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17. 僕はこうして悪役令嬢と知り合った

 タニア婆さんはニヤニヤしながら、ギルドのお姉さんは申し訳そうにしながら帰っていった。


「よし、まずは何人だ……1、2、3、4……11、12」


 ふう、全部で12人か。


「とりあえず、一回、僕たちの部屋にあがろうか」


 広めの3人部屋を取っておいて良かった。宿の受付はジロリとこちらを睨んだけど、ここまでの状況は耳をそばだてていたみたいで、文句は言わなかった。あとで、お金を握らせておこう。


「ちょっと待ってて」


 部屋の前で僕はそう声をかけ、部屋の中に先に入る。部屋の真ん中には、僕がついさっき叩き壊してしまったベッドがあるので、これを片付けないと。


「ググ、お願い。壊れたベッドを片付けて」


 あっという間にベッドが僕の(ググ)に吸収される。


「よし、みんな入っていいよ!」

「はーい!」


 入ってきた子供たちは、両脇のベッドに座ってもらう。


「さて……どうしようか」


 僕は真ん中に立ち、苦笑を浮かべて子供達を見回した。ベッドにはスンとセリアも腰をかけている。二人はこっち側だろ! そう思って軽く睨んだけど、セリアは目をそらし、スンは無表情のまま、こちらを見ている。考えるのは僕に丸投げか! 仕方がない。


「えーと、みんなはどうしてあそこにいたの?」

「はい……私達の住んでいた村の農作物が全部病気でやられちゃって……税金も払えず、種の代金も支払わえなかったので、村の住人全てが借金のカタになってしまったのです」


 子供達の中で一番大きい女の子が代表して答えてくれた。


「村人全員?」

「はい、生まれたばかりの赤ん坊も含めて全員です」


 そりゃひどいな。どんだけ借金があったんだろう。


「大人の人は、そのまま村に残って奴隷として労働をする事になりました。赤ちゃんはさすがにお母さんと引き離すわけにはいかず、大人たちと一緒に村へ残り、私より大きい子供はみんな、別々に買われていきました」


 そこまで言って、ボロボロと泣き出した。

 この子を筆頭に僕と同じくらいの背丈の子供までいる。


「3歳から9歳の子供だけセリで売るという事になって、今朝、この村に連れてこられたんです」

「そうなんだ、じゃぁ、村へ帰れば大丈夫? そのくらいだったら、僕がすぐ送ってあげられるけど……」

「ダメなんです。私達が帰っても、お父さんもお母さんも困らせるだけです。それに村にはお金が無いから、どうせ、また売られる事に……」


 女の子はそこまで言うと、とうとう大声をあげて泣き出した。子供達もそれをみて、さらに大きな声をあげて泣き出す。


 この出口の無い所へ追い詰められた感が半端無いんだけど!


「だから、お願いします。私達を助けてください!」

「「「お願いします!」」」


 練習したかのように、子供達が一斉に僕に向かって頭を下げる。おいおい、僕の方が君よりも年下なはずなんだけどなぁ……


「とりあえず事情は理解したよ。えーと、君の事はなんて呼べばいいかな?」

「私はリナといいます」

「わかった、リナ。とりあえず君が子供達の代表って事でいい?」

「はい、私がこの中では一番年上なので……」

「年上って何歳なの?」

「もうすぐ10歳になります」


 背の高さは結構あるし、体型はスレンダー。顔の作りも大人びているのでセリアとならんでも、そんなに年齢差があるようには見えなかったけど、まだ 9歳なんだ。少しびっくり。


「セリア! この子達をしばらくこの宿で泊まる事ができるよう、交渉してきてもらってもいいですか」

「はい、すぐ行ってきます。あと、ベッドの弁償もしないと……」

「君達の事は僕に任せてみて。どこまで出来るかわからないけど、出来るだけの事はしてみるよ」

「はい……もし可能ならば、みんな一緒に住めるようにしてもらえると助かります……小さな子は年長者でみますし、大きな子は働かせますので……」


 子供達も一生懸命頷く。えらいね。まだ小さいのに働くなんて……この世界では普通の事なのかな。でもそうなると、別々に養子に出して引き取ってもらうという訳にはいかないか……。


