」
「僕に何を期待しているの?」
僕はこうして魔法学院の女子寮に忍び込んだ。
またもや、タイトル回収が出来ずにすみません。
でも次は大丈夫です。
次回「僕はこうして義賊団の団長となった」です
お楽しみに!