18. 僕はこうして悪役令嬢の護衛となった
昨日は更新を休んでしまい、申し訳ありません。
そして、前話しの予告タイトルの回収が少し先になりそうです。
「えーと、誰?」
突然出てき女の子に僕は唖然としつつ、セリアに確認した。
まるで、どっかの学園ドラマの世界に紛れ混んでしまったような気分にさせてくれるこの子は、あれだ、「ヨシ子さん、そこおどきになって!」って言う役どころの人でしょ。
「シャルル、このギルドに高額依頼が1件だけ出ていて、その子は、その依頼主の……」
「ジョゼフィーヌ・イヴェット・ドロテ・デュルケームよ」
長い名前ですね……4歳の僕にはとてもとても覚えられません。
「セリア、その依頼、まだ受けていないんだよね?」
「はい」
「じゃぁ、その話はなかったって事で」
綺麗な子だとは思うけど、生理的に無理だ。却下。それにお金の事なら当面心配しなくても大丈夫そうになったし。まったく縦ロールの巻き髪ってどこのキャバクラだよ。
「ちょ、ちょっと待ちなさいよ!」
「何でしょうか? ジョゼなんとかさん」
「ジョゼナントカでは無いわ! 私の名前はジョゼフィーヌ・イヴェット・ドロテ・デュルケーム。特別にジョゼと呼ぶことを許してあげるわ」
「わかりました、ジョゼ、そして、さようなら」
僕はジョゼからセリアへ視線を移し、
「これ、どこかで買い取り出来ないかな?」
「あ、もう手に入れたんですか……ってそんなに!?」
セリアが僕が鎧から取り出した蒼龍の皮を見て驚く。
「シャルル様、そちら、少し見せてもらってもよろしいでしょうか?」
ギルドのお姉さんが、僕が取り出したものを見て、口を挟んできた。僕は素直に蒼龍の皮を渡す。これ、師匠の脱ぎたてホヤホヤの下着だったんだよなぁ……
「これは、何の皮でしょうか……」
「蒼龍の皮です」
「はい?」
お姉さんの顔が固まった。
「これ全部が蒼龍の皮ですか?……ちょ、ちょっとそこで待っててください! マスター! あー、これ1回返します」
そう言って、奥へ持って行きそうになった蒼龍の皮を僕に返し、カウンターの奥にある事務所スーペースに駆け込んでいった。高額素材だから、裏に持っていて僕が後でゴネないようにするための判断だろう。しっかり教育されているね。
「何それ、あなた、そんな気持ち悪い物を持ち込んで、馬鹿じゃないの?」
ジョゼが僕が持っている皮に手を伸ばし指先でつまんできた。
「うえ、本当に気持ち悪い……」
「関係無い人は、触らないでくださいね」
「な、何よ! 雇い主に逆らうって言うの!」
「雇われていませんから」
この子、うざいな。
「君が噂のシャルル君かい、昨日はお世話になった」
ジョゼの相手をしていたら、受付のおねえさんと一緒に、細身の老人が出てきた。
「この村の冒険者ギルドを任されているグラシアンだ。よろしく頼む」
へー、冒険者ギルドのマスターって、何となく筋肉隆々でハゲ頭な人を想像していたけど、この人は身体つきも細いし、どちらかといえば事務職という雰囲気だ。思わずグラシアンの様子を上から下まで舐めるようにみてしまったが、はっと我に返って僕も自己紹介をする。
「シャルルです」
「昨日は色々と大変だったね。ギルドとしても助かったよ。それで、君が持ち込んできたものを、もう一度見せてもらえるだろうか」
「はい、どうぞ」
僕はグラシアンに蒼龍の皮を渡す。
「ふむ……確かにこれは龍鱗だ……君はこれをどこで?」
「村の近くのダンジョンです」
「蒼龍を倒したのか?」
「あ、いえ、さすがにそれは……蒼龍にお願いして一肌脱いでもらったんです」
「脱いでもらったぁ?」
グラシアンが口をあんぐりと開けたまま、固まった。
「はい、龍鱗が欲しいって言ったら、脱いでくれました!」
「そ、そうなのか……蒼龍に会えるだけでも珍しい事なのに……」
「それで、これを買い取ってもらえる所を探しているんですが、どこか知りませんか?」
「そ、そうだな……これ程の量を一度にとなると……」
「我が家で買い取るわ!」
突然、ジョゼが口を出してきた。
「我が家で買い取るから、あなた、私の護衛をしなさい!」
「はいぃ?」
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「えーと、僕がジョゼを護衛して都まで送り届ける。そうすれば僕が持っている龍鱗を君の家で全部買い取ってくれる……という事でいい?」
「そうよ! 簡単な取引でしょ!」
なんで簡単な仕事が高額依頼になっているんだよ……