 僕がこの先の事を考えていると、セリアが戻ってきた。


「シャルル、しばらくなら代金を払えば置いてくれるって事で納得してもらいました。それとベッドも弁償してきました。これで、しばらくは食事と寝る所の確保はできましたが……持ちあわせでは長くは持ちません。食事込でだいたい2週間という所です」


 だよね。お金の事はセリアに任せちゃっているけど、3人+12人が宿で食事付きで寝泊まりするとしたら、とんでもない金額になっていきそうだ。


 タニア婆さんとギルドにうまく言い包められた感じで、子供達の事を押し付けられただけで、本来、僕が責任を取るような話でも無いはずだ。でもこのまま放置して、この子たちをセリにかけて奴隷として売り出すような事はしたくない。自分の意思で決めて、自分の意思で行動が出来るようにしてあげたい。


「よし、まずは当座の資金と、宿を出て住む所の手配。その後はそこでの生活基盤の確立を考えよう。お腹は空いている? 朝ごはんは食べた? まだ? よし、それなら朝ごはんを食べてから動きだそう! 腹が減っては戦は出来ぬだよ!」


 もう一度セリアに交渉してもらって、宿の食堂で15人分の朝食を用意してもらった。急なお願いなのに、すぐ出してもらえたのは流石だね。子供達は久しぶりにちゃんとした食事をもらえたらしく、とても嬉しそうだった。子供達の笑顔を見ていると、僕も何だかホッとする。僕も子供だけど。


 朝食を食べた後、リナ達を部屋に上げて僕たちは今後について話し合った。


「セリア、てっとり早くお金を稼ぐにはどうしたらいいの?」

「そうですね。ちょっと難しめの依頼を受けるか、ダンジョンで珍しい素材か何かを手にいれるくらいしか無いと思います」

「それはどのくらいの稼ぎになる?」

「そうですね。1日で出来るような依頼ですと多くても宿代の半日分くらいにしかなりません。素材なら物によるとしか……」


 となると、まずは素材集めかな。


「どういう素材が高く売れるの?」

「そうですね、やはりドラゴンに関係する素材が一番高値で取引されると思います」

「ドラゴン? それは僕が着ている鎧みたいなもの?」

「はい。竜鱗なら1枚で宿代1週間分は賄えます」


 そうか。師匠(ミヤ)に頼んで鱗を分けてもらうかな。でも、お腹にちょっとかすり傷をつけただけで痛がっていたからなぁ……いいや、頼むだけならタダだから、頼んでみるか。


「なら、ちょっと僕はダンジョンまで行って、師匠に鱗を貰えないか聞いてくるよ」

「蒼龍にですか? 大丈夫ですか?」

「うん、師匠なら怒りはしないと思う」

「わかりました。私は冒険者ギルドで高額依頼が無いか聞いてきます。それと、今回は押し付けられたという事もあるので、住む場所くらいは何とか出来ないか、交渉をしてきます」

「そうだね。それは是非、そうしても貰おうよ」


 ギルドの交渉はセリアに任せておけば大丈夫だろう。そうと決まれば、さっそく行動だ。師匠は宿題があったりして気まぐれだから、いつ出てくるか分からないし、早めに行って待っていた方がいい。


「スン、それじゃぁ、一緒に行こう!」

「ん」


----- * ----- * ----- * -----


 スンと手を繋いでダンジョンまで一気に駆け抜けた。

 縦穴を飛び降り、あたりを見回す。


「あいつらの姿は無いね」


 スンもキョロキョロして周りをみるが、人影は勿論の事、誰かがいた形跡も残っていない。


「ダンジョンの中に入る事を選択したのかな?」


 彼らも僕がそうしたように、前に進んで生きる道を選んだのだろうか?

 僕はそのまま、ダンジョンの坑道へ飛び込んでみた。


「誰の気配も無しと……スン、何かわかる?」


 スンは顔を横に振って、否定の意思を表す。


「とりあえず奥まで行ってみようか」

「ん」


 少し歩き出すと、岩肌に裂け目が出来て、黒い大きな蜘蛛が出てきた。


「シャー!」

「お、久しぶり!」


 僕は手を上げてみる。本当は2日ぶりくらいなんだろうけど、僕にとっては数ヶ月ぶりだ。


 とはいえ、当然、挨拶が返って来る事なんてなく、ゆっくりと黒蜘蛛の目が赤く染まり、白い粘液を飛ばしてきた。僕はそれを特に避けもせず蜘蛛に一気に近づき、蜘蛛を殴り飛ばす。蜘蛛が坑道の奥の方まで飛んでいき、それっきり動かなくなった。


 続いて両側の岩肌に新しく裂け目が生まれ、白い蜘蛛と黒い蜘蛛が顔を出した。


「ほい!」


 黒い蜘蛛の身体が全部出る前に僕は飛び蹴りで、蜘蛛を裂け目の中へ押し込む。黒い蜘蛛はその衝撃で潰れてしまったらしく、体液を大量に垂らして、そのまま動かなくなってしまった。


「そっちは……」


 僕が視線を移すと、白い蜘蛛は僕の視線を避けるように下を向いて、裂け目に戻った。


「そこから出てこないなら、見逃してあげるよ」


 僕はそう言って裂け目の前を通りすぎる。前回の蜘蛛にはここで襲われたんだけど、この蜘蛛は出てこない。


主様(ぬしさま)、あれ」


 スンが割れ目の中を指差すので、僕は少し戻って割れ目の中の白い蜘蛛をよく見る。僕が視線を向けると、蜘蛛は少しでも奥に逃げようと、身体をよじる。


「牙の所」

「ん? あれは……」


 牙の部分に布のような物が引っかかている。見覚えのある生地だ。


「あいつら、こっちに入ったんだね」


 結局、ジャンユーグとガエルは蜘蛛(こいつら)に食べられてしまったようだね。合掌。これで僕の復讐も終了かな。あ、ついでに!


「ググ、昨日の死体を出して」


 (ググ)にお願いすると、2人分の死体と肉片が坑道の地面に出てきた。


「蜘蛛さん、ついでなので、これも処分しておいてね」

「主様、餌付け?」

「そんな事出来るの?」

「エサ代が大変」


 それはやめておこう。毎日死体を運ぶ訳にもいかないし、こんなのを連れていったら村は大混乱だ。


 僕は死体を残してダンジョンの奥へと進んだ。


----- * ----- * ----- * -----


「ししょー!」

「はーい」


 蒼龍の間に入って大声を出すと、大声で師匠を読んでみた。すると女子高生モードの師匠が天井からゆっくりと降りてくる。セーラ服のスカートの中とヘソからブラまで丸見えなんだけどね。小ぶりなオッパイ、ありがとうございます。


 ちょっとした至福の時間が過ぎ、師匠が床まで降りてきた。


「シャルル、昨日ぶりー! 元気だった?」

「はい、おかげ様で元気です」

「どうしたの? また修行しに来たの?」

「いえ、今日は師匠にお願いがあってきました」

「なになに」

「師匠の鱗をもらえませんか?」

「何に使うの!?」


 師匠が腕で胸を隠すような仕草をする。顔が完全に引いている。

 何にって、ドラゴンの鱗なんてナニに使えるもんなの?


「ちょっと売っ払って、お金にしたいなーなんて思って」

「えー、恥ずかしいなぁ……」

「そこを何とか! 12人の子供達の生活がかかっているんです」


 僕は手早く12人の子供達を引き取る羽目になった事を伝える。


「なんか面倒な事になったね。うーん、分かった! ちょっと待ってて、さすがに恥ずかしいので着替えてくる!」


 着替えてくる? どういう意味でしょうか?