「セリア、何か裏があるのかな?」
「そうですね……むしろ、裏しか無い気がします」
「断るべきだよね」
「そうですね」
「ジョゼ、残念ながら僕たち……って、スン、何しているの?」
僕がセリアと小声で打ち合わせている間に、スンはジョゼからクッキーを受け取り、口一杯に頬張った。
「主様、美味しい」
モゴモゴ言いながら、僕に報告してくる。
「いくらでも食べれる」
「そう。だったら、私と一緒に都まで行きましょう。いくらでも食べさせてあげるわ」
ジョゼが、そう言いながら、もう1枚クッキーをスンに渡す。スンはそれを受け取り、口に押し込むと、その姿が一瞬ぶれた。
「えっ?」
「主様、依頼受けておいた」
スンが木札を僕に差し出す。それをみて、窓口の中では……
「い、いつの間に!」
「シャルル君だけでなく、一緒にいる子も規格外か!?」
窓口のお姉さんと、グラシアンが騒ぎ始めた。
僕は慌ててスンから木札を奪い取り確認をすると、そこには依頼に関する記述がされていた。今の一瞬でスンはカウンターの内側に移動し、依頼が記載された木札を取って戻ってきたのか!
「僕、こんなの承認していないよ」
「正規の手続き」
スンが僕が持っていたはずの冒険者カードをヒラヒラと見せた。
「え、いつの間に!」
僕の叫びを無視して、スンがお姉さんに冒険者カードを渡す。お姉さんがそのカードを見ながら何やら書付をして、スンに冒険者カードを戻した。
「はい……これで、記録上も、正式な受注となりました」
「断れないの!?」
僕は窓口に詰め寄ったけど、お姉さんは僕から目を逸らして……
「違約金を支払えば……冷やかしを防ぐために、違約金は依頼額の3倍となっています」
「スン!」
「主様、依頼を果たせば問題無い」
「ああ、もう!」
「おーほほっ! 話はついたようね。これであなたは私の護衛よ! さぁ、行きましょう!」
なんか無理矢理だけど、僕たちは都まで行くことになってしまった。そこで困るのは宿に残している子供達だ。僕たちは宿に戻って、リナ達に事情を説明した。
「わかりました、ここでみんなと一緒に待っています!」
リナはそう返事をしてくれたけど、宿屋に子供達だけ残して何日も留守にするなんて、不安しか無い。僕みたいに、攫われちゃうような事も考えないと。
「どうしたらいいんだろう。契約しちゃったから、明日には出発しなければいけないし!」
「そうですね……」
「誰か護衛を兼ねて、色々と動ける大人がいれば……」
「うーん、でも知らない人ですと怖いですし……」
「あー、ギルドで何とかしてくれないかな! 冒険者に依頼するとか……!」
「とはいえ、私たちは今、お金が無いですし……」
「そうなんだよなー! あー、もう龍鱗を持っていても現金化できなきゃ……うん、何?」
セリアと頭を悩ましていたら、スンが僕の鎧を少し引っ張った。
「主様、目の前にいる」
スンが指差す先には……セリア? あ、そうか!
「依頼を受けたのは僕だから、セリアが残ればいいんだよ!」
「え……あ、確かに……でも、私はシャルルの護衛を……」
「今の僕に護衛っている?」
「いらないですね……わかりました。子供達の事は私に任せてください!」
よかった。これで子供達の事は一旦片付いた。
「あと、これ……」
師匠の皮から鱗を5枚、剥がした。
「いざとなったら、これを換金して使って。このくらいだったら、どこかで換金してくれると思うから」
「ありがとうございます、シャルルも気をつけて……」
「うん、ダッシュで行って、すぐ帰ってくるよ!」
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翌朝、ギルドの前には昨日と同じオホホのポーズで待っているジョゼがいた。
「おーほほっ! 遅いわね。雇い主よりも遅く来るとは、どういう心づもりなの!?」
「え、時間通りだと思うけど」
「私に雇われたのなら、5時間前行動が基本よ!」
どんな基本ルールなんだよ。
「で、馬車は?」
「馬車?」
「首都へ行くための馬車はどこにあるの?」
「無いわよ」
「クッキーは?」
スンの言葉にジョゼは懐から小袋を出してスンに渡し、
「クッキーなら持っているわ」
「なら問題無い」
いや、問題あるでしょ! 確実に僕の認識と何か大きな齟齬がある。
「ジョゼ、都までいくんだから荷物はあるよね?」
「勿論! ちょっと待っていなさい」
そういうと、ジョゼはギルドの中に入っていった。
よかった。中に人を待たせているんだ。さすがに付き人くらいは……えっ?
ジョゼは大きな背負い袋を持って出てきた。
「着替えはここに入っているわ」
「それはどうやって持っていくの?」
僕はジョゼの後ろから出てくる人を期待するが、誰も出てこない。
「荷物は当然護衛のあなたが……ああ、この大きさだと、あなた達では引きずってしまうわね。仕方が無いわ。私が持って移動するので、ありがたく思いなさい」
「食料とか水はどうするの?」
「水は途中の村で分けてもらいながらいきましょう。食料はあなた達に獲ってきてもらいたいんだけど……」
そこだけは少し伏し目がちになった。いや、狩猟をするのは問題無いなだけど……どうやら、僕は盛大に勘違いしていたみたいだ。
「ちょっと待っていてね。出発前にギルドに確認してくる」
僕はジョゼとスンを置いてギルドに入った。受付の窓口は少し混んでいたが、気が急いていた僕は大きな声を出してお姉さんを呼んでしまった。
「お姉さん! 昨日の依頼なんですけど……」
「はい、あ、シャルル様。申し訳ありませんが、順番になりますので並んでお待ちいただけますか」
そりゃそうだよね。いくら急いでいるからって、横入りはダメだった。そんな僕の肩を、一番後ろに並んでいた大柄なハゲ頭の男がつかみ、
「なんだよ坊主、順番を……」
「やめておけ、あの小さいのは一昨日の事件の赤い悪魔だ」
何かを言いかけたハゲ頭を、その前にいた男が止めた。
「本当か? ……あ、ああ、いいんですよ。どうぞ、どうぞ、ゆっくりとお話ください。あ、そういえば洗濯物を干しっぱなしだ! 俺は後でくるから、お先にどうぞー」
「おお、俺も婆ちゃんの嫁さんのかみさんの妹が来るって言っていた、このままだと間に合わない。一旦、出直すとするか。うん、どうぞ、どうぞ、お先にどうぞー」
なんか不穏な名前も聞こえたけど、とりあえず並んでいた人達が次々と急用を思い出したのか、ギルドから出ていってしまった。本当に申し訳ない。
「あら、皆さん……はい、シャルル様、お待たせしました。いかがいたしましたか?」
「ジョゼの依頼ですが、護衛と聞いていたんですけどジョゼ以外に誰が一緒に同行するのでしょうか」
「えーと、ジョゼ様の依頼はジョゼ様一人を都まで護衛するという事ですが……」
「お付きの人とか、荷物とか、馬車などは?」
「特に条件としては記載がありません」
そういう事か。
ジョゼの見た目にすっかり騙された……いや、それじゃぁジョゼが悪いみたいだな。これは単に僕の勘違いだ。
僕は護衛といっても馬車でのんびりとモンスターや盗賊からジョゼを守っていればいいのかと思っていた。だけど、よく考えれば、ジョゼが一人で冒険者ギルドで護衛を探すために待っているなんて事がおかしいって思わないといけなかったんだよな。高額依頼なので訳ありだとは思っていたけど、そこはジョゼのオホホキャラに勝手に金持ちの護衛だと思って思考停止してしまっていた。
僕は自分のうかつさに肩を落としつつも、都に行くなら、まずは情報と思い、
「すみません、都までのルートをまとめた地図やガイドみたいなものがあれば購入したいんですけど……」
「2階の購買で購入できますよ」
受付のお姉さんの目は今日はとても優しかった。
僕はこうして悪役令嬢の護衛となった。
話の展開が突飛すぎて、「借金踏み倒し」まで、数話かかりそう!
どうしよう次話のタイトル。降りてこい、タイトルの神様ー!
次話「僕はこうして義賊団の団長となった(仮)」
えっ?? どんな話に??
お、お楽しみー!