 師匠はもう一度パンツを見せながら天井に戻ると、消えてしまった。


「スン、僕は師匠の鱗が欲しいだけなんだけど、なんで着替えてくる必要があるのかな?」

「意味不明、謎」


 スンも分からないみたいだ。


「お待たせー」


 そんなに待たされる事もなく、師匠が天井から降りてくる。

 相変わらずセーラ服のままで、特に着替えたようには見えないけど……ん? パンツは相変わらず丸見えたけど、ブラジャーが見えない。でもセーラ服の上から見える限りは……オッパイが少し育っている? そんな馬鹿な! だけど、シャルル(アイ)から伝わってくる情報は、カップがBからCに変わった事を示している!


 僕は降りてくる師匠のオッパイをガン見していた。


「はい、これ」


 そんな僕の視線も気にせず、師匠は手に持っていた白い布を差し出した。


「へっ? これって……」


 僕が受け取ったのは、まだ暖かさの残る……


「パンツとブラジャー?」

「シャルルは、まだ小さいから特別だぞー。さすがにもう少し大きくなったらボクもこんな事出来ないからねー。着用済み下着を売るような悪い子じゃないんだから……」

「し、師匠? 僕が欲しいのは下着じゃなくて鱗です。竜鱗です!」


 可愛い女の子の下着をもらって、嬉しい……じゃなくて、これを売っても貴重な素材とはならないよね? 確かに素材は良さそうだけど……


 でも、脱ぎたてのブラジャーがあるという事は……僕はじっと師匠の胸元をみてしまう。先ほどまではなかった谷間が少し見える……こ、これは!


「え、な、何? あ、やだー、ちゃんと着けているって、ほら」


 僕の視線を感じたのか、師匠は胸元を開いて見せてくれる。そんな、うれしし……もとい、はしたないことはしちゃいけません。でも、そこには確かにブラジャーが見えた。


「ね、ちゃんと新しいのに変わっているでしょ。あ、そのままじゃわからないか。ちょっと待ってて! ほい!」


 師匠がピカっと光ると、目の前に青い鱗のドラゴンが現れた。それと同時に僕が手にしていた下着が姿を変える……


「え、これって!」

「そう、脱ぎたてホヤホヤのボクの皮だよ」


 僕の手の中にあった下着が、青い鱗を沢山つけた竜の皮に変わっていた。これって……脱皮? だから中身が育ったの?


「ね、それだけあれば、十分でしょ」

「は、はい! 大丈夫です!」

「主様、大金持ち」


 鱗1枚で宿代1週間分って事は、これだけあれば年単位でいけるよ。スンも心なしか嬉しそうだ。

 それにしても着替えてくるって、こういう事だったんだ。


「ありがとうございます! 師匠!」

「ボクも役に立てたみたいで嬉しいよ。早く行ってあげな」

「はい!」


----- * ----- * ----- * -----


 師匠にお礼をいって僕たちは元来た道を急いで戻る。

 さっき置いていった死体は綺麗に片付けられているな。蜘蛛さん、良い仕事をした(グッジョブ)


 喜び勇んで、ダッシュで宿まで戻った。


「セリア、いるー?」

「まだ、戻ってきていません」

「そうか、ギルドかな?」


 リナの答えをきいて僕はすぐ冒険者ギルドへ向かった。


「セリアー、いるー?」


 ギルドのドアを開けると、窓口で何やら話をしているセリアの姿があった。


「セリアー! 戻ったよー!」

「あ、シャルル、ちょうど……」

「おーほっほ! あなたが私を護衛してくれる優秀な冒険者? 随分、小さな子ね? 大丈夫なの?」

「はい?」


 セリアの横にフリフリのドレスをきた金髪巻髪の高校生くらいの女の子が、片手を腰に、もうひとつの手を口元にあて、こちらを見下ろしていた。


 僕はこうして悪役令嬢と知り合った。

孤児院経営といっても、本格スタートはまだ先です。まだ、子供を引き取った段階。それよりも! 出てきました悪役令嬢! 何とかプロット通り! さて、一体彼女は何する人ぞ!


次回「僕はこうして借金を踏み倒した」

えっ? 借金? 誰の? 適当なプロットに振り回される作者の運命はいかに!


お楽しみに!

